第24話 「生に飽きた木龍の願い」
『もう儂は疲れた、昔は戦いに明け暮れて世界中を飛び回り、人の国を荒らしまわったものよ。だがな、いくら人を殺しても争いは無くならなくてな、終わりの無い人との戦いに飽きたのだ』
「まあ、どれだけ力を持っていても全てを滅ぼすことは難しいだろうからな。人は危険が訪れれば、防衛本能から新たな対策もしてくるだろうし、いたちごっこになるだろう」
古くから鉱魔獣が生まれ、人を害するこの世界で人々が自身のテリトリーを守り続けてこれたのは、神導武器やステータスの存在もあるだろうが一番は知恵があったからだ。
村でも使っていた魔蒸器具のような便利な道具を作り、文明を発展させてきた歴史を持つ人々は木龍からしてみれば殺しきれず、小さな傷を付けてくる存在だろうな。
『そうなのだ、人の百や千ほどなら蹴散らしてやるがその中でも時に儂に傷を負わせる力を持つ個体も存在した。その者を殺し、次の戦いに臨むために傷を癒している間にまた増えて対策も増えている。そんなことを繰り返すことに疲れたのだよ』
「それでこんな森に引きこもっていたというわけか......だが、殺してくれと願う程なのか?」
戦いに疲れたのだからゆっくりと余生を過ごしたいという気持ちもわかる。俺には測れないほどの歳月を生きてきたのだから、完全に理解することは出来ないがそれでも死にたくなる程だとは思えない。
疑問を持っている俺の様子を見て木龍は一度溜息を吐いたあと、理由を説明し始める。
『儂もただ寝ていられるならこんなことを頼んだりしないわ。――ずっと頭に響いてるのだよ。人を殺せ、人を全て滅して鉱魔獣が頂点の世を作れ、とな。最初は煩いくらいだったのだが、最近はもう安眠が出来ない程に大きくなった。』
そんなこともあるのか......でも、確かに俺の中に潜む魂も狩りを行ったあとは愉悦と歓喜の声を上げているのを感じる。
それが意思を持ち悪化しているようなイメージなのかな。
「でも、それなら自殺するとかは考えなかったのか?そこまで辛い想いをしているなら選択肢にも入りそうだが......」
『残念なことにそれは出来ないのだ。儂がどれだけ自分を傷つけようとも、例えば火山に身を投げ出しても全て即時に再生されてしまう。そして、それを封じる術も持ちあわせていない』
「だから、殺してくれる者を探していると......納得は出来るな」
寿命も無く、自死も出来ない。そうなると木龍を待つのは永遠の苦しみか狂った破滅だけだ。
どちらにせよ、戦いを望んでいない木龍にとっては良い結末は望めないだろう。
「俺も鉱魔獣との混じり物だからわかるが、餓死も難しいからな。空気中の魔力を自動的に吸収することで、極度の空腹を感じることは無いし」
『そこでお主に頼んでみようと思ったのだ。ただここで寝ていても解決しないなら、確率は低くても新しい出会いに託してみようとな』
シャーマ様を信じる者として、ここまで苦しめられているものを見捨てることは出来ない。過去に人を害していたとしても、今の木龍は助けを求める老人と大差無いだろう。
ならば、俺が森で手に入れた力を全て賭けて挑戦してみようじゃないか。
俺は決心をするように胸の前で手を握りこみ、正面を見て木龍と目を合わせる。
「この俺、ゼノヴェルに木龍からの頼みを受けさせてもらいたい。俺に殺すことは出来ないかもしれないが、他の方法にも心当たりがある。全て試させて欲しい」
『もう儂に出来ることは全て試した、こんな老骨に貴重な時間を使ってくれるというのなら是非お願いしたい』
そう言って、木龍はお辞儀をするように頭を下げてくる。その姿からは俺に対する感謝の気持ちが深く伝わってきた。
――それから俺は、あらゆる攻撃を木龍へと試していった。大鎌を最大強化した一振りや、魔法で魔力を奪った直後に攻撃を加える方法に死魔力と聖光魔力を混ぜたエンチャントなど、思いつく限りの手は尽くした。
だが、傷をつけることには成功したがその命を狩り取るまではいかなかった。
防御力の高さもそうだが、一番の問題は一度死んだとしても驚異的な回復力で復活するということだった。
木龍が言うには『儂が死にたいと思っても鉱魔獣の本能が死の淵から呼び戻してしまう』ということらしい。
「はぁ、はぁ......まじで硬いな」
『すまんな、ゼノヴェルよ。木を司る儂の性質は再生力であり、攻撃方法も森林を生やして質量で押しつぶすことを得意としている。そのため命を失おうとも無意識下で再生してしまうのだ』
問題はそこだよな......俺の火力をあと3倍以上あげたところで木龍を殺しきれるとは思えない。あと試していないのは夢魔法と月光魔法くらいか。
「ん、待てよ?木龍は一度死んではいるんだよな」
『ああ、そうだな。死を迎えてはいるが根を張るように身体に魂が固定されていることで、再生された身体に魂が残り復活するという流れだ』
死んでいるなら俺の殺した貴方は夢を魅るで夢の中に潜ることは出来るよな?自死でも発動することが出来たんだし、夢の中でなら俺は自由に力を想像することが出来る。
なら、木龍の夢に入り鉱魔獣の殺意を抑えるくらいの戦いをすれば木龍のことも殺せるのでは?
「木龍、まだ可能性はあるぞ」
『なに?もう、試せることは全てやったように見えたがな......』
「これで無理なら俺には打つ手が無い。最後の挑戦だ」
そういって俺は断罪の光を発動させて木龍から魔力を吸収していく。
ただ魔力を使える程度では駄目だ。マジックタンクが限界だと悲鳴をあげるまで吸い続けろ。
光が刺さった木龍は、これほどであれば痛みを感じることも無いように平然としている。
だが、着実に魔力は俺へと流れてきている。
空が朝焼けから満月に変わるほどの時間をかけて、黒と緑が混ざったような色の魔力を限界まで蓄えていく。
『おい、ゼノヴェルよ。そこまで儂の魔力を吸っても大丈夫なのか?常人であればそんな魔力を体内に入れたりしたら内部で暴れまわり、死に至るのだが』
「心配するな木龍よ、それはこの森に来てすぐに経験済みだ。それにもう準備は整った」
木龍の不安そうな視線をよそに、俺は吸収した魔力を死魔力へ変換して試練の大鎌へとエンチャントする。
大鎌の刃に宿った漆黒の魔力は、木龍の首を搔っ切ることが出来るほどの大きさまでになっていた。
「これまでの検証で木龍の命を刈り取ることが出来た死魔力だ。これであれば少しくらいは再生を遅らせられるだろう」
言葉のあとに、空中へと試練の大鎌を放り投げると同時に俺も跳躍する。
回転する大鎌を掴んだ俺は重力のままに、木龍の首に向かって振り下ろした。
「生あるものに終わりを告げる。マルスピリオド発動!」
マルスピリオドは相手の生に終わりを告げる外法の大鎌のアーツ。死魔力を用いることを前提としたこの技は刃が通ったものを確実に死へと誘う。
死魔力が木龍の鱗に触れたとき、その細胞全てを腐敗させて刃の通り道を作っていく。回転しながら首を囲む絶死の刃は確かに木龍の命を刈り取った。
『殺した貴方は夢を魅る発動』
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