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61話 ひぃん、暗殺者ですぅ

 私室へ戻った時には、さすがに少し疲れていた。


 城下町をぶらついて、妙な気配を追いかけて、屋根を飛び渡り、人気のない裏路地で相手を確保し、そのまま担いで連れ帰ってきたのだから当然だ。

 体力的にはどうということもないが、精神的にはなかなか奇妙な疲れ方をする。


 なにしろ、捕まえた相手が……


「……というわけで、暗殺者を捕まえたのじゃ」

「ひぃん……」


 部屋の隅で小さく丸まっている黒ずくめの少女が、情けない声を漏らした。


 サリーはその姿を見た瞬間、ぱっと笑顔になった。

 あ、これは駄目な笑顔だ、と即座に察する。


「よし、殺しましょう♪」

「サリー!?」

「アリエル様を狙うとは不届き千万。万死に……いえ、億死に値します」

「落ち着くのじゃ!」


 儂は慌ててサリーの前へ割り込んだ。

 この侍女、妙なところで冗談とも本気ともつかないことを平然と言うから油断ならない。


「儂が狙われておったわけではないぞ」

「そうなのですか?」

「うむ。城下町に潜んでおったところを、たまたま捕まえただけなのじゃ」

「あら、それなら問題ないですね」


 サリーは、すん、といつもの顔へ戻った。


「話を聞きましょうか」


 ……たまに恐ろしいのじゃ、この侍女。


「まあ、そういうわけで……まずは、顔を拝見しようかのう」


 相手はびくっと肩を震わせたが、抵抗はしなかった。

 もっとも、できないだけかもしれない。

 手足は拘束しているし、武器もすでに抜き取ってある。


 フードを外して顔を露わにすると……現れたのは、十五歳くらいの少女だった。


 髪は煤けた銀灰色。

 肌は白く、顔立ちは整っているが、妙に頼りなさそうで目元には常にびくびくした小動物めいた怯えがある。

 細身だが、衣服の下に隠れていた筋肉の付き方や肩の可動域の滑らかさを見る限り、体はしっかりと鍛えられていた。


 それと、全身から出てきた暗器の量がすごい。


 袖、靴、腰の裏地、背中、髪留めの中にまで細い刃が仕込まれていた。

 小さな針、毒の塗られたらしき短針、投擲用の刃、細い糸鋸、仕込み針金……よくもまあここまで隠したものだと、逆に感心してしまう。

 ハリネズミんのごとく全身凶器である。


 ただ、その装備の物騒さに反して、本人は震える子犬のようにおどおどしていた。


「お主、本当に暗殺者か? なにかの間違いではないか?」

「よ、よく言われますぅ……」


 少女は半泣きで答えた。

 一応、本人にも自覚はあるらしい。


「名前は?」

「リル、って言いますぅ……ひぃん」


 演技の可能性は……ないか。

 ただ、中身が危険な可能性はある。


 机の上へ並べた暗器は、どれも扱いが難しいとされているもの。

 儂も知識は持つが、実際に手にしたことは少なく、なかなかに苦戦したことを覚えている。

 そんなものを扱えるというのなら、それなりの腕を持つのだろう。


 問題は、その目的だ。


「なにをしておった?」

「お、王国の情報収集を……」

「ふむ……具体的には?」

「さ、最近、噂の戦乙女のことについて……それて、あなたを観察していました」


 なるほど、儂が目的か。


「雇い主は?」


 そう聞いた瞬間、リルは顔色を変えた。


「そ、それはダメですぅ……!」

「ほう、さすがに簡単には口を割らぬか」

「隣国のアウムドラ王国の軍の関係者なんて口を滑らせたら、私が始末されてしまいますぅ!」

「……」


 思い切り言っていた。

 リル自身も、言った後で気づいたらしく、はっと口を押さえた。


「しまった!?」

「うむ、しまったのう」

「どうしようどうしようどうしよう……!?」


 床の上で小さく丸まりながら、うるうるした目でこちらを見る。

 かなり頭の痛い告白である。


 サリーがとても困った様子で儂を見る。


「アリエル様、どうしましょう……?」

「本当にどうするかのう……」


 適当に釣りをしていたら、湖の主を釣ってしまったような気分だった。

 しかも、その湖の主が、やたらと小動物っぽく震えている。

 見た目と中身のギャップに、ただただ戸惑うしかない。


「アウムドラ王国……か」


 他国の者が儂について調査を進めている。

 その事実は、儂の心をざわつかせた。



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