第35話 「組織の意義」
一見すると力の無い優男のネメシスを見ているだけで、鳥肌が止まらない。ずっと上位存在に見られているような、捕食対象として認識されているような錯覚に陥る。
「ゼノヴェル君だったかな、君は感じ取りやすいようだから少し抑えるよ」
ネメシスがそう言うと、一気に感じていた圧が無くなる。
俺は神導武器を解除し、その場で四つん這いになりながら、息を整えるために何度も荒い呼吸を繰り返す。噴き出していた汗が床に落ちて染みを作っている。
「大丈夫ですか......ゼノヴェルさん」
心配そうに声を掛けてくるカルネの様子を見るに、彼女はネメシスを見ても何も感じていないようだ。なぜカルネが何も感じないのかはわからないが、今は気にする余裕もない。
少し時間を置いて何とか立て直せるまで回復することが出来た俺は、気合で立ち上がる。
「心配をかけた、もう大丈夫だ。ネメシス......さんも申し訳ない」
「言いづらければネメシスでもいいよ。そんなことで目くじらを立てたりしないさ。まずは座って話そうか。――ああ、カルネは席を外してくれないかな?」
ネメシスの言葉を聞いてカルネは何も言わずに頭を下げて部屋を出ていく。
俺は言われた通り、ネメシスの前の席に腰を下ろした。
「さて、初めましてゼノヴェルくん。ずばり、君がここに来た目的の答えを伝えようか。私は君を縛るつもりもないし、自由にしていていい。そして、君を捨てた者たちのように裏切ることは無いとここで誓おう」
ネメシスは突然そんな言葉を口にする。
「は......?待て、ここに来た目的を知っているのはまだ理解できる。だが、俺を捨てた者たちだと?なんで、そんなことを知ってるんだ!」
こいつには何が見えてるんだ。森を出てからあったやつには一言も俺の素性を話してないんだぞ。
なのに、俺の過去を見て来たようにドンピシャで当ててきた。
ネメシスに全てを握られている感覚に陥っている俺を見ながら、笑みを崩さないネメシスは言葉を続ける。
「なに、簡単なことさ。私は未来を見るスキルを持っているんだ。不確定だが、先にある未来の可能性をね。その中でゼノヴェル君が私に直接過去の出来事を教えてくれたのさ」
「未来を......」
「複数ある未来のひとつだから確定では無いけどね。それに、君の持つ龍の瞳も魂の色を見れるのだろう?それも私からしてみれば未来を見る力と遜色ないほど強力な力だと思うんだけどね」
そこまで知っているのか......ネメシスの言葉を信じるならこれも未来の俺が話していたということだろう。
それに、スキルであればまだ納得出来るしその方が安心だ。俺の殺した貴方は夢を魅るも殺した相手の夢に入れるから同じくらいの無法だろう。
龍の瞳と同じレベルのスキルだとネメシスは捉えているということだな。
「なる、ほどな。まあ、そこは理解した。ということはネメシスは俺のことをいくらかは知っている状態ということだな」
「そういうことだね。勿論、全てを知っているわけではないし未来のゼノヴェル君とは違う行動を今のゼノヴェル君がとる可能性は大いにある。その前提で続きを喋るよ」
ネメシスはくるくると空中で指を回すと紋章のような絵が浮かび上がる。
「これが私たち闇ギルドの証明であり、誇りの紋章『ウロボロスの円環』だ。永遠にこの世から悪が、鉱魔獣が無くならない。それでも、我々は最後まで戦い続け屈せずに不滅であろうという意味がある」
その紋章は蛇が自分の尾を加えている円で、その周囲には様々な種類の武器が配置されている絵だった。
「だからこそ、どんな依頼でも受けるしその過程は気にしない。ただ、私欲による暗殺や悪事に利用されることは許さないし、そのような依頼を出して来た依頼主を処罰することもあるんだ」
ネメシスは一拍置いたあとに、例えば......と続きを話し始める。
「カルネに聞いたと思うけど、ポルコやベノムのような、弱者を虐げる存在を排除する依頼であれば喜んで受ける......くらいの認識でいてくれ」
「それは素晴らしいな。俺も心から腐った思考を持つやつは断罪するし、利用されることも絶対に許さない」
「君はそういうだろうね。――ひとつ良いことを教えてあげよう。君はどの未来でも闇ギルドに入ってはいるよ、その結果の善し悪しは置いておいてね」
――それなら、俺がどれだけ考えても無駄そうだな。セバスとネメシスから聞いた話を頭で纏めているが、俺にとって不利な点が一つも見当たらない。
であれば、もう割り切って最後に確認だけさせてもらい、決めるとしよう。
「最後に質問をさせてくれ。ネメシス、お前は......闇ギルドはシャーマ様へ不義理になる行動をしないと誓えるか?」
俺の言葉を聞いたネメシスは笑みを深めてから口を開く。
「その言葉を待っていた。私の回答はYESだ、どの未来でもこの言葉は変わらない。ゼノヴェル君ようこそ我が組織、闇ギルドへ」
ネメシスは迷う素振りも見せず、即座に回答してみせた。
なら、俺も腹を決めよう。全てはシャーマ様のために。
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