99話 大事な親友です
翌日。
悪徳貴族と商人が戦乙女に成敗された、という話がすぐに広まっていた。
まあ、あれだけ派手にやらかせば隠蔽など不可能なわけで……
城下町を大いに騒がせることになった。
ただ、ほとんどは好意的な反応だ。
燃やされた宿の主に同情して、黒幕に怒っていた者が多かったからだろう。
だからこそ、悪人がまとめて打ち倒されたという結末は、わかりやすく歓迎された。
もっとも、国側としては歓迎だけでは済ませられない。
王族がカチコミ。
普通に考えて、かなりやばい。
厳重処分もありえたのだけど……
兄様がかばってくれた。
「たまには、わがままを許してあげてもいいのでは?」
「前例のない、とんでもない行動であることは認めますが……前例がないからといって全てを否定しては発展がありません」
「そもそも……父上は忘れているかもしれませんが、アリエルは、まだ八歳なのですよ? 間違えることもあるし、感情で動いてしまうこともあります」
「八歳の時、父上は何をしていましたか?」
兄様は、あえて『父上』と呼んで困らせていた。
そんな兄様に負けた様子で、最後は父上も許してくれた。
……まあ、けっこうな説教は避けられなかったが。
そして……
――――――――――
王宮の客間。
そのベッドにリーナが寝ていた。
命に別状はないものの、それなりのダメージを受けていた。
街の治癒院で治療を受けていたのだけど……
王宮なら設備もより優れた治癒師もいるからと、兄様とサリーが手配してくれた。
感謝だ。
「どうか無事に……」
リーナのために祈る。
自分でも驚くほど真剣に、ただそれだけを願っていた。
ややあって、リーナがもぞもぞと動く。
「……んぅ」
「リーナ!」
思わず身を乗り出す。
「よかった、無事か!?」
リーナは、ゆっくりと目を開けた。
まだ少しぼんやりしているみたいだ。
天井を見て部屋を見て、そして最後に儂の顔を見る。
「……王女様?」
「あっ」
しまった。
また変装するのを忘れていた!
てへ。
儂のうっかりさん♪
などと現実逃避している場合ではない!?
ど、どどど、どうする!?
このままだとリーナに正体がバレる。
この前は、火事のショックがどうのこうので、まだごまかせたかもしれないが……
今はもう無理だ。
完璧にアウト。
さきほど、サリーに完璧に愛らしく綺麗に整えられたから、どうしようもない。
まあ……
あるいはそれは、サリーの、しっかりと向き合いましょう、という提言の代わりなのかもしれないが。
とはいえ……まずい。
非常にまずい。
リーナに正体がばれる……そう考えると心臓が跳ねた。
戦場では感じない恐怖が、じわじわと這い寄ってくる。
どうしよう?
嫌われるかもしれない。
怖がられるかもしれない。
リーナは昨日、王女が苦手だと言っていた。
貴族が苦手で、その延長として王女も怖いと。
なら、今ここで本当のことを知ったら、儂のことも……
「えっと」
リーナが首を傾げる。
「アリーなの?」
「……う、うむ」
儂は観念して、小さく頷いた。
「その、えっと……本当は、儂は王女なのじゃ……アリーというのは偽名じゃ。城下町へ行くために変装をしてて、それで、こう……リーナと出会ってのう。なんかこう、騙すつもりはなかったのじゃ。いや、本当に。ただ、言う機会がなくなって……あぅ」
それ以上は続けられなくて、うつむいてしまう。
怖くて顔を見らない。
今、リーナはどんな顔をしているだろう?
怒っている? それとも、軽蔑している?
嫌いと言われたら……たぶん、かなり凹む。
凹むどころか、そのまま絶望するかもしれない。
大げさかもしれないけど、でも、儂は本気でそう思っていて……
だから、顔を上げられないでいた。
「……ありがとう」
「へ?」
思わず顔を上げると、リーナはにっこりと笑っていた。
「ありがとう、助けてくれて」
「えっと……」
「ちょっとだけ覚えているよ。火の中から助けてくれたんだよね?」
「う、うむ……」
「アリー……じゃなくて、王女様が助けてくれたんだよね」
「そうじゃが……」
「ありがとう」
もう一度、まっすぐ言われる。
それから、太陽のような笑顔。
「お主、儂のことが嫌いでは……?」
やっと絞り出した声は、情けないほど弱かった。
「そんなことないよ」
「へ?」
「あ、そっか。苦手とか言ったから、それ気にしちゃったんだよね。ごめんね?」
「む……?」
「あの時はよく知らなかったから……うん、ごめんなさい。悪いこと言っちゃった」
「嫌いになったのでは……ないのかのう?」
「もちろん!」
リーナは強く頷いた。
「だって、アリーだもん! ちょっと驚いたけど、でも、それだけ。嫌いになんてならないし、これからもずっと大好きだよ♪」
「……っ……」
まずい。
涙腺が限界だ。
「あっ……アリエル様なんだよね。じゃなくて、ですね」
リーナが慌てて言い直す。
「王女様、失礼しました」
「やめい……!」
「ひゃ!?」
儂はぐずぐずになりながら、そのままリーナへ抱きついた。
「アリエルでよい……あと、他人行儀な話し方はしないでくれ……」
「いいの?」
「うむ……というか、されたら泣きそうになってしまうのじゃ」
「もう泣いているよ」
「お主のせいじゃ……」
「うん……じゃあ、アリエル!」
「うむ!」
いつか……
母様が夢で言っていた『友』というのは、たぶん、こういうものなのじゃろう。
守るだけではなくて。
肩書きを越えて、受け入れてくれる相手のことで。
ずっと、隣で笑っていてくれる、とても大事な存在のこと。
……こうして儂は、かけがえのない友達を得た。




