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77話 持ち主を選ぶ槍

 翌日。


 宿場街の人々の救助、手当は完了した。

 臨時の避難所も完成した。


 が、魔物の脅威が去ったとは言えない。

 それに復旧にも時間がかかる。


 なので、儂らはそのまま駐留することにした。


 ただし、なにもしないわけじゃない。

 三人の騎士を選び、現状をまとめた手紙を持たせて王都へ返した。

 父上と兄様、それから宰相殿へ、今の状況とメイリークの証言を最優先で届けるためだ。


 早馬でも数日はかかるが、送らないよりは遥かにいい。

 これは最優先で共有されるべき情報だ。


「まずは、その様子見かのう……む?」


 天幕の外へ出ると、まだひんやりした空気の中で、稽古をするような音が聞こえてきた。


 メイリークだ。


 朝靄の残る中、黙々と槍を振っている。

 昨日の戦いの疲れなど感じさせない見事なフォームで、流れるようでいて一切の無駄がない。

 しなりのある穂先が空気を切る度、鋭い風切り音が走る。


「ううむ……昨日も思ったが、見事じゃのう」

「あっ……これはアリエル様。おはようございます」

「うむ、おはようなのじゃ」


 少し近づいて、その槍を見る。


「鍛錬か?」

「はい。落ち着かない時ほど、体を動かした方が心が整いますので」


 ものすごくわかる。


「よい槍じゃな……ちと借りてもよいか?」

「それは、もちろん構いませんが……しかし、アリエル様では」

「なに、問題ない」


 儂は槍を受け取り、重さを測るに軽く振る。

 なるほど、良い作りだ。

 頑丈で鋭いだけではなくて、重心まで、使用者のことをしっかりと考えられている作りだ。

 おそらくは、世界で一品のオーダーメイド。


 さらに二、三度、空へ向けて振ってみる。


 唸りを上げる穂先。

 重さはあるが、癖は素直で、手に馴染むというほどではないが扱えないわけではない。


 儂はさらに一歩踏み込み、回転を混ぜて鋭く突きを繰り出した。

 槍が真っ直ぐ空を裂き、最後までぶれずに止まる。


「す、すごい……」

「そうか?」

「その槍は特注なのです。威力はありますが、色々と癖がありまして……私以外には、誰も満足に扱えませんでした」

「良い槍じゃから持ち主を選ぶのじゃろう。とはいえ、やはり儂は剣の方がよいのう。ほれ、感謝する」


 メイリークに槍を返した。


「……簡単に私へ武器を渡すのですね」

「うん? お主のものじゃろうに」

「ですが……私はアウムドラの者です。それなのに、敵をまったく警戒しないとは……」

「敵ではない」

「え?」


 即答すると、メイリークが目を瞬く。


「危機を知らせに来てくれたのじゃろう?」

「は、はい……」

「なら、味方じゃよ」

「……」


 そう言うと、メイリークはしばらく言葉を失ったようだった。


 そこまで不思議に思うものか?

 もっと単純に考えればいい。


「儂は王女で、国と民は儂の一部のようなもの……そしてそなたは、その民を守るために戦ってくれた。なればそれは、儂を守ってくれたようなものではないかのう?」

「それは……」

「味方であると判断するには、それで十分ではないか?」


 そう締めくくると、彼女はなぜか少しだけ目を潤ませた。


「あなたは……思っていた以上に、素晴らしい方なのですね」

「持ち上げるでない」

「いえ、本心です」

「むう……?」


 最近、本当にこういう流れが多いのう。

 儂は別に褒められたくて動いておるわけではないのじゃが。


「別に、評価などどうでもよい。やることをやるだけじゃ」

「はい……まさに、そのとおりですね」


 メイリークは同意するように頷いた。


 ふむ。

 たまたま顔を合わせただけだけど、せっかくだから少し話を詰めておくか。


「それで……アウムドラはフィーゼルマインの領土を狙い、戦争を仕掛けてくるとの話じゃが、開戦までどれくらいと予想する?」

「……一週間前後かと」

「早いな」


 思わず顔をしかめた。

 予想以上に短い。


 手紙はすでに出した。

 だが、早馬でも王都まで数日かかる。

 そこから軍を再編して、国境まで動かして、迎撃線を整えるとなれば……一週間では、まず間に合わない。


 どうする?

 どうすればいい?

 前世でも、このような危機は……


「……いや、待て」


 似た例があることを、ふと思い出す。


 敵国の総意に見えて、実はそうではなかった戦。

 国全体ではなく、一部の暴走を断てば止められた戦。

 そう、あの時は確か……


「……メイリークよ、聞きたいことがある」

「はい、なんでしょう?」

「今回の戦……アウムドラ王国の意思か? それとも……」


 一拍置いて、確信に触れる。


「個人の意思か?」

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