80話 最強と幼馴染
開戦まで、おそらくは五日ほど。
時間は、あるようでまったくない。
メイリークの父が元々進めていた救出計画はある。
そこへ、儂らの戦力を組み込めば成功率は上がるだろう。
ただ、だからといって雑に動いていい作戦ではなかった。
王城の内外の警備配置、監禁されている王の位置、王子側へついている騎士達の動向、こちらへ味方する者の合流点。
そして、突入路に撤退路に万が一の陽動に……
やることはたくさんで、最低でも準備に二日はいる。
故に、その間はメイリークの家に滞在することになった。
もちろん、のんびりとくつろぐわけではなくて、何度も会議を重ねて作戦の精度を上げて……
鍛錬も積み、少しでも作戦の成功率を上げていく。
そんな時間を過ごしていた、とある頃。
「疲れたのう……」
会議を終えた後、儂は一人、廊下を歩いていた。
頭を使うのは嫌いじゃないけど……いや、やっぱり好きじゃない。
嘘ついた。
やっぱり体を動かす方が性に合っている。
この屋敷には訓練場があり、自由に使わせてもらっている。
少し体を動かすか。
そう決めて訓練場に移動すると、メイリークの姿があった。
一心不乱に槍を振っている。
いや、一心不乱という表現では足りないかもしれない。
鬼気迫るものすらあった。
……それだけ必死なのだろう。
「メイリーク」
「……」
「メイリーク?」
「……」
「メイリークよ」
「……えっ!?」
近づいて声をかけると、そこでようやく気づいたらしい。
槍を振る手を止めて、慌てて振り返る。
「これは失礼しました。訓練に夢中になっておりまして」
「不安か?」
「それは……」
言葉を濁されてしまう。
まあ、当然の反応だ。
「儂も不安じゃ」
「え?」
目を瞬かれた。
なぜ意外そうにする?
儂とて、なんでもかんでも平気というわけではないぞ。
「なので……気分転換に模擬戦をせぬか?」
木剣を手に取り、その切先をメイリークに向けた。
「えっと……はい、わかりました」
メイリークは戸惑いつつも、頷いた。
そして、対峙する。
メイリークは槍。
儂は剣。
普通に考えるなら、槍を持つメイリークの方が有利だ。
彼女のほどの実力者なら、剣士を近づかせることはないだろう。
「では、いきます」
「うむ、来るがよい」
次の瞬間、メイリークの槍が唸った。
速い。
高速の刺突。
ただ、それだけではない。
踏み込みと引きの切り替えが鮮やかで、槍という武器の間合いをよく理解している。
届くと思った時には届かず、届かないと思った瞬間に穂先が喉元へ来る。
「ほう」
やはり強いな。
技術だけではなくて、練度も高い。
相当な場数を踏んでいるようだ。
儂は二、三歩下がって受けた。
受けながら相手のリズムを見る。
メイリークはさらに圧をかけてくる。
槍を振るうというよりも、間合いそのものを支配して相手を追い詰める戦い方だ。
間違いなく強者。
並の剣士では太刀打ちできないだろう。
ただ……
「そろそろ儂の番じゃな」
「え?」
儂は一気に踏み込んだ。
メイリークが槍を振るよりも早く、その懐に入る。
槍は間合いを取ってこそ強いが、詰められた時の処理が甘ければ終わる。
もちろん、メイリークもそれは理解していた。
柄で打ち、足を払い、体ごと捌こうとする。
だが、その全てを上回る速度で儂は剣を走らせた。
横から槍を打って弾いて。
そのまま回転しつつ横に移動して。
そのまま首に木剣を突きつける。
「……負けました」
メイリークは両手をあげた。
「さすがです……それなりに自信はあったのですが、こうも歯が立たないなんて」
「なにを言うか。お主も強いではないか」
「ですが、アリエル様の方がさらに圧倒的です」
「なに、落ち込むことはない。儂は最強なだけじゃ」
「……」
一瞬の沈黙。
それから、メイリークがくすりと笑う。
「それを自分で言いますか」
「事実じゃからのう」
「本当に……すごい方ですね、アリエル様は」
笑顔も綺麗だ。
少しは気が紛れただろうか?
「で、スッキリしたか?」
「え?」
「悩み、迷っている時は動くのが一番じゃ」
「それは……」
「体を動かして、少しは気も晴れたのではないか?」
「……見抜いていたのですね」
「うむ」
というか、見抜かれないと思っていたのだろうか?
かなりわかりやすかった。
たぶん、リルでも気づくと思う。
屋敷に来てからのメイリークは、少し落ち着かない様子で……
準備をしている間、どこか上の空だった。
なにか抱えているのだろう。
「よかったら、話してみないか?」
「それは……」
「まあ、悩みを解決する、と断言なんてできぬがな。それでも、話すだけでも気が楽になることはあるぞ?」
「……申しわけありません、気をつかっていただいて」
「今は仲間じゃからな、当たり前のことじゃ」
「……ありがとうございます」
メイリークは微笑み……
それから、少しだけ視線を落として言う。
「王子は……シグルド様は、幼馴染なのです」
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