82話 王都突入
さらに二日。
儂らはついに、アウムドラ王国の王都中心へ辿り着いた。
開戦予想日、前日である。
時間は、もうほとんど残されていないと考えた方がいい。
ここから一つでも判断を誤れば、明日には国境で血が流れるかもしれない。
そうなれば、たとえ王を助け出せたとしても止まらないだろう。
戦争は拡大していく。
だからこそ迷っている暇はない。
メイリークの父が用意していた作戦は、実にわかりやすかった。
父親と、その配下の兵士達で真正面から城へ向かい、そこで改めて、王子へ戦を止めるよう進言する。
もちろん、止まる可能性は低い。
というか、ほぼないだろう。
だが、それでも万が一があるなら賭ける価値はある。
それに、仮に失敗しても意味はある。
父親は国の中枢に位置していて、それなりの立場を持つ。
真正面から異を唱えれば、王子も無視はできない。
必ず時間を取られるし、城内の空気も乱れる。
その隙に儂らが動いて王を救出する、というものだった。
「……もちろん、私達は捕まるだろう」
作戦確認の最後、メイリークの父は落ち着いた声でそう言った。
「お父様、それは……」
「なに、問題ないさ。だって、アリエル様達が王を助けて、そのまま私も助けてくれるのだろう?」
「うむ、当然じゃ」
儂は即答した。
「置いていくつもりなら、最初から組まぬ」
「頼もしい限りだよ」
この男、腹が据わっている。
やっぱり好きじゃな、こういうの。
あとで、本気で勧誘してみようか?
――――――――――
作戦開始。
儂ら本命の部隊は、別から王城に入る。
正門でも、使用人の通路でもない。
メイリークが教えてくれた、非常用の避難口からだ。
「幼い頃、王子に教えてもらったのです。君だから話すんだよ、と」
「……そうか」
皮肉なものじゃな。
かつて信頼の証として教えられた道を、今はその王子を止めるために使う。
人の縁というのは、時にこうも歪む。
ともあれ、今は感傷へ浸っている時ではない。
リルが先行して、罠の有無と人の気配を探る。
問題なしと判断したらメイリークが続いて、正解の道を辿り、王城の深部に向かっていく。
避難口は、使われていないせいか冷たく、埃っぽかった。
狭い石段を登り、途中で横道へ逸れる。
城の外周から、こっそりと内側に通じているようだ。
「止まってください」
先頭を行くリルが手を上げる。
目を凝らせば、壁際に細い糸が仕掛けられていた。
踏み込めば、どこかの警鐘へ繋がる類の罠だろう。
一応、王子もここが使われることを警戒している……か。
ただ、問題はない。
リルは袖から細い器具を抜いて、すぐにそれを外してしまった。
こちらを見て、なにか求めるような視線を送る。
「よしよし、よくやったぞ」
「は、はい♪」
ものすごい笑顔。
ほんとにわんこみたいじゃな。
「よし、先へ進むのじゃ」
……かくして、儂らは王城へ侵入した。
ひとまずは成功。
誰にも気づかれていないだろう。。
通路を気配を殺して進む。
途中、角の向こうから兵士の話し声が聞こえてきたので、壁の陰へ身を寄せて盗み聞いた。
「……まったく、なにが起こってるんだ?」
「貴族が正面から乗り込んできたらしいぞ。まあ、真正面からだからすぐに捕まえたらしいけど……」
「でも、あれこれと余計なことを言われたらしいな。そのせいで上も下も大騒ぎだ。くそ、こんな日に限って……」
やはり捕まったか。
よくはないけれど、想定通りでもある。
城内は慌ただしい。
今のうちにさらに深部に進むべきだ。
「……お父様……」
メイリークが小さく呟く。
「大丈夫じゃ」
「……アリエル様……」
「儂らは、儂らのやるべきことがある。ゆくぞ」
「……はい!」




