100話 せめてこれくらいは
リーナを巡る事件はこれで解決……したのだけど。
ただ、全て元通りというわけにはいかない。
リーナの怪我は幸いにも軽傷で、ほどなくして治った。
両親は特に怪我はない。
ただ、宿は燃えてしまった。
通報は早く、最大限の速度で消火活動が行われたと思う。
ただ、燃焼剤が使われていたこともあり、消火は困難を極めて……
宿の大半が燃えたところで、ようやく鎮火。
ほとんどが炭になってしまった。
リーナと両親は、命があるだけよかった、と言っているのだけど……
強がりなのは一目瞭然。
とはいえ、これ以上、儂にできることはない。
悪徳貴族と商人にカチコミしただけでも、かなりやりすぎだ。
これ以上は、さすがに兄様もかばえないだろう。
おとなしくするしかない。
……と思っていたら。
――――――――――
「わぁーーーーー!!!」
リーナの歓声。
その視線の先には、元通りに建て直された宿があった。
「すごいすごい、元通りだよ! 火事なんてなかったみたい!」
「うむ……まあ、そうじゃな」
「アリエル、ありがとう!」
リーナは儂の手を握り、笑顔で言う。
うーん、笑顔が輝いている。
心底嬉しいのだろう。
友達が喜んでいるのなら儂も嬉しいのだけど……
とはいえ、ちょっと複雑なところはある。
「アリエル様、ここまでしていただけるなんて……」
「本当にありがとうございます」
両親が揃って頭を下げる。
「あ、いや。これは、儂ではなく……」
「特に気にしないでください」
隣に控えるサリーが言う。
「これは、当たり前にある国からの補助ですから」
「そうなのですか……?」
「はい。火事などの事故で家を失った時、なにも得られるものがなければ、その後の生活に苦労してしまうでしょう。最悪、命に関わることもあります。それを避けるための補助であり……また、こういう時のために税をいただいています。国として当たり前のことをしているだけなので、気にする必要はありません……と、アリエル様は仰りたいのです」
サリーの言っていることは、正しい。
確かに、そういう補助はある。
ただ、宿を建て直すまではやりすぎだ。
せいぜい、仮の家を用意して、新しい仕事を紹介するくらい。
それ以上……今回は、けっこうやりすぎなのだ。
ただ……
「おぉ……さすがアリエル様だ! ここまでしていただけるなんて、なんて素晴らしい!」
「きちんと私達のことを見てくれているのね……しかも、同じ目線で」
「やっぱり、アリエル様は天使ね! いいえ、女神様よ!」
様子を見に来た人々が儂を持ち上げるかのように言う。
いや、まじでやめてくれ。
儂は、そこまで考えていない、というか実行していない。
全て、兄様がしてくれたこと。
たまにはこれくらいのわがままはいいんだよ、と全て手配してくれた。
父上や宰相殿などとの交渉も全部。
で……
リーナの宿を建て直してくれた。
たまには、わがままを言ってもいい。
それに打算もある。
国はここまでしっかりと保証する、ということを示して、民からの信頼を得ることができる。
そのアピールになるから、これはこれでよし……とのこと。
……なんて。
なんだかんだ色々と言っているものの、兄様が打算とか本気で考えているわけはなくて……
全部、儂のため。
うむ。
ここまでしてくれたことに、本当に感謝しなければ。
それと、まあ……
ここまでしてくれるほど愛されていることにも、感謝しなければ。
「アリエル、遊ぼう! かくれんぼしよう!」
「り、リーナ、アリエル様を呼び捨てだなんて……」
「あなたがアリエル様と仲が良いのはわかるけれど……」
「よいのじゃ」
慌てる両親に、儂は笑顔で言う。
「儂らは……友達じゃからのう」
「ねー!」
――――――――――
「リーナ、来たぞ!」
宿の裏口から顔を出すと、ぱたぱたと軽い足音がしてリーナが駆けてきた。
「わーい、あり……じゃなくて」
途中でそれに気づいて、えへへと笑う。
「いらっしゃい、アリー」
「うむ」
うまく誤魔化したつもりなのだろうが、今の間はわりと怪しかった。
こうして、今もちょくちょくリーナのところに遊びに来ているが……
さすがに変装は続けている。
思っていた以上に儂は有名人らしく、騒ぎになってしまうからのう……
リーナにも、ここにいる時は、儂のことをアリーと呼ぶように伝えていた。
「遊ぼう!」
「よいぞ!」
リーナの部屋へ。
手作りの布人形があって、絵本があって、色付きの石ころを並べて遊ぶ妙な遊戯もあった。
あの火事で全て燃えてしまったのだけど……
ここまではさすがに全てを再現できず、小物はなかった。
でも、リーナは一から全て集めて。
あるいは、作って。
また、いつもの平和な日常を取り戻していた。
「こっちはね私のお気に入り!」
「ほう、可愛いらしいのう」
「でしょー! こっちも見る?」
「うむ!」
そんな風にあれこれと遊ぶ。
それだけなのに、時間がするすると過ぎていく。
……たぶん、これが平和というものなのだろう。
平和をこれ以上ないほど強く実感して、儂は、ほっこりと笑みを浮かべるのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
100話とキリのいいところで、ここで二部完、という感じになります。
色々とありつつも、最後は穏やかな感じで締められたのかな、と。
ただ、もうちょっと続きます。
三部構成で……この後は、最後の締めくくりの話を考えています。
基本は考えていますが、ちょっと見直したいところもあるので、数日、更新はおやすみします。
三日くらい? すぐ再開する予定です。
もうしばらく続きますが……
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