97話 最高に不機嫌です
黒幕の屋敷へ、儂は真正面から突撃した。
本来なら、ありえぬこと。
王族というのもあるけど……
貴族の屋敷に殴り込むなんて、聞いたことがない。
相手が犯罪者とはいえ、無茶無謀がすぎる。
でも……
どうしても許せない。
怒りを消すことができない。
確かに、儂は王女だ。
戦乙女の称号を授かっていて……
そして、一つの騎士団をまとめる長でもある。
手本にならないといけないし。
立派であらなければならない。
しかし、それ以前に、儂は一人の人間だ。
ただの人間らしく動く時もある。
どうしても我慢できない時がある。
だから今は……
感情に従い、動く。
「「「なぁっ……!?」」」
粉塵の向こうで、怯えた顔がいくつも並んでいた。
私兵達が、突然のことに動揺して硬直して。
その奥……
屋敷の窓から、貴族らしき男が唖然としているのが見えた。
まるで悪夢でも見ているような目。
それでいい。
今宵は、儂が悪夢になってやろう。
「覚悟せよ、今宵の儂は……最高に不機嫌じゃ」
――――――――――
静かな夜……のはずだった。
突如、城下町の方から轟音が聞こえてきた。
けっこうな距離が離れているはずなのに、悲鳴も聞こえてきた……ような気がした。
それを聞いて、サリーが苦笑する。
「……アリエル様が暴れているのでしょうね」
怪我をしないか心配で……
この後、どうなるかも心配だ。
ただ、止めることはできなかった。
止めようとも思わなかった。
「いいのかい?」
振り向けば、セイファートが立っていた。
静かな表情でサリーの隣に並ぶ。
「キミの仕事は、ああいうアリエルも止めることを含んでいるんじゃないのかい?」
責める口調ではなかった。
ただ、確認するような声音。
サリーは少しだけ視線を伏せる。
「申しわけありません……ですが、主の望みを叶えるのが私の役目ですので」
「なるほど……うん、確かにその通りだね」
「怒らないのですか?」
「キミは仕事をしているだけさ。怒る理由がどこに?」
「……ありがとうございます」
サリーは頭を下げて。
それから、わずかに唇を噛む。
「私は……悔しいです」
ぽつりと漏らす。
「悔しい?」
「はい……アリエル様に、初めて友達ができたのに。それなのに、あのようなことになるなんて……ですから、今回のことも……止められませんでした。いえ、止めませんでした」
「いいんじゃないかな、それで」
「いいのでしょうか……?」
「最終的にはアリエルの問題だ。まあ、問題にはなるかもしれないけど、これくらいならなんとかなるさ」
「そうだといいのですが……」
「してみせるよ。たまに見せた、アリエルのわがままだからね」
「それは……」
「キミも……というか、僕もだけど、皆、アリエルを神聖視しすぎているところがある。強くて、なんでもできて、完璧で……でも、アリエルはまだ八歳だ」
「……ぁ……」
その事実を忘れていた、という感じでサリーが目を見開いた。
妙にこなれていて。
あまりにも強すぎて。
それでついつい忘れがちになってしまうが、アリエルはまだ八歳だった。
「わがままの一つや二つ、問題ないさ。これで父上が文句を言うようなら、僕が父上に文句を言うね」
「大胆なのですね」
「アリエルのよき兄でいたいからね」
セイファートはさらりと言う。
「あと、みんな、彼女のことが好きなんだ」
「はい……私もです」
「なら……大人は、後始末をがんばるとしようか。アリエルの殴りこみだけじゃなくて、他にも、色々とやることがあるからね」
「それは……いいのでしょうか?」
「もちろん。言っただろう? たまのわがままくらい、許してあげないと」
「……はい」




