第11話 「命のための狩り」
敷くものも無い洞窟の硬い床でどうにか睡眠をとった俺は、何の種類かもわからない鳥の鳴き声と涼しい風によって目を覚ます。
「やっぱり、魔力は万能だな。寝る前に身体に纏わせていただけで体温が下がるのを防げるなんて」
魔力を含んだ水を飲む前にはこんな贅沢は出来なかったし、そもそも無意識で魔力を継続的に操作する技術も無かった。
硬直した身体を解すように伸びをしながら、『ライトヒーリング』をかけることで全身が寝違えたような痛みから解放される。
寝起きで覚醒しきっていない頭を動かしながら、眠る前に考えていた魔法を試してみた。
「光魔法『リフレッシュ』」
粒子化した光属性魔力が皮脂や服に付いた細かい汚れを巻き取り、分解していく。こびりついていた汗の匂いや不快感が全て消えて古い殻を脱ぎ捨てたような解放感を覚えた。
「光属性魔力の根底は再生と分解かと思って作ってみた魔法だけど成功したみたいだな。即時回復で治っていく傷が映像が逆再生するように見えたから捉え方はあってたみたいだ」
回復魔法じゃなくて光魔法と言われているのであれば、再生以外の要素もあるんじゃと考えていたことが正解だったんだろう。やっと生きる方法が見えてきたことで昨日の夜はこれからを考える余裕があった。
その時に考えたもう一つのことがある。生きるために糧を得る行為『狩り』を始めよう。
「狩る対象はただの動物と自生している果物、そして鉱魔獣。鉱魔獣以外なら魔法があれば狩れるけど、鉱魔獣だけは神導武器を使わなきゃ勝てないらしいしな」
シャーマ様から授かった知識には、鉱魔獣には神の力が有効で神導武器での攻撃が一番効果的であるとされている。
一応、魔法でも狩れないことは無いらしいがそれは弱い鉱魔獣に限った話であり、一定以上の力を持つ鉱魔獣に対しては神導武器にエンチャントをして使うか神導武器を用いた攻撃の繋ぎにしかならないそうだ。
「何をするにしてもまずは動くか、試練の大鎌『機動』」
俺の手に夢で見たものと同じ、穴の空いた布が巻かれたボロボロの大鎌が握られる。
夢から目覚めるときに壊れたが、ちゃんと直ってるな。
その場で虚空に向けて、何度か大鎌を振って感触を確かめる。俺の背丈には少し大きく、振るたびに重心が前に崩れそうになりながら斜め上から振り下ろしたり、水平に薙ぎ払ったりと様々な方法を試していく。
何度か試しているとわかってくることもあり、大鎌という武器は力任せに振るうので無く、遠心力や大鎌自体の重さを用いて流れるように振るほうが適しているように感じる。
自分にとって扱いやすい方法を模索しながら、額に汗が滲んでくるまで黙々と大鎌を振っていると無機質な声が聞こえてきた。
『大鎌の習熟を確認。一定以上の動作を身に着けたため大鎌術Ⅰを獲得しました』
「......スキルを手に入れるのが早すぎないか?特殊スキルとは獲得の難易度は違うと思うけどそれにしてもすんなり手に入ったな」
まだ血を吐くほどの努力や苦しくなって息が出来ない程追い込んでいないんだけど。......基準がおかしいのか。
「特殊スキル以外は取得が簡単......?それとも、神導武器に関係していたからかな」
これは後で検証してみないとな。今は時間がかからずにスキルが手に入ったことに喜ぼう。
最低限の力を手に入れた俺は洞窟を出て森へ食料を求めて足を踏み入れた。
◇◆◇◆
「目的は果物やキノコとかの自生している食料と野生の動物から肉を手に入れること。欠けている刃でも狩ることはできるだろ」
右手に試練の大鎌を持ちながら、肉体強化を発動させて視覚と聴覚を強化しながら道なき道を進んでいく。
人の手が入っていない森は食料の宝庫で、毒があるかは抜きにしたら沢山の種類の食料を見つけることができた。
それを根元から刈り取り、服のポケットに詰め込む。
ある程度食料を集めたところでガサッという草が揺れた音が近くで鳴る。鉱魔獣の可能性もあるので気配を極力、消しながら音の方向へと近づいていく。
そこに居たのは俺と同じくらいの大きさをしたイノシシだった。ただ、見る限り鉱石が生えていたり、特殊な魔力を感じないためこいつは鉱魔獣ではないはず。
地面に生えていた草かキノコでも食っているのかくちゃくちゃと咀嚼をしているイノシシの前へ出て、存在を気づかせる。この森では見たことの無い生物である俺に最初は驚いていたが、強そうには見えない俺のことを獲物だと思ったようだ。
鼻息を荒くして興奮したように、後ろ足で地面を蹴って身体を低くする。
今にも襲ってきそうなイノシシには、大鎌の試し切りに付き合って貰おう。
「光エンチャント」
地面に這わせるように持っていた右手の試練の大鎌は刃を白く輝かせていく。イノシシはご自慢の後ろ足で地面を強く蹴り、俺の方へと突進してきた。
前に跳躍することで突進をすれすれで避けながら、すれ違いざまに首の下へと大鎌の刃を通す。首に対して垂直では無く少し斜めに、俺が獲物の命を刈り取りやすい場所へ。
跳躍の勢いをそのままに、足りない筋力は肉体強化で補いながら地面へ着地すると同時に大鎌を引く。
光属性魔力がイノシシの硬い体毛を分解させながら、刃が肉へと到達し、引っ掛かりも無く断ち切った。
イノシシは何が起こったのかわからないまま、残った筋肉の動きだけで少し前に進んだ後、その身を地面に沈める。その衝撃で頭と胴体が分かれ、真っ二つになり、大量の血が断面から噴水のように吹き出した。
「――初めて命を奪ったけど、ここまで何も思わないんだな。......シャーマ様の前で恥ずかしくない狩りを見せれた、それだけで十分なのかもしれない」
試練の大鎌を斜めに大きく振り、刃に付いた血を払いながらイノシシの死体を眺めてみる。ここで命を奪ったことに対しての罪悪感や恐怖を感じてしまうことを懸念していたのだが拍子抜けだ。
「ここは自然で弱肉強食の空間だ。お前の肉はしっかりと感謝をして頂くとするよ」
無感情に死体を眺めてから血が止まるのを確認した俺は足を掴み、洞窟へと戻っていく。頭は近くに残しておくと鉱魔獣が寄ってくるかもしれないので遠くに投げ捨てたから大丈夫だろう。
「火はどうしようかな......腹減ったし、火魔法試して出来なかったら最悪生で食うか」
そんなことを考えながら初めての狩りは無事終わりを迎えた。
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