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69話 兄の威厳とカチコミ宣言

 翌日。

 儂は私室で、サリーと今後の対応について話していた。


「リルを守るとは言ったが……相手は暗殺者の組織じゃ。噂は聞くが、全容はまるで掴めておらぬ」

「悩ましいですね」


 サリーが神妙に頷く。


「暗殺者の組織という時点で、表へ出てくる情報は限られますし……多少、探りを入れてみましたが、まだ、これといって目立った情報は手に入れられていません」

「ふむ、サリーでも難しいか」

「申しわけありません……」

「責めているわけではない。むしろ、それだけの相手と気を引き締める機会を得た、そう考えることにしよう」

「あぁ、姫様優しいです……やっぱり天使♪ いいえ、女神様」

「……まさかとは思うが、儂が女神とかなんとかいう噂、お主が流しておるのか?」

「はい!」

「自信たっぷりに肯定された!?」

「事実を広げることは普通ですよね」

「事実ではないからな!?」

「え?」

「なに言っているんですか、みたいな目はやめよ!」


 この侍女、本当に厄介だ。

 とても困る。


 とはいえ……


 妙に憎みきれないところはあるし。

 仕事はできるし。

 それに、まあ……


 調子に乗るから絶対に口にしないけど、儂は、姉のように慕っている。

 なんだかんだ、仕方ないか、と許してしまう。

 儂も甘いかのう。


「とはいえ……」


 思考を元に戻す。


 敵が盗賊なら斬れば終わり。

 魔物なら、同じく討伐すればいい。

 だが、暗殺者の組織というような巨大な存在ともなると、姿も規模も、どこまで繋がっているのかが簡単には見えてこない。

 巧妙に隠れているだろうし、尻尾を掴ませてくれないだろう。


 しかも、リルの話によれば、脱走者と裏切り者は決して許さないらしい。

 放っておけば確実に動く。

 けれど、どこへ打ち込めばよいのか、それがわからない。


「まこと、面倒じゃな」


 その時、扉が叩かれた。


「今、いいかい?」

「兄様? 問題ありませぬ」


 儂が答えると、兄様はすっと入ってきた。

 手には分厚い書類束を抱えている。


「こういうものを調べてみたんだけど」


 にこやかに差し出してくる。


「必要かい?」

「……む?」


 受け取って中を見ると、儂は驚きに目を大きくした。


 そこにあったのは、暗殺者の組織に関する情報だった。

 しかも、断片的な噂の寄せ集めではない。

 構成員の符号、過去の活動圏、資金の流れ、隠れ拠点らしき場所の候補。

 そして、王国内に存在する拠点の位置まで、かなりの精度で整理されていた。


「兄様、これをどうやって!? というか、どうして!?」

「アリエルでも驚くことがあるんだね」

「そりゃ、このようなものを見せられたら驚くのじゃ!」

「少しは兄の威厳を見せられたかな?」


 兄様のドヤ顔は珍しい。

 こういうところも様になるのだから、兄様はすごい。


「レイスの件を聞いた時にね。もしかしたら少し揉めることになるかもしれない、と思って、あらかじめ調べておいたんだ」

「少し、で済む話ではなさそうなのじゃ」

「そうなんだね。なら、備えておいて損はなかったようだ」

「さすが兄様なのじゃ! しかし、これほどの情報をどうやって……?」

「聖竜騎士団も、独自の情報網を持っているのさ。今、アリエルが構築しようとしているもの……僕が持っていてもおかしくはないだろう?」

「うむ……なるほど。本当にさすがですのじゃ」


 兄様はただ強いだけではなく、ちゃんとそういう裏の手も持っているのか。


 感心した。

 本気で感心した。

 故に、儂は素直に飛びついた。


「兄様、素敵なのじゃ!」

「おっと」


 抱きつかれた兄様が、くすりと笑う。


 その横で、サリーがものすごく苦い顔をした。

 ぐぬぬぬ、とでも言いたげな表情である。


 たまには兄様へ甘えてもよかろう?


「それで、アリエルはどうするんだい?」

「そうですな……」


 改めて資料に目を落とす。


 組織の拠点は、それこそ世界各地にあった。

 山中、地下都市、交易路の中継地、海沿いの廃港、雪国の外れ、そして帝国。

 当たり前の話だけど、全部を潰すことなど不可能。

 国外に拠点が複数ある以上、どう考えても無理。


 ただ……


「……リルは王国内の拠点から来たはずじゃな」

「その可能性が高いと思うよ」

「なら、そこを潰す」


 全部は無理でも、目の前の脅威は叩ける。

 今はそれで十分だろう。


「暗殺者の組織なのだから、遠慮なんていらぬしな」

「確かにね」

「カチコミなのじゃ!」


 儂は不敵に笑い、宣言してみせた。


「やれやれ、僕の妹はとてもわんぱくだね」

「ですね。けれど、それでこそ姫様です!」


 兄様とサリーはやや呆れている様子を見せつつも、基本的に賛成。

 なにも問題はない、と言ってくれていた。


 なら、あとは動くだけ。


 リルを守ると言った。

 ならば守る。

 そのために必要なら、暗殺者の巣へだって踏み込んでやろうではないか。




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