第18話 「漆黒の鎧」
ぼんやりと意識が浮上していき、外からフクロウの鳴き声が聞こえる。
目が覚めた俺が光の網を解除し、外に視線を向けると景色は既に漆黒を月明りが照らしていた。
足を立てて座ったまま、少し奥へ顔を動かすとそこには大量のブロック肉が鎮座している。
「はぁ......寝起きから肉をこんな量見ても嬉しくないな。今からこれを食わなきゃか......」
自分で狩った獲物を食うのは幸せなことだ。敬意を持って吸収するべきだとわかっていても、寝起きに大量の肉は流石に胃がもたれそうで前向きになれない。
「それでも、今日と明日で全て食べなきゃ腐ってしまうしな......仕方ない、食べよう」
そう言って立ち上がった俺は、手前にあったブロック肉を手に取り嚙み千切る。
咀嚼もそこそこに鉄になった舌の影響で味を感じられない肉を無理矢理飲み込んだ。
「んぐ......!!」
鉱魔獣を吸収したときの反動が起こり、身体が拒絶するがいつも通り即時回復とライトヒーリングで抑え込むことで完全に力を取り込むのを待つ。
辛いのには変わりないが、シャーマ様に支えられている俺にとってこの程度の苦しみは最早無視できるものだ。
鉱魔獣が吸収されたことで体内魔力量が増えたことを感じる。それと同時に歯が徐々に牙と呼べるものに変化していく。
ただ、これまでの変化とは違い鉱魔力を得たことによって最適化された牙は、口全体をマスクのように俺の顔を覆っていった。
反動も収まり、新しく吸収した部位を触ってみると滑らかで冷たさを感じる。ただ、硬さは鉄や炭よりもずっと高いようで強めに叩いてみても傷ひとつ付く様子は無い。
「硬度が高い魔鉱石だったのか。確か、牙が変化してたのはワニだっけ」
あのワニ、襲ってきたのを避けたが、その後ろにあった岩が顎の力で砕けていたな。
凄い顎の力だと感心したが、牙も特別だったというわけだ。狩ったときは上段からの首刈りで一撃なこともあって確認とかしなかったし。
「まあ、これで硬いものを食いやすくなったな。魔鉱石食うの大変だったから凄い助かる......」
飲み込めさえすれば吸収できるが、喉が傷ついて血を吐くのが日常になってたからな。この牙があればちゃんと粉にしてから胃に流せるだろう。
「この調子で全部食べていくか。はぁ......気が重い」
俺は黙々と山積みになっている肉を胃に押し込む。
肉を口にするたびに身体が吸収を拒絶し、自分が別の生物へと変わっていく感覚が俺を襲う。これまで吸収した魂が喜んでいるかのような、奇妙な愉悦。人に対する憎悪の膨張。後戻りできない恐怖心。
――それでも止まることは出来ない。シャーマ様への想いだけが俺に肉を喰らわせる。
目の前にある肉塊があと一つになり、この苦行にも終わりが見えてきた。
「食べる前に確認だけしておくか」
ステータスを開き、鉱魔獣の部位が書いてあった場所に目を通す。
【外器】ローンホーンウルフの角=真 アイアンフロッグの舌=真 アンバーバードの目=真 屑鉄のカカシの腕=真 鉛羊毛=改 クォーツクロコダイルの牙 ゴルドカンガルーの足 ダイアモンドワーウフの爪 アメジストスライムの関節 サファイアスケイルレックスの鱗 アレキサンドライトレオの左目
「見えなかった黒い四角が無くなって全部見れるようになってる......これも混沌魔力操作と鉱魔力のおかげかな?」
他にも真になっている部位や新しく吸収した部位も増えている。こう見ると、結構な種類の鉱魔獣が居たんだな。いつもより少し奥に行っただけでこうなるとは......
「もっと奥にはメタルスチームウルフも、それ以上の力を持つ鉱魔獣もいるだろう」
今回狩ったのは今までとそこまで強さは変わらなかった。唯一、排気口を生やした謎の犬だけが特別だったくらいだ。
そいつにも初撃が避けられたことを忘れてはいけない。
「それと、『外器』?どういう意味だ?」
初めて聞いた単語だ。単純に考えるなら、外の器で本来は人にあるべきではない力、とか?
混沌魔力操作の説明に理の外にある魔力を操れるようになるとあったから、それが外器と関係あるのかも。
「他には、変わったところは無さそうか。色々考えられることはあるけど、最後の肉を食べてからにしよう」
ステータスを見るとわかる。最後に残ったこいつはあの謎の犬の肉だ。これまでとは違う変化が起こる可能性もあるから警戒はしておかないとな。
俺は注意をしながら、肉を口に運ぶ。これまでと同じようなじゃりじゃりとした食感が口に広がるが特に気にせずに飲み込んだ。
その瞬間、内臓全てが焼けたと感じるほどの強烈な熱が全身を駆け巡る。これまでの経験から痛みに慣れた俺でも耐えられ無い熱に手と膝を付くことしか出来ない。
更に、これまで吸収してきた魔力と微かに感じていた魂が喜びの声を上げるように暴走し始めた。俺の意思とは関係なく、体内を浸食していく力は俺という存在を塗りつぶすように書き換えていく。
全身の骨が折れた音が響き、筋肉と神経を燃やし尽くす。それはすぐに再生されて、同じようにまた壊される。
「ぎゃあああアアアアアア!!!!」
あまりの痛みに声が抑えられずに、絶叫を上げ続けることしか出来ない。喉が張り裂けて口から血が出ても痛みは治まらずに、手で喉を押さえ地面を転がりまわる。
次第に、目、鼻、耳からも血が流れ洞窟に赤い液体が飛び散る。
意識を失うことも許されず、今の俺には叫ぶことしか許されない。
声も掠れ、血まみれの状態で永遠にも感じるほどの時間が過ぎたあと、ふいに熱と痛みが引いていった。
そして、いつの間にか俺の背中に生えていた排気口から黒い煙が噴出して、全身を包み込んでいく。
状況が理解出来ずに、困惑していると脳内に声が聞こえてきた。
『一定量の鉱魔獣を吸収して力を得たことに加え鉱魔力持っていることにより、種族が夢月の鉱魔人へと変化します。部位が全て統合され狂魂の魔鉱鎧に変化しました』
その声を合図に黒煙が弾け飛び、全身が露わになる。
(何がどうなったんだ......でも、凄い心地が良い)
手を見ると、腕まで漆黒の金属で覆われた鎧のような姿へと変わっていた。
「力が溢れる。これまで以上の力が。――光魔法、ミラー」
手を空へ向けて想像だけしていた魔法を唱えると、光魔力と鉱魔力が混ざり放出される。魔力は一瞬で長方形を作り、目の前に大きな全身鏡を生み出す。
鏡に写った俺の姿は、今までは様々な種類の魔鉱石が生えていた部位が置き換わり、全ての色が混ざったかのような漆黒の軽鎧へと変化していた。
今の俺を見て人間だと判別出来るのは唯一隠れていない髪くらいだろうか。元は黒髪だったはずなんだが、いつの間にか真っ白になっている。
鏡に写る自分がもう人間と呼べる姿をしていないことだけはわかった。
「最早、人外の存在になってしまったが、これこそが俺の望んだ力」
開いていた手を握りこみ、魔力を放出すると体内から凄まじい熱が発生し、洞窟内にある鉱石を赤熱させた。
「この力を使いこなせれば必ず届くだろう。待っていろメタルスチームウルフ、親父の敵討ちだ」
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