第29話 「暗影の信徒」
風が吹き、俺とシャーマ様の髪を揺らす。
「シャーマ様にとっては俺なんかの魂を貰ったところで迷惑かもしれないです。でも、死んでもシャーマ様と一緒にいられるなら、俺は道に迷わずに前に進むことが出来るんです」
『......最後の確認じゃ、もしかしたらこれから先の未来、来世まで一緒にいたいと思える伴侶と出会えるかも知れぬ。その時にも後悔をせぬことを誓えるか?』
「絶対にありえません。今、この瞬間に俺の身体と心はシャーマ様へ渡しました。信徒としてシャーマ様に貰ったこの命を最期に渡せるんだったらそれが一番の幸せだって言い切れます」
シャーマ様は目を閉じ、少し悩んだ素振りを見せた後に一度頷いて口を開く。
『その覚悟、確かに受け取った。ゼノヴェルの気持ちに妾も答えよう。我、暗影の神シャーマが承認する。ゼノヴェルは暗影の信徒であり、妾が死後の魂を貰い受けることを』
両手を胸の前で組んで祈るように再び目を閉じたシャーマ様の声が耳に届いた。
頭の中に機械的で無機質な声が響く。
『称号:暗影の信徒を獲得しました』
ああ、なんて俺は幸せなのだろう。
『今、世界から正式に認証されたのじゃ。今この時からゼノヴェルは我の唯一の信徒であり、死後も妾のことを信じる殉教者となる資格を持つ者であるとな』
「シャーマ様、ありがとうございます。俺の生涯を賭してシャーマ様の憂いや神敵になりうるもの全てを排除すると誓いましょう。そのために俺の魂はあるのですから」
俺はその場に跪き、決意する。
『......妾としてはゼノヴェルには自由に生きて欲しい気持ちもあったんじゃがな。だが、ここまで妾のことを想ってくれる者に強要するものではないしの』
何処か諦めのような、それでいて嬉しそうな表情をしたシャーマ様はひとつ咳払いをして俺を指さす。
『では、少し神らしいことをしてみようかの。我が信徒ゼノヴェルよ、暗影の神シャーマ様から神託を授ける』
「は!何なりとお申し付けください」
『これからお主には森を出て、ある街に行ってもらうのじゃ。そこではお主のことを捨てた村長など甘く見えるほどの邪悪が渦巻いておる。お主にはその街で諸悪の根源を断罪することを命じる』
邪悪の集まる街か。何とも慈悲を与えそうな下衆どもが集まっていそうな場所だな。シャーマの障害となる者どもを完璧に駆逐しよう。
「承知しました、我が神シャーマ様。必ず、慈悲という名の悪夢を街中に魅せてやりましょう。宜しければ場所と街の名前を教えていただければ......」
『そうじゃな、街はここから西の方角に出て少し遠くの位置にある。ゼノヴェルの身体能力であれば走っても問題なさそうじゃが、途中で誰かの助けを求めるのも一興かの』
そう言ってシャーマ様は西の方角であろう場所に顔を向けた。
そっちが西なら、俺の居た村は東方向にあったんだな。
――真逆の場所に赴くことにはなるが、いつか必ず村にも慈悲を与えにいく。最高のシナリオを用意してな。
『そして、街の名前じゃが正確には都市とも呼べるほどの大きさでの。統べる長がおらず、外の者が勝手に付けた名称は、犯罪都市コラプト。行き場の無い者が集まる堕落者たちのたまり場じゃ』
「犯罪都市コラプト......ありがとうございます。それだけ聞ければ後はどうとでもなりそうです」
犯罪都市か......どんな場所なのだろうか。いずれにせよ、まともな思考をしているやつは少なそうだな。
『そこでの使命を終えたとき、またゼノヴェルの前に現れることを約束しよう。しっかりと見守っておるからの』
「嬉しいですね......俺にとってシャーマ様に会えることこそ最高の褒美です。そのためにもコラプトに行き、必ずシャーマ様が満足いく結果をお届けします」
手を心臓に置き、頭を下げる。
『いけ、我が信徒ゼノヴェルよ。この世の畜生とそれ以下の思考を持つ愚者を狩るのじゃ』
「神に誓って!」
身体が透けていくシャーマ様の姿を見送りながら心の中で誓いを立てる。
シャーマ様のために生き、シャーマ様のために死ぬことを。
言葉のあとに残ったのは、完全にシャーマ様の気配が消えた森のなか。
もうここにいる理由は無い。向かおうか、慈悲を与えるために。
【作者からお願い】
もし少しでも、
「面白い」
「続きが読みたい」
と思っていただけましたら、
下にある☆をタップして
★★★★★にしていただけると嬉しいです
応援、感想お待ちしております




