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74話 煙の向こうの宿場街

 一週間後。


 リルはすっかり水天騎士団へ馴染み、その一員になっていた。

 諜報、索敵、罠の発見と解除……そうした分野での働きでは文句なしで、本人も少しずつ堂々としてきた。

 皆から認められて、頼られて、今では小さなマスコットと有能な裏方を兼ねたような立ち位置に収まっている。


 ……たまに儂と一緒に寝ているが、その度にサリーが怒る。

 そこはまあ、いつものこととして流してよいじゃろう。


 さて。


「今回は遠征任務……か」


 儂は馬車の揺れに合わせて軽く伸びをした。


 目的地は、国境近くの宿場街。

 最近、周辺で魔物の被害が増えているらしく、状況確認と、必要ならそのまま制圧まで行う予定だ。


 遠方ゆえ、いつものように馬で駆けるばかりではない。

 移動の大半は馬車だ。

 サリーも情報収集と作戦立案の補助のために同行していた。


 とはいえ、


「旅は暇じゃのう……」


 頬杖をついて窓の外を眺める。

 景色は悪くないが、数日も続けば飽きる。


「では、膝枕をいたしましょうか?」


 サリーがわくわくした顔で言った。


「なんか怖いから嫌じゃ」

「そんなー」


 いや、本当に怖いのじゃ。

 なにか余計なことをされそうで落ち着かぬ。


 ……そんなやり取りをしながら、さらに数日。


 ようやく辺境の宿場街が見えてきた。

 ただ、様子がおかしい。


「……む?」


 街から煙が上がっていた。

 炊事の煙かと思えば、違う。

 量が多すぎるし、色も不穏で、しかも複数箇所から立ち上っている。


「あれは……」

「姫様、魔物です!」


 見えてきたのは、魔物に襲われている宿場街だった。


 外れの柵は破れ、荷車が横倒しになり、家屋のいくつかからは火が出ている。

 街道沿いで逃げ惑う人影、武器を取って応戦する者達、そして、その隙間を縫うように暴れ回る魔物達。


「皆のもの、儂に続け!」


 ひったくるようにして剣を取り、走っている途中の馬車から飛び降りた。


 馬車に残るサリーは……特になにも言わない。

 こういうことは、最近、日常茶飯事なのでもう慣れたのだろう。


 ……たぶん。

 慣れているはずだから、説教とかはなしにしてほしい。


 部下達もすぐに続いた。

 儂のように走り、あるいは馬を駆けさせる。

 そんな音でこちらに気づいた魔物の一団が、低い唸り声を上げながら向かってくる。


「邪魔じゃ!」


 先頭の一体へ斬り込む。

 狼型の魔物の肩から胸までを一閃で断つ。

 返す刃で二体目の首を落とす。


 三体目が飛びかかってくるが、その爪を剣の腹でいなし、蹴り飛ばして石畳へ叩きつけた。

 そのまま頭を踏み潰す。


「ここは、私達にまかせてください!」

「姫様は街を!」


 リゼットとミレナ、そして他の団員達が魔物を迎撃する。

 洗練された動きと連携。

 次々と魔物を撃破して、心配いらない、と行動で示してくれた。


「うむ、任せたぞ!」


 儂はそのまま街へ突っ込んだ。


 倒れた荷車、崩れた屋台、焼け焦げた屋根と壁。

 そして……血の匂い。


 ただ……


「……なんじゃ? 思っていたよりもマシじゃのう」


 街が壊滅、という最悪の事態も想定していたが、それほどではない。

 もちろん、被害は大きいが……

 想定していたよりも遥かに低い。


 それは喜ぶべきことなのだけど……

 しかし、ただの運でこうなるとは思えない。

 これだけの規模の魔物に襲われて、この程度の被害で済むわけがない。


「いったい、なにが……?」


 儂は小首を傾げる。


 もちろん、その間も街に入り込んだ魔物の討伐は止めない。

 考えつつ剣を振り、一匹、また一匹と屠っていく。


 そうして、街の広場まで来たところで……答えが見つかる。

 そこには、一人の女騎士がいた。



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