表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/100

95話 静かな激怒

 その夜、儂はサリーから報告を受けていた。


「あの貴族は、とある商人と繋がっているようです」

「ふむ?」

「貴族は商人の後ろ盾であり、出資者でもあり……実質、二人の商会という感じですね。しかし、かなり悪質でして……調べてみたところ、いくらでも悪い話がこぼれてきました。脅しに、強引な買収に、地上げに、裏社会とのつながり……整理するのが大変なほどです」

「……証拠は?」

「申しわけありません、まだです……」


 サリーは、悔しそうな顔をした。


「気にするでない。むしろ、たった半日でここまで調べた方がすごい」

「ありがとうございます。続きですが……騎士団もマークしていたらしいです。確かな証拠を得るために、あえて泳がされているみたいですね」


 そうなると、今すぐ正面から踏み込まない方がいいだろう。


 騎士団の面子もあるし……

 やるなら確実に潰せる時だ。


「ならば、もう少しは様子を……む?」


 何気なく窓の外を見て、違和感を覚える。


 夜の城下町の灯り。

 人の営み。


 ただ、その一角が赤い。

 その一帯だけが妙に赤く、明るい。


「……火事か?」


 いや、待て。


 あの方向……

 リーナの宿……ではないか?


 ぞくりと背中が震える。


「くっ……!」


 考えるよりも先に体が動いた。


 窓を開けて、そのまま外へ飛び出した。


「アリエル様!?」


 背後でサリーがなにか叫んだ気がしたけど、今更、止まれない。


 屋根から屋根を渡り、飛ぶ。

 一直線に赤い方角へ。


 ほどなくして……

 ……リーナの宿が燃えているのが見えてきた。


 炎は二階から吹き上がり、すでに全体を飲み込んでいる。

 周囲では人々が集まり、騎士達が消火に当たっていた。


 水が飛んで。

 魔法が唱えられて。

 それでも簡単には鎮火できず、ごうごうと炎が舞い上がる。


 ただの火事でここまで勢いよく燃えるわけがない。

 なにか使われているな。


「リーナはどこじゃ!?」


 リーナの両親を見つけると、その場に飛び降りて、声をかけた。


 二人の顔は煤で汚れて、しかし、真っ青だ。

 儂の声に振り向いて、はっと息を呑む。


「きみは……」

「今、空から……? いえ……もしかして、あなた様は……」


 変装をしていないから、儂の正体に気づいたようだ。

 同時に、儂がアリーであることも。


 でも、今はそんなことはどうでもいい。


「どこなのじゃ!? リーナは、どこにおる!?」

「そ、それが……まだ中に……!」

「助けに行こうとしたんですが、もう危ないから手遅れだと……!」

「儂に任せよ!」


 それだけ告げて、儂は炎の方へ駆けた。


「なっ!?」

「危ないから下がっていてください!」

「ええい、邪魔じゃ!」


 行く手を塞ぐ騎士をかいくぐり、そのまま燃える宿に突撃した。


 熱と煙と嫌な臭い。

 一瞬で世界が変わってしまったかのよう。


 でも、このくらいで怯んでたまるものか。


「リーナ! どこじゃ!? リーナ!!!」


 呼びかけるが返事はない。

 なら、捜すだけ。


 さらに奥へ。


 階段は崩れていた。

 壁を蹴り二階へ上がる。


 煙で視界が塞がれる中、それでも目をこらして周囲を見回す。


 ……いた!


 崩れかけた部屋の端。

 そこに倒れているリーナがいた。


「リーナ!」


 駆け寄り、抱き上げる。


 顔を覗き込むと、呼吸をしているのが見えた。

 意識はないものの、まだしっかりと生きている。


 安堵して。

 それから、近くの壁を蹴り破り、一気に燃える宿から外に飛び出した。


 リーナを抱えているので、負担をかけないように、しっかりと着地。

 周囲がさらにざわつくものの、気にする余裕はない。


「リーナ……起きよ、リーナ」

「……アリー?」


 まだ朦朧としている様子だけど、それでも、リーナは目を覚ました。


 よかった。

 軽い火傷や、煙などで喉は傷ついているだろう。

 でも、こうして意識があるのなら、即座に、ということはないはず。


「うむ、儂じゃ。もう大丈夫じゃぞ」

「そっか……でも、あれ……?」


 リーナは、どこか不思議そうに言う。


「……王女様?」

「っ!?」


 それは……そうか。

 変装していないから、リーナにもバレるか。


「……」


 そこが限界だったらしい。

 リーナは、ふっと眠るように気を失った。


「リーナ!」


 両親が駆け寄ってきた。

 騎士達も慌てて駆けてくる。


「大丈夫じゃ……まだ生きておる。早く治癒師へ」

「あ、ありがとうございます! ありがとうございます……!」

「ですが、あなた様は……」

「なに、気にするでない。儂は、ちと野暮用があるのでのう」


 なにか言いたそうな両親を振り切り……


 いや。

 そこから逃げるように、儂は二人に背を向けた。


「アリエル様!」


 ある程度離れたところで、バタバタという慌ただしい足音。

 サリーだった。


「む? よく儂の居場所がわかったのう?」

「匂いで!」


 なにそれこわい。


「ご無事でしたか!?」

「うむ、問題ない」


 それだけ返して、振り返る。


 まだ宿は燃えていた。

 建物を喰らうかのように炎を撒き散らして……

 そして、建物は半ば崩壊しかけていた。


 騎士達は必死に消火にあたっているけれど、この様子だと、燃え尽きるのが早いだろう。


 ……先も思ったが、いくらなんでも火の回りが早すぎる。

 勢いがよすぎる。


 それと、中に突入した時に、わずかに薬品の匂いがした。

 可燃性の物質が使われたのだろう。


「……サリー」

「はい」

「この火事を調べよ……徹底的に、じゃ」

「……わかりました」


 いつもと変わらないように見えて。

 しかし、内心で激怒していることが伝わったらしく、サリーは緊張していた。


 すまぬ。

 八つ当たりするつもりはないのだけど……

 しかし、どうしても怒りが抑えられない。


 ぐぐっと、強く拳を握り……

 わずかに血が流れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ