96話 ただの個人として
一度、城へ戻った。
色々と疑うところはあるものの……
それは確たる証拠ではない。
たぶん、とか。
おそらく、とか。
そういうことで動いていいものではない。
もっとも……
裏が取れたのなら、まったく完全にこれっぽっちも容赦するつもりはないが。
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数日後の夜。
全ての調査が完了して、必要な情報を得ることができた。
サリーだけではなくて、リルもかなりがんばってくれたらしい。
感謝だ。
ちなみに、リーナとその両親は、こういう時のために用意されている仮設住居で暮らしている。
災害、戦争、突発的な事故などで住む家をなくした者のために、用意されているものだ。
本音を言うと城に招待したいのだけど……
王女故に、特定の個人に強く肩入れすることは難しい。
というか……
儂が王女とバレた今、どんな顔をしてリーナに会えばいいかわからない。
だから、あれからお見舞いにも行けていない。
……むぅ。
って、いかん。
落ち込んでいる場合ではない。
「アリエル様、こちらになります」
サリーから書類を受け取る。
目を通すと、今回の事件の概要が記されていた。
事件の実行犯は、どこにでもいるようなチンピラ。
ただ、黒幕は、この前見かけた嫌な感じのする貴族だ。
仲介を何度も介してバレないように小細工しているものの……
サリーやリルの諜報能力の前では無意味。
チンピラをけしかけた証拠。
その他、これでもかというほどの犯罪の数々の証拠。
思わず顔をしかめてしまうほどにオンパレードだ。
資料をめくる度に胸の奥が冷えていく。
熱くなるのではなくて、むしろ逆だ。
人間、あまりに怒りすぎると、むしろ頭は静かになるものらしい。
「……ふむ」
儂は書類を机に置いて、無言で立ち上がる。
壁にかけていた剣を取り、外套を羽織る。
そうやって武装する儂を見て、サリーが問いかけてくる。
「どちらへ?」
「……わかっているのじゃ」
自分へ言い聞かせるように、ぽつりと言う。
「王族が、特定の民を贔屓してはならぬ。民を愛しても、それは平等であるべきじゃ……」
それは正しくて……
そして、王女ならなおさら。
平等であるべき。
それに、今回の件は騎士団に任せるべきだ。
すでに彼らは準備を進めている。
今回の件で確実な証拠を得たから、ほどなくして黒幕共は逮捕されるだろう。
そして、しかるべき罰を受ける。
それが正しい。
正しいのだけど……
「すまぬ……今回ばかりは、どうしても感情が追いつかぬ」
言ってしまうと、少しだけ呼吸が楽になった。
あぁ……そうだ。
儂は今、正しくなんてない。
平等でもない。
ただただ、許せない。
友達を狙われた。
友達が大事にしている宿を燃やされた。
許せるわけがない。
王女とか、今はもうどうでもいい。
正しさなんてないことは十分に理解している。
それでも、おさえられそうにない。
正しさに納得して、この心を押しつぶしたくない。
「頼む」
小さく頭を下げる。
「アリエルではなく……今は、ただのアリーとして行かせてはくれぬか?」
「……アリエル様……」
サリーは驚いたように目を瞬いたけど、すぐに表情を整えた。
そして、丁寧に頭を下げる。
「お客様用の客間の用意をしておきますね」
「……ありがとうなのじゃ」
――――――――――
とある貴族と商人は、豪華な屋敷の奥で酒を飲んでいた。
夜も更けているが、酒は止まらない。
上等な料理をつまみに飲んで、二人の気分はかなり良くなっていた。
「うまくいったようだな。守りたいとか言うものを燃やしてしまえば、もう言うことを聞くしかあるまい。これからの生活もあることだろうしな」
「ええ、ええ、その通りですとも。所詮、宿屋の連中ですからね」
「そうだな。少し脅せば土地などいくらでも手放すだろう」
「いえいえ、少しでは足りなかったから燃やしたのでしょう?」
「はっはっは、それもそうだ……っと、証拠は残していないだろうな?」
「ええ、問題ありません。さすがにいくらかの痕跡は残るでしょうが、そこから我々につなげることはできません。実行犯は消す予定です……まあ、姿をくらましていますが、すぐに見つかるでしょう」
「うむ、それでいい」
ろくでもない会話をしているのに、二人はとても楽しそうだ。
「これで、あの土地が手に入る」
「ええ、すぐに手続きをいたしましょう」
「頼んだぞ。あそこは化ける。いい金になって……」
その時、どんっ、という鈍い音が遠くから聞こえてきた。
「ん?」
「なんだ?」
二人は、音の聞こえてきた方……門の方を向く。
直接、見えるわけではないが、音を聞くくらいできる。
なんだろう?
不思議に思っていると……
ガンッ!!!
今度は巨大な炸裂音が響いた。
なにかが吹き飛ぶような音と衝撃。
そして、悲鳴。
「な、なんだ!?」
「今のはいったい……!?」
二人は慌てて立ち上がり、窓辺に駆け寄り外を見た。
見えたのは……
攻城兵器が直撃したかのように、めちゃくちゃに破壊された門だ。
警備の兵士らしき男達が周囲に倒れている。
破壊された門の向こう……
夜の闇を背に、小さな影が立っていた。




