第34話 「闇ギルドの長」
「『泥酔の酒場』ね、酒場が隠れ家っていうのはお洒落でいいな」
「夜だけ営業しているので朝、昼は所属している人がメインで訪れる時間帯ですね。その場合はノック三回のあと少し待っていれば鍵が開きます」
俺に説明したあと、カルネは言葉通りに扉へ軽くノックを三回したあとにその場で待機した。
すると、カチャッという音がしてゆっくりと扉が開いていく。
「さあ、ついてきてください」
俺は中へ入っていくカルネの後ろについていく形で泥酔の酒場へと足を踏み入れた。
酒場はその名前が似つかわしく無いと思えるほど、煌びやかで優雅な内装をしている。
机や椅子は綺麗に整頓され、周りを軽く眺めても汚れひとつない。照明や小道具全てが一切の乱れも無く、完璧な整頓をされていた。俺の知る言葉で表すなら『大貴族の部屋』と呼んでも差し支えない。
そう感じることしか出来無いほどの店内に圧倒される。
「何しているんですか?ゼノヴェルさん、行きますよ」
「......ああ、すまない」
これまでの人生で見たことが無いほどの景色に圧倒されていると、その様子を不思議に思ったであろうカルネが声をかけてくる。
俺は何でもないようにカルネの居たカウンターの前に向かっていった。
そこには、執事のような風貌の老人が立っている。
背筋は伸び、モノクルをかけてスーツを着こなす老人は俺と目が合うと頭を軽く下げてから口を開く。
「お初にお目にかかります、私は闇ギルドの受付兼泥酔の酒場の店主であるセバス・ウルフと申します。カルネ様が連れて来たということは闇ギルドにご用事ですか?」
「俺はゼノヴェルという。ここに来たのは断罪できる場所を求めてきた。俺は畜生以下の思考を持つ悪人が許せなくてね、そんなことをカルネに聞いたら快く案内してくれたって感じだ」
「承知いたしました。では、私の方から簡単に闇ギルドについて説明させていただきます」
そう言ってセバスはカウンターの下から一枚の紙を取り出して上に置いた。
「私たち、闇ギルドの信念はただ一つ。弱きを助け、悪に屈する事なかれです。これさえ守るのであれば、どんな出生も思想でも構いません。そのためには規律も法も関係なく、依頼の達成のみを考える集団。それが闇ギルドです」
「弱きを助け、悪に屈する事なかれ......」
「相手が規律や法から逃れて悪事を働くのであれば、こちらも全てを覆して滅することだけを考えることが求められます」
それは何とも俺の望み通りの組織だ。俺がシャーマ様に魂を捧げるまでにしなければならないことに合致している。
普通であれば迷いなく入らせてくれと願い出るくらいだろう。
だが、そう簡単に首を縦に振れない理由が俺にはある。
「素晴らしい信念だ。心から賛同するし、一緒に仕事をしたい気持ちもある。だが、俺の心の弱さが理由で人を信用することが出来なくてな......そちらとしては面倒だとは思うが、闇ギルドのトップと話をさせて欲しい」
俺はしっかりと頭を下げてセバスに頼み込む。
相手からしてみれば、俺は連れられてきたただの子供。そんなやつの話をトップが聞く理由なんてないだろう。
それでも、何処かに所属するという行為は俺の意思を、俺の身体を預けるのと同義。
だからこそ、その預ける先の人物とは一度話しをしたいんだ。
俺の身勝手な願いを聞いて、セバスはすぐに頷いた。
「もちろんでございます。基本的に主は暇を持て余しているので是非お会いください。多少さぼり癖はありますが、信用には値する方です。カルネ様、ゼノヴェル様を主の下へとご案内していただけますか?」
「連れて来たのは私ですしね......わかりました。ゼノヴェルさん、上に行きましょう」
「ああ、手間をかけてすまない。セバスも許可を頂けて感謝する」
「いえ、心ゆくまでお話しなさってください」
俺はカルネに連れられて受付の横にある階段を登り、上の階へと向かった。
廊下は赤い布が敷かれた道が広がっており、下の階と同じく目が奪われるほどの景色だ。
扉を何個か過ぎて一番大きな扉の前でカルネが止まる。
「ここがトップの部屋です。この時間は絶対に居るので入りましょう」
「よろしく頼む」
カルネがノックして「トップ、お客様です」と扉の奥にいる人物へ声をかける。
「入っていいよ」
その声に答えるように優しさを感じさせる声が返ってきた。
「失礼します」
カルネが扉を開いて、中へと入っていく。その後ろをついていくと、中には革製の椅子に座っている薄水の髪色を持つ青年がにこやかな笑顔で座っていた。
だが、俺はその男を見た瞬間に本能的な恐怖を感じて無意識に神導武器を取り出した。
勝てないと感じるほどの圧を感じる。男にとってはただ座っているだけなのだろう。だが、俺からしてみれば木龍よりも強い化け物が口を開けて獲物が入ってくるのを待っているようにしか見えない。
極めつけに、龍の瞳で魂を確認することもできなかった。
この男が少し本気を出せばこの世から俺という存在はすぐさま消滅するだろう。
「いきなりどうしたんですか、神導武器なんか出して」
「カルネ......お前は何も感じないのか?」
驚いて、不思議そうに俺のことを見つめるカルネを見て(正気か、こいつ)という文句が口から洩れてしまう。
そんな様子を笑顔を絶やさずに見ていた青年が口を開いた。
「その歳でそこまで力量を測れるなんて、君は凄い優秀なんだね。――ようこそ、法から逃れる悪人を裁き、弱きを助ける組織闇ギルドへ。私が闇ギルドのトップ、ネメシスだ」
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