98話 カチコミ
「貴様っ、ふざけた真似を……!」
門を吹き飛ばしたら……ちなみに魔刃剣を使った……大量の私兵がわらわらと飛び出してきた。
まるでアリだ。
それぞれ武装して、怒りの形相でこちらを睨みつけている。
それなりに数がいる。
さすがに、カチコミは想定していないだろうが……
騎士団の強制監査などを警戒していたらしく、相当数の私兵を雇っていたようだ。
ただ……
そんなもので儂を止められると思うなよ?
「邪魔じゃ」
その場で剣を一閃。
当然、刃は届かない。
宙を薙いだだけ。
私兵達は表情を凍らせて、その動きを止めた。
刺すような殺意を載せて。
鋭く剣を振り抜いて。
斬る。
その意思だけを剣で見せて、伝える。
私兵達はきっと、自分が斬られる未来をこれ以上ないほどリアルに想像しただろう。
恐怖が生まれ、体を縛り付ける。
これで終わってくれれば楽なのだけど……
「くっ……も、もういい、あいつを殺すぞ!」
意地なのか、恐怖をどうにかこうにか振り払い、突撃してきた。
威嚇するように大声をあげるのだけど……
それは、恐怖をごまかすための雄叫びなのかもしれない。
「ふん……遅いのじゃ」
最初の一人の剣をミリ単位で見切り、体を半身にすることで回避。
同時に剣の腹で殴りつけて吹き飛ばした。
二人目は刃と刃を重ねて、その間に腹部を蹴りつけてやる。
三人目は回転するように横に回り込んで、膝裏に一撃。
膝裏は急所の一つなので、悶絶して倒れ込む。
四人目と五人目は攻撃を避けつつ、互いの位置を調整するように動いて、同士討ちを誘う。
六人目と七人目も同じで、八人目は、そうして倒れてできた私兵の山に突撃させて、ひっくり返してやった。
「な、なんだこいつ……恐ろしく強いぞ!?」
「しかも、手加減されている、っていうのか……?」
「どけ」
もう一度、剣を向けた。
再び殺気を放つ。
「次は……斬るぞ?」
「「「……っ……」」」
私兵達の動きが止まる。
今のは、わりと本気の殺意……
雇われているだけなのだから、できる限り手加減はする。
ただ、ヤツの悪事を知っていて加担するのならば……それはもう敵だ。
「……ふむ。聞き分けがいいようでなによりじゃ」
私兵達は麻痺したかのように動かなくなった。
こちらを見たまま、ピクピクと体を震わせて。
それ以上は動けない様子で、だらだらと冷や汗を流している。
「儂の目的はお主らではない。おとなしくしているようなら、なにもせぬよ」
「「「……」」」
私兵達は動かない。
その横を、儂は悠々と歩いて屋敷の中に入った。
その屋敷の中は大混乱だ。
使用人達が右往左往して、中には、なにをすればいいかわからないと呆然としている者もいる。
彼ら、彼女達の動きを見る。
その視線、その動き、その表情……全てを把握する。
そうすることで、意識を向けている先を確認した。
彼ら、彼女達の意識は上に向けられている。
つまり、雇い主は上にいる、ということだ。
儂は間をすり抜けるようにして彼ら、彼女達を追い抜かして、階段を上がる。
二階……そして三階へ。
そこまできたら、もう後は調べる必要はない。
奥の部屋に二人の気配。
魂まで汚れているのか、気配を感じただけで顔をしかめてしまう。
つかつかと歩み寄り……
バンッ! と、扉を蹴破って部屋に入る。
「ひぃ……!?」
「き、き、貴様……いったい、何者だ!? このような真似をして、ただで済むと思っているのか!?」
肥えた商人と貴族。
震えて、顔を青くして、それでも虚勢を張る。
愚かな。
今、すべきことはそんなことではない。
少しでも殊勝な態度を見せて、反省することだ。
それすらもできないというのなら……
「強制監査じゃ」
「……は?」
「お主らの悪事の証拠は掴んでおる……故に、こうして強制監査をしたまで」
「ば、バカな……!? そのようなことは……いや、そ、そうだとしても、ここまで強引なものは聞いたことがない!?」
「あ、あなた様は、もしかして……」
「くっ……アリエル王女か!」
ようやく儂の正体に気づいたらしい。
が、悪党というのは、いずれも往生際が悪い。
「く、くくく……なにが強制監査だ。こんな無茶、まかり通ってたまるものか! 戦乙女と呼ばれているあなたがこのようなことをすれば、どうなるか……わからないわけではあるまい? 今すぐに剣を収めて、詫びてもらおうか。そうすれば、少しは考えてやらんでもないぞ。このままだと、あなたの名声は地に……」
「知らん」
「……は?」
「名声なぞどうなろうと知ったことではないわ」
「……は?」
儂の言葉があまりにも意外だったらしく、商人と貴族は唖然とした。
権力と金に執着する。
そのような連中だからこそ、儂の返事が理解できないのだろう。
儂の怒りを理解できないのだろう。
「今は……ただのアリーじゃ」
剣を強く握る。
「友達を泣かせる悪党を始末する……それだけじゃ」
一歩、前に出た。
二人は、ひぃ、と小さな悲鳴をあげる。
「ま、まてまてまてまて!? 本気か!?」
「ば、バカな!? 裁判もなしに、こんな……こんな私刑のようなことが許されるわけがない!? あの戦乙女がそのようなことをしたら、評判が……」
「だから、知らんと言うたじゃろうに」
「わ、わかった! 金か? 金がほしいのか? いいぞ、今まで以上に王家に献金をして……」
「もう黙れ」
さらに一歩、踏み込む。
戯言は耳にするだけで苛立たしい。
「終わりじゃ」
「ひぃ……!?」
「や、やめ……」
ザンッ!
三歩目を踏み込むと同時に、剣を振り下ろした。
「「……」」
その刃は、断頭台のギロチンのごとく。
罪人を逃さない断罪の一撃。
……のはずだったのだけど。
刃は二人の首を刎ねることはなくて。
わずかも傷つけることはなく、そのまま横に落ちた。
ただ、それだけでも我慢できなかったのだろう。
商人と貴族は、ほぼ同じタイミングで意識を手放して、恐怖で気絶した。
それを見て、儂はやれやれとため息をこぼす。
「さすがに、ここが限界かのう……これ以上は、さすがに……な」
振り返ると、儂の暴れた跡が。
けっこう派手なことになっている。
後のことを考えると頭が痛いのだけど……
「まあ、よいか。なるようになれ、じゃ!」
大事な友達を傷つけた報いを与えた。
それで今はそこそこスッキリしていた儂は、そうやって気持ちを切り替えるのだった。




