81話 母を想う者
メイリークと、アウムドラ第一王子……シグルドは幼馴染だった。
年は近い。
メイリークは位の高い貴族なので、親に連れられて城に行く機会もあったらしく……
そこでシグルドと知り合い、友達になったらしい。
王族とはいえ子供。
二人は仲良く遊んだ。
城の庭園で追いかけっこをして、雪の日には雪を投げ合い、退屈して城を抜け出して叱られたことも何度かあるとか。
なかなかのわんぱくだ。
「……ですが、ある日、国が流行病に侵されました」
病は貴賤を問わず広がり、城にも及んだ。
そして、シグルドの母……王妃は、それで命を落とした。
そこでシグルドは変わった。
「二度とこのようなことを起こさないために、もっと強い国にならないとダメだ……殿下は、そう仰っていました。食糧も、薬も、土地も、すべて自分達の手で押さえなければならない、と」
それなら、まだ理解できたのだろう。
喪失の果てに、国を強くしたいと願うこと自体はおかしな話ではない。
だが、そこから先が違った。
「シグルド様はやがて、改革だけでは足りないと言い始めました。根本的に土地が貧しく、狭い……ならば奪うしかない、と。他国の幸せを優先して、自国が不幸になっては意味がない、と」
「わからぬ話ではないが、極端じゃのう。まずは外交など、色々とあるじゃろうに」
「はい……今にして思えば、シグルド様は焦っていたのではないかと。もう二度と、あのようなことを起こしてはならないと……すぐに問題を解決しようとして……」
「他国の侵略を考えた?」
「はい……王は当然、反対しました。ただ、シグルド様は止まることなく……」
王は王の器ではない。
このままでは国が死ぬ。
故に、自分が正すしかない。
そう口にするようになって……やがて、今回の事件へ至る。
「シグルド様の言うことも、わかるのです。国を守りたい。失いたくない。母を奪った無力さを二度と繰り返したくない……その気持ちは、確かに本物なのでしょう」
「うむ」
「ですが、それでも……他者を踏みにじってよい理由にはなりません」
「そうじゃな。甘いと言われるかもしれないが、そこは儂も同意じゃ」
話を聞いていると、王子に妙な親近感のようなものが生まれていた。
会ったこともないし、話したこともない。
しかも、フィーゼルマインを狙う敵。
それでも、母を想い、その喪失を起点に動いていることだけは、きっと本当なのだろうと思えた。
儂とは、正反対じゃな。
儂も母を想っておる。
そして、その想いを継いで守ることを決意した。
逆に、王子はその想いを守るために奪おうとしている。
同じ根から、まったく違う枝が伸びたようなものかもしれない。
「……妙な気分じゃのう」
「え?」
「いや、なんでもない……なにはともあれ、やるしかないのう。シグルド王子の気持ちはわからぬでもないが、しかし、負けてやるわけにはいかぬ。じゃろう?」
「はい!」
「もう一本、やるか?」
「お願いします」
そして、儂はメイリークと剣を……
言葉をかわした。
――――――――――――
二日後……準備は整った。
開戦が予想される期日まで、あと三日。
ぎりぎりだけど、まだ十分に間に合うはず。
屋敷の裏手、薄曇りの空の下で、全員が揃う。
メイリークと、その父。
父に従う精鋭の騎士達が数名。
そして、儂ら。
サリー、リル、フォルティア姉妹。
全員がそれぞれの装備を整えていた。
「行こう」
誰も、余計な言葉は返さなかった。
ただ、それぞれが頷く。
ここから先は失敗が許されない。
王を救い、王子を止めて、戦争の芽を摘む。
できなければ、フィーゼルマインもアウムドラも流れる血の量が増えるだろう。
ならば、やるしかない。
馬がいななき、車輪が回り始める。
アウムドラ王都へ向けて、儂達はついに動き出した。




