第21話 「たとえ本当の仇じゃなかったとしても」
もう少しで夕日が落ち、空が黒に染まる刻。これから先は鉱魔獣が餌を求めて動き出す。
奴らは我が物顔で森を歩く。まるで、自分たちを害する者など、いる訳が無いと言うように。
ああ、なんて愚かな。
魅せてやろう。俺の大鎌がお前らの首を狩り、ひとつの群れが無くなる様を。
「試練の大鎌『機動』」
俺は腹の中央に魔力を流し、全身に熱を循環していく。
流した魔力は水属性。これは蒸気を生み出すために。
熱は蒸気となって俺の内部で渦巻き、今か今かと放出されるのを待っている。
右足を前に出し、右手の大鎌は地面に這わせるように刃を上へ向けて逆手持ち。
左手には土魔法である鉄の破砕盾を発動し、前に構える。
身体の金属が強い力で軋む音を奏でているのを聴きながら、最後に死魔力を試練の大鎌へとエンチャントする。
全ての行程が終わった頃、既に空には輝く星々と冷たく光る満月が見えていた。
「これで準備は整った。慈悲の時間だ」
――エンジンコボルト、ゴルドカンガルー『解放』
吸収した鉱魔獣の力を発動させる。声を合図に背中に排気口が出現し、両足が黄金に輝いた。
体内の発熱器官を最大出力で稼働させ、排気口から凄まじい蒸気が外へ放たれる。蒸気は俺の身体を前に押し出し、目の前の障害物をなぎ倒しながら前進する。
今の俺は全てを破壊する鋼鉄の弾丸。阻むもの全てを押し退け、壊して進む。
目標地点はメタルスチームウルフの群れの中心。場所はすでに感知済みだ。
奴らも轟音を立てて近づいてくる俺の存在には気づいているだろう。だが、そんなものは意味を成さない。
辿り着いた勢いのまま、最初の一体へ全力で体当たりをして宙に吹き飛ばし、右手の大鎌を振るう。
「まずは一匹、メメントモリ発動」
『『『『ギャアアアア!!!???』』』』
死の魔力を宿した大鎌で命を散らしたメタルスチームウルフにアーツを発動する。外法の大鎌のアーツ、メメントモリ。その効果は大鎌で殺された対象が死の間際に感じた恐怖を周囲に伝染させる。
強者を知らぬまま格下だけを狩って死の存在を忘れていたこいつらには、良い戒めとなるだろう。
「そら、隙だらけだぞ。これまでの罪を洗い流せ、断罪の光」
次に、右手に再度試練の大鎌を出現させながら聖光魔法の断罪の光を唱える。青白い枝分かれした光が左手から伸びて、全てのメタルスチームウルフへと突き刺さる。
断罪の光を受けたメタルスチームウルフたちから黒い魔力が俺に流れ込んできた。
メタルスチームウルフたちは力を失ったようにその場で足を折り、立てなくなる。その姿はまるで、膝をついて許しを請う罪人のようだった。
「――断罪の光を受けたものは今まで自分の快楽のために奪った命の数だけ魔力を吸収する。その様子だと、これまで随分楽しく過ごしていたようだ。全く......反吐が出るな」
もうすでに立つことも出来なくなったメタルスチームウルフたちを見つめながら、次の準備を始める。
「ウォーターサイス、ホーリーサイス、ハーベストルナ多重発動」
空中に水と聖光で出来た大鎌と三日月の形をした鋭利な刃が出現する。
「神の力を合わせれば、魔法でも鉱魔獣の命を奪う力になる。纏え、試練の大鎌」
俺は全ての魔法を試練の大鎌の刃へ収束させていく。試練の大鎌はその大きさを4倍以上に変えて、三色の煌めきを放ち始めた。
俺は巨大な大鎌を全力で横に振り抜きながら同時にアーツを発動させる。
「魔光斬、トラディメントサイス......薙ぎ払え」
大鎌から発せられた三色の光の斬撃が頭を垂れるメタルスチームウルフに襲い掛かった。斬撃は抵抗する間もなく、メタルスチームウルフたちの身体を真っ二つにして物言わぬ肉塊へと変えていく。
俺から少し離れた場所の一体がギリギリで躱したが、当然そこまで想定済みだ。
アーツ、トラディメントサイスは裏切りの大鎌。効果は単純で刃を回避したものへと再び襲い掛かる追尾機能だ。
魔力が枯渇している状態で動いた哀れな狼に、避ける体力は残されていない。死を求める残酷な刃は一匹を残して全てのメタルスチームウルフの命を刈り取った。
「――お前がこの群れの長かな」
『グルルルル......』
俺の視線の先には、恐怖で足を震わせながらも折れることなく立つ大きな個体がいた。
威嚇するように唸り声を上げてはいるが、それが虚勢からくるものなのは俺にもわかる。それでも、生き残りとして、群れの長として最期まで戦おうとする姿には敬意を感じざるを得ない。
「お前らが俺の親父を殺した仇ではないのはわかっている。だが、たとえ本当の仇じゃなかったとしても俺はお前らのことを許せそうには無いんだ」
話しながら、再び生成した試練の大鎌を片手に魔力を放出していく。これが最後の一撃となるように魔力を込めていく。
「だが、俺のエゴに付き合ってくれたお前らには最高の夢を魅せてやろう。他者を害することなく幸せな世界で駆ける夢を」
ゆっくりとした足取りで長の元へと近づいていく。
魔光斬の余波を受けたこいつにはもはや反撃する力も残されていないはず。放っておけばいずれ死ぬ命だ。
「でも、そんな終わり方はあんまりだよな」
『グ、グル......』
メタルスチームウルフの斜め前に立ち、ゆっくりとした動作で大鎌の刃を首にかける。
「ありがとう、メタルスチームウルフ。お前たちのおかげで俺は前に進むことができる」
その言葉を合図に刃を引いて最期のときまで戦いを捨てなかった長の首をはねる。
重力に引かれて地面へと落ちたメタルスチームウルフの首は俺のことを見つめていた。
『殺した貴方は夢を魅る発動』
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