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57話 正義仮面、見参

「通りすがりの正義の味方、正義仮面じゃ!」

「「……」」


 そう名乗った瞬間、フォルティア姉妹が揃ってぽかーんとした顔になった。


 ふっふっふ。

 どうやら、儂の正体にはまったく気づいていないようだ。


 儂とて遊んでいるわけではない。


 フォルティア姉妹を見捨てるなんてありえない。

 その一方で、王女である儂が堂々とダンジョンに突入するわけにもいかない。

 協約を無視して正面から踏み込めば、後々で、面倒の規模がとんでもないことになる。


 故に、仮面をつけて変装した。

 儂、完璧!


「さて、と」


 地面を蹴り、加速。

 蜘蛛が動くが、反応が遅い。


 脇をすり抜けて、フォルティア姉妹のところへ。

 そして、抜剣。

 フォルティア姉妹を拘束していた糸へ刃を走らせた。


 粘着性の高い糸は普通の刃では絡みつきそうなものだが、魔力を乗せておけば話は別。

 魔刃剣。

 刃が青白く閃き、糸はまとめて断ち切られる。


「うわっ!?」

「っ……!」


 二人が床へ転がり、自由を得る。


 そんな儂らを見て、蜘蛛が威嚇するように鳴いた。

 そちらに剣を構えて振り返り、声だけを飛ばす。


「ここは儂が受け持つ。お主らは、ダンジョンから脱出するがよい」

「そ、そんな……姫様を置いてなんていけないよ!」

「ひ、姫ではないぞ!?」


 儂は、謎の正義仮面である。


「これ程度に、儂がどうにかなるとでも?」

「……思わないかも」

「なら、任せるがよい。ああ、そうそう。撤退の際、できる限りダンジョンの宝を回収しておけ」

「え? どうして?」

「ミレア、行きますよ」

「でも……」

「アリエル様にはアリエル様の考えがあるはず」

「そ、そうだね! 姫様だもんね!」

「だから姫ではない!」


 もしかして、この変装、バレている……?

 いや、そんなはずはない。

 完璧な変装だ。


「ええい、さっさといくがよい。それとも、儂の命令がきけぬのか!?」

「「イエス、マム!」」


 二人が揃って反射で返事をした。

 ぴしりと背筋も伸びていて、日頃の訓練の影響だろう。


「がんばってね!」

「ご武運を!」


 二人はまだ少し迷いつつも、ボス部屋から出ていった。


 これでよし。

 思う存分に戦うことができる。


 蜘蛛も、フォルティア姉妹を追いかけない。

 本能で儂の方を脅威と感じているらしく、じっとこちらの様子を伺っている。


 改めて、蜘蛛二匹と向き合う。


 巨大な地下空間の中央。

 湿った空気。

 砕けた石片。

 そして、怒りに震える二体の魔物。


 だが、怒りを覚えているのは蜘蛛だけではない。


「よくも儂の大事な部下を痛めつけてくれたのう……覚悟せよ!」


 ダンッ! と地を蹴る。


 まずは無傷の方を狙う。

 派手に暴れられても面倒だからな。


 こちらの突撃に合わせて蜘蛛が脚を振り下ろす。

 それを紙一重でかわして、その脚の内側を駆け上がるように踏み込み、関節の継ぎ目へ斬撃を叩き込む。


「ギィィィッ!?」


 甲高い悲鳴が響いて、バランスを崩した巨体がぐらりと傾いた。

 ただ、その間に、背後からもう一体が突進してきた。


 速いな。

 三本の脚を失ってもなお、この速度か。


 儂は体を捻り、横薙ぎの一撃でその突撃を止めてみせた。

 甲殻の欠片が飛ぶ。


「悪くない、なかなか楽しませてくれるではないか」


 強敵というほどではない。

 だが、雑魚でもない。

 こういう相手は嫌いではない。


 ……とはいえ、狩りをしているわけではない。

 これは殲滅戦。


「さっさと終わりにさせてもらうぞ」


 前後から挟み込むつもりらしく、二匹が同時に動く。

 ならば、逆に利用するまで。


 儂はわざと一体目へ踏み込み、その攻撃を誘う。

 そこへ二体目が糸を吐こうと腹を持ち上げる。


「読めておる」


 低く潜り込み、一体目の体の陰へ滑り込み、その巨体を盾にした。。

 吐き出された糸は一体目の横腹へ突き刺さる。


「ギッ!?」

「仲が悪いのう」


 動きが止まったところへ、一体目の頭部へ剣を深く突き立てた。

 その状態で魔刃剣を発動。

 剣をえぐりこむようにしつつ、さらに深く突き刺して……

 そして、斬り上げつつ一気に引き抜く。


 ザンッ!


 巨体がほぼほぼ半分に断たれて、蜘蛛は痙攣しながら地面に崩れ落ちた。


 残るは一体。

 仲間がやられても逃げるつもりもなく、怯むこともない。

 魔物ではあるが、戦士のようだ。


「立派ではあるが……」


 突撃に合わせて、剣を構え直す。


「相手が悪かったのう」


 蜘蛛が暴走する馬車のごとく迫る。

 儂は怯むことなく、むしろ前へ出た。


 蜘蛛は真正面から、槍のように脚を突き出してきた。

 それを一閃で断ち……

 さらに刃を振り、二本、三本と切り落としていく。


 その勢いを落とさないまま懐へ潜り込んだ。

 蜘蛛は慌てて距離を取ろうとするが、もう遅い。


「終わりじゃ!」


 渾身の斬撃が蜘蛛の胴体を斜めに断ち裂いた。

 甲高い断末魔が部屋いっぱいに響いて……

 やがてその巨体は力を失い、ずしん、と重々しい音を立てて崩れ落ちた。


 念のために少し様子を見るが、立ち上がる様子はない。

 周囲の気配などを探知するが、追加もない。


「うむ、打ち止めじゃな」


 討伐、完了。

 あとは、この奥にあるダンジョンのコアを砕いて……


「おっと、忘れるところじゃった」


 蜘蛛の死体を切り開いて、奥にある魔石を回収する。

 本当は素材も全部持ち帰りたいが、それは難しいので諦める。


「これはこれで、後々、必要になるからのう」


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― 新着の感想 ―
いやいや、歳格好や言葉遣いでバレるでしよ。でと、どんな手段を使っても部下を見捨てない姫様、流石です。
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