66話 レイスの弱さ
さらに数日後。
リルは、すっかり水天騎士団へ馴染んでいた。
戦友として堂々と肩を並べている、とまではなっていない。
どちらかといえば、妙に小動物がいつの間にか部隊の隅へ住みついて、そのまま全員に可愛がられるように、という表現の方が正しいかもしれない。
でも、それでいい。
リルは笑われているのではない。
受け入れられている。
マスコット的な立ち位置へ収まりつつも、役割は明確にあるのだから、それでいい。
そして今日、その役割は任務で活かされることになった。
目標は盗賊の討伐。
王都の外へ出て、さらにしばらく進んだ先にある山中に盗賊の拠点があるらしい。
まったく……叩いても叩いても減らない。
害虫のような存在だ。
被害報告から考えて、数はそこそこ。
街道を狙うにはちょうどいい位置だが、こちらから叩くとなると少々見つけにくい。
なので……
「この山のどこかに拠点があるはずじゃ」
山麓まで来たところで馬を止めて、リルを見る。
「調べてくれ」
「は、はい!」
リルは緊張しつつも頷くと、音もなく木立の中へ消える。
本当に消えたようにしか見えないからすごい。
儂の目でも見えない……いつかあれ、習得したいのう。
団員達も感心していた。
特にフォルティア姉妹は、もはや感嘆を隠す気すらない。
「何度見てもすごいですね」
「だよねー。あれ、普通に怖いくらい。でも、姫様なら同じことしそう」
「さすがに、一朝一夕ではできぬな。しばらく観察しないと無理じゃ」
「ということは、しばらくあればできる、ということですが……?」
「姫様って、つくづく規格外だね……」
ふふん、と偉ぶっていると、ほどなくしてリルが戻ってきた。
早いのう。
「は、発見しました。えっと……山の中腹、東寄りです。廃村になった場所を使っているみたい、です……!」
「規模は?」
「二十ちょっと、です。見張りの配置も確認しました」
簡単な地図を地面へ描いてみせる。
「裏手は崖じゃなくて斜面です。逃げ道にはなるけど、包囲はしやすいです」
「……うむ。これなら、問題はなさそうじゃな。いくらでも攻めようはあるが……まあ、油断大敵じゃ。夜に奇襲をかける、よいな?」
誰も反対意見は出さない。
「では、それまでは休んでおけ。無駄に疲れるな」
「はっ!」
――――――――――
そして夜。
盗賊どもの拠点……廃村は、山の闇の中に沈んでいた。
壊れた家々。
崩れた井戸。
人気のなくなった土地へ、今はごろつき連中が住みついている。
悪いのう。
お主らのようなものに与える土地など、我が国では一片たりともないのじゃよ。
「包囲は終わったか?」
「はい」
リゼットが頷いた。
「逃走経路は押さえました。そちらは、ミレナと他数名が」
「うむ。では、合図で突撃じゃ」
静かに手を上げて……そして、振り下ろす。
次の瞬間、皆が一斉に動いた。
それぞれの武器を手に、突撃。
外にいる見張りに武器を叩き込む。
「て、敵襲だ……!」
「な、なんだお前ら! くそっ、すぐに……ぎゃあ!?」
「ちくしょう、こいつら、いきなり現れて……!?」
最初の突撃で、見張りを倒して。
さらに突撃。
そのまま、廃屋に潜んでいる盗賊連中を掃討していく。
寝起きの盗賊、酒臭い盗賊、剣を取る前に蹴り飛ばされる盗賊……まともな統率のない連中は脆い。
こちらは包囲済みで、戦意も士気も違う。
ほどなくして抵抗は崩れて、拠点の制圧は完了した。
うむ、いい手際じゃ。
今度、皆を褒めてやらねばのう。
「念のため、残党がいないか確認せよ」
儂は剣を払いつつ、リルへ言う。
「は、はい……」
リルは頷き、廃村の奥へ歩み出た。
壊れた家の陰、倒れた盗賊達、血の匂いの残る地面。
死をこれ以上ないほど強く意識させる光景だ。
リルは大丈夫だろうか?
もう少し配慮した方がよかったかもしれないが……
しかし、騎士団にいる以上、これは避けては通れない道。
情報を扱う者だとしても、現場にいる以上、完全には切り離せない。
「……」
リルの足が、ぴたりと止まる。
「む? どうした?」
「い、いえ、なんでもありません……」
明らかに声が上ずっていた。
視線を辿ると、倒れている盗賊の死体が見えた。
やはり、そこか。
「リル」
「は、はい……」
「落ち着くがよい。別にお主は戦わなくてもよい。情報収集だけで十分じゃから……む!?」
「死ねぇ!!!」
死角の壊れた家屋の陰から、まだ息のあった盗賊が飛び出してきた。
最後の悪あがきとばかりに、短剣を手にして突撃してくる。
狙いは……リルだ。
この距離で探知できなかったのは、死体を見て動揺していたからだろう。
そして、その動揺のせいで硬直してしまう。
「リル!」
考えるよりも先に体が動いた。
儂は地を蹴り、リルの前へ割り込む。
小さな体を無理やり突き飛ばし、そのまま自分の身を盾にする。
……短剣の軌道が月明かりの下でぎらりと光った。




