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大鎌が魅せるは貴方の最期~畜生以下の存在には最期に夢を魅せましょう~  作者: いさな


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第22話 「広大な野を駆ける長」

 メタルスチームウルフの長は気づけば広い草原に立っていた。


 空は晴天、輝く太陽と暖かな風に乗って小鳥の鳴き声が聞こえてくる。広がる世界は終わりが見えず、ただ自由が目の前に広がっていた。


 長にとって、生きる場所は閉鎖的な森の中だった。テリトリーの外には、自分たちのことを害する獣で溢れていた。


 長は自分が群れのトップであるという自覚から、常に団体で狩りを行い、無理な衝突は避けることに徹して生きて来た。


 生きるためには必要な行為ではあったし、それで食べる物にも困らなかったため選択に後悔は無い。しかし、長として過ごすなかで心の何処かに自由に走り回りたいという想いがあったのを押さえつけていた。


 そんな心を見透かされたのかと感じるほどの自由が視界全体に広がっている。


 まだ状況が飲み込めず、きょろきょろと辺りを見渡す長に意思が乗った声が聞こえてくる。


『鉄の狼を束ねた長よ、これは俺からの最後の餞別だ。突然襲ってきた理不尽に群れが荒らされながらも、長としての誇りとプライドから膝を付かずに敵に相対した。そんなお前を評価して最高の慈悲を与えよう。心ゆくまで楽しんでくれ』


 言葉は理解出来なかったが、そこに込められた想いは直接魂へと響く。


 感じる想いは尊敬、慈悲、感心、感謝。


 どうしてここに居るのか、さっきの声は誰なのか。疑問は溢れて止まることは無い。それでも、野生の本能が自由に駆けろと訴えかける。


 だが、長が足を踏み出すには何かが足りていない。そんな気がした。


『......なるほどな、最初に夢を魅せる相手だ。これくらいはサービスにしといてやる』


 空中でパチンッと音が鳴り、背後に魔力を感じる。長が何事かとゆっくり後ろを見ると、そこには生涯を供にし背中を預けてきた仲間たちがいた。


 仲間たちも状況が分かっていないのか、周囲を見渡していたが長の姿を見つけた途端に喜びを表すように空に向かって吠え始める。それは長にとっては慣れ親しんだ指示を受ける姿勢が出来た合図。


『心配するな、そいつらにはちゃんと魂が宿っている。この夢の中でお前たちは心ゆくまで楽しんでくれ』


 声から伝わる感情が、仲間たちは本物であることを伝えてくる。


 その瞬間、最後のピースがハマった。


 長は仲間たちに答えるように高らかに声を響かせる。


 仲間たちは長の声の意味を、生まれた時から知っていた。


 仲間たちは当たり前だというように、前を向いた長の背中を見つめている。


 そして、長と仲間は広大な野を駆けていく。誰にも邪魔されることのない自由と心地よい風を身に纏いながら。


 ――『殺した貴方は夢を魅る(メメント・ソムニス)を終了します』


 ◇◆◇◆


「どうだったかな、長よ。俺からの慈悲ある夢は」


 俺はすでに物言わぬ骸になったメタルスチームウルフに囲まれながら、その中でもひと際大きい体躯を持つ長の死体に語り掛ける。


 正直なところ、長が最期に俺に立ち向かわずに逃げ出していたとしたら、その時には最上級の悪夢を魅せる予定でいた。


 しかし、長は俺の想像を良い意味で裏切り最期まで群れの長としての役割を全うしたのだ。その姿に敬意を表すために自由を与える夢であった。


「お前たちは俺が死を迎えるときまで夢を見続ける。どうか、その時まで俺の中で楽しんでいてくれ」


 鉱魔獣吸魂によって吸収した魂に語り掛けるように、心臓に手を置き黙祷する。


 これでまたひとつの枷を背負うことになった。命の重みとはよく言ったもので、確かにメタルスチームウルフたちの魂は俺に責任という重みを感じさせる。


「でも、これで死んだ親父にも顔向け出来るな。親父の仇を取ったぞって」


 これはひとつの区切り。


 自分勝手な理由でも俺にとっては大切な狩りだった。


「残りの一年はどうしようか」


 この狩りはシャーマ様へ成長を見せることと、村のやつらに捨てられた弱い過去の俺と決別するためのもの。


 親父の遺言を頼りに生きていた俺はもういない。なら、新しい俺は何を成すべきなのか......


「――そうだ、この森の全ての鉱魔獣を狩り尽くそう」


 鉱魔獣を狩って狩って狩り尽くして、その全てを吸収しよう。そして、いつか俺が死んだ時に俺の魂ごとシャーマ様に受け取ってもらう。そうすれば最高の供物になるんじゃないだろうか。


 魂を供物にすることに意味があるかはわからない。それでも、捧げたいという気持ちに理屈は要らない。


「でも、そんなことどうでもいいよな。だって、俺がシャーマ様へ捧げたいだけなんだから」


 鉱魔獣は全人類の敵だから危険を排除したいとか、困っている森の近くの人々を助けたいという正義感なんて欠片も無い。


 ただシャーマ様のそばにいたい。シャーマ様の役に立ちたい。シャーマ様の前で恥ずかしくない存在でいたい。シャーマ様に、シャーマ様にシャーマ様にシャーマ様にシャーマ様に......


「ただそれだけだ」


 今生きているのも、力を扱えているのも、仇を討てたもの全てシャーマ様が俺に手を差し伸べてくれたからだ。


「だから、ほんの少しだけ申し訳無い気持ちはあるが、森に棲む鉱魔獣たちには生贄になってもらおう」


 俺もこの広大な森の全てを把握した訳じゃない。まだまだ獲物は潜んでいるはずだ。そいつら全てを刈り取って、全て俺の力とする。


 そして、誰にも害されない存在へと至りシャーマ様に会うんだ。


「そうしたら褒めてくれますよね、シャーマ様」


【作者からお願い】


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