第23話 「特殊な願い」
血と油が混ざった匂いが広がる森のなか。
目の前には数え切れないほどの首と胴が離れた死体が散乱している。
「おい、逃げるなよ。せっかく慈悲を与えてやるっていうのに」
俺は背中を向けて逃げようとした大きなネズミの尻尾を掴み、強引に引っ張って地面に叩きつける。
『ヂュウウウ!!??』
骨が折れたのか悶えていることしか出来ないネズミを踏みつけ、大鎌を近づける。
「逃げるような魂はいらない。ソウルブレイク」
首から大鎌の刃を入れて、心臓から尻までを流れるように切り裂いていく。
ソウルブレイクは特定の軌道を描いて殺すことで、魂を壊し再生を不可能にする技。
こいつのような戦う力も無く、仲間のために立ち向かう気概も無い臆病者には適した結末だろう。
「この一帯の鉱魔獣は狩り尽くしたか」
周囲に魔力探知をかけながら、反応が引っかかるかを確認する。しばらく探知範囲を広げてみたが、特に魔力を感じることは無い。
「じゃあ、次の場所にいくか......その前に、アトラクトドレイン」
この技は蹂躙の途中で血肉を回収するのが面倒になった俺が開発したスキルだ。
地面に手を付けてスキルを発動させる。すると、俺の手で殺した全ての死体が魔力の粒子に変わり、俺の方へと集まり始める。
「あーー」
その魔力を吸収するために口を大きく開き、息を吸い込む。集まっていた魔力は方向を変え、俺の口の中に吸収されていった。
魔力が喉を通り、体内へと沈んでいく。
「ふぅ......結構狩ったがそろそろ終わりそうだな」
メタルスチームウルフを狩った日からあと数日で一年経つ。
シャーマ様のために毎日狩りに出ては、肉と魂を吸収し己の糧とする日々を過ごしていた。
これといった大きな出来事も無く、ただ目の前の鉱魔獣を狩る。
その過程にはメタルスチームウルフよりも強いやつはいたが、それも苦戦するほどでは無かった。
感情の起伏が消えていることに気づいたのはいつだったか。それでも首を跳ねる手は緩まなかった
シャーマ様へ貢献したいという一心で首を刎ねる1年。
だが、それももう少しで終わる。
この森にいる鉱魔獣は脅威にもならない雑魚を除けば、あと一匹。
俺の魔力探知に気づいたにも関わらず、森の中心で微動だにしない巨大な反応だけだった。
「こいつを狩れば森の鉱魔獣は、ほぼ狩り尽くしたことになる」
だが、こいつは今の俺でも勝てるかは五分。
全てを出し切り、相打ちになる覚悟は必要だろう。
「とりあえず顔くらい拝みに行くか」
ここまで全てを狩って来たんだ。こいつを放置する理由も無い。
◇◆◇◆
「ここのはずなんだが......デカい木しかないよな」
魔力反応を頼りに、目的の場所まで辿り着いたが特にそれっぽい影は見えない。
魔力が周囲に広がっているため、何処かにいるのは確かなんだが魔力で見つけることは難しそうだ。
「んー少し待つか、いつか姿を見せるだろ」
俺は近くの大樹へと寄りかかった。することの無い俺は、そのまま頭を上げて大樹を見上げる。
青々とした葉が生い茂っている良い木だな。俺が見張り番の仕事をしていたときにもこの木は見えていた。
森の中で他の木よりも太く、長いこの木は象徴とも呼べるものだった。
「それにしても凄い木だな、こんな森のなかでこんな育つなんて幸運なのか、他に理由があるのか......」
『それは儂が鉱魔獣でも強大な力を持っているからだろうな』
突然聞こえてきた声に身体が反応して、その場から飛びのく。試練を大鎌を瞬時に出して警戒するも、声の主は見当たらない。
『そう警戒するな若者よ。儂にはもう戦う気力も無い』
「なら、姿を見せろよ!見えないやつに警戒するのは当然だろうが」
耳を澄まして見ても頭上から声が響くだけで目の前には大樹しか無い。
『ずっとそこにいるだろうが、ほれ』
突然、地面が揺れてたと思えば凄まじい音とともに目の前の大樹が動き出す。
「な!?」
埋まっていた根が外へと晒され、頂上の木が俺の方へと落ちてくる。このままでは当たると思い、回避行動を取ろうとしたがその前にぴたっと動きを止めた。
よく見ると、その木には爬虫類の生物的な特徴が見られる。
俺は驚きで声も出せずに、ただその場で立っていることしか出来なかった。
『儂がこの森の主とも呼べる存在である鉱魔獣の木龍だ。まぁ、今は枯れ木に近い老いぼれだがな』
「木、龍......」
こんな馬鹿でかい存在が鉱魔獣なのか。俺の何十倍あるかもわからないほど巨大な体躯に、声を発するだけで震えるほどの魔力。それに言葉まで話せるとは。
こいつが暴れれば俺は確実に死ぬ。
『寝ていた儂に近づく者が居たのでな、最近この森の鉱魔獣も減っていることはわかっていたがお主が狩っていたのか?』
久しぶりに死の気配を感じながらも、まだ交渉の余地がある可能性と判断した。ここは誠実に答えるのが吉か。
「ああ、だが俺の行動を反省するつもりは無い。最初はただ生きるための狩りだったし、今はシャーマ様へ最高の魂を献上し、殺した対象に慈悲という名の夢を魅せるためだからだ」
ここで俺の言葉の意味が木龍に伝わる必要は無い。大切なのは、理由なき殺しをしていたわけでは無いという事実が伝わること。
『何やら気を張っているようだが、儂は鉱魔獣を狩ったことを気にしてないぞ。この森は弱肉強食。殺される方が悪いのは当たり前だ』
「そ、そうか。なら、どうしてそんなことを聞いたんだ?」
てっきり癪に障ったのかと思って焦ったが、その心配は無いようだ。だとすれば、まだ生き残れるかもしれない。
『いやな、お主がどれほどの力を持つかわからんがひとつ頼みがあるんだ』
「頼み、か。俺に出来ることなら受けてもいいが、探し物だとかは専門外だぞ?」
俺がそう返すと、少しの沈黙のあとに木龍は口を開いた。
『出来ることなら、儂を殺して欲しいのだ』
「......は?」
【作者からお願い】
もし少しでも、
「面白い」
「続きが読みたい」
と思っていただけましたら、
下にある☆をタップして
★★★★★にしていただけると嬉しいです
応援、感想お待ちしております




