54話 守りたいもののために
その日の夜。
しばしの滞在ならば問題ない、ということで、水天騎士団は村の隣にある広場へ天幕を張り、簡易の陣を敷いた。
問題なく確実に滞在できるのは三日ほど。
その間に解決できなければ、一度王都へ戻り、正式な許可や調整を取り直さねばならないだろう。
短い。
サリーは、冒険者の派遣依頼と、遠方からの許可の再取得へ向けて動くつもりだと言っていた。
ただ、どちらもすぐに通る保証はない。
冒険者がいつ来られるかもわからないし、許可が出たとしても、王都からの移動時間もそれなりにかかる。
結局のところ、厳しい、という結論になってしまう。
「……難しいな」
「はい。どうにかしたいところですが、しかし、ダンジョンとなると、なかなか……」
「ルールは社会を作るが、しかし、そのルールで社会の一部が壊されようとしている……本当に難しいのう」
「……アリエル様……」
「少し頭を冷やしてくる」
天幕の外に出て、すぅっと空気を吸う。
澄んだ感じがして心地良い。
さて……どうするか?
このまま王都に帰る、なんて選択肢はない。
難しい状況ではあるが、どうにかして村を救う……これは絶対だ。
三日の内に策を考えよう。
とはいえ、今は煮詰まっているのが正直なところ。
少し散歩でもして気分転換をしよう。
「お?」
村の中を歩いていると、広場の片隅でフォルティア姉妹が村の子供達と話していた。
「リゼットお姉ちゃん、ミレナお姉ちゃん、おかえりなさい!」
「うん、ただいまー!」
「元気にしていましたか?」
「うん、元気ー!」
「でも、この前はちょっと怖かった……」
「うぅ、魔物がいっぱい……」
「大丈夫ですよ、私達がいますからね」
「そうそう。それに、えっと……そう! 正義の味方がいるからね!」
「せいぎのみかた?」
「悪を許さず、天の裁きを与える……そんな正義の味方がいるんだよ! すごく強くて、めっちゃ強くて、最強なんだよね」
「あなた、意味がすごくかぶっていますよ」
「いいの、そんな細かいことは。まあ、そういうわけだから安心していいよ」
「「「おぉーーー、正義の味方!!!」」」
「それに私達もいますからね。もう、この村を襲わせるなんてこと、させませんよ」
「ちゃんと解決してみせるから、安心しててね!」
「ほんと!?」
「わー、がんばって!」
「ばいばーい!」
子供達は元気を取り戻したらしく、元気に駆け去っていく。
フォルティア姉妹も、ばいばい、と手を振っていた。
「ずいぶんと好かれているのじゃな」
「あ、姫様! 見ていたの?」
「小さい村なので、皆が家族のようなものなんです。今の子が赤ん坊の頃、私が世話をしていたんですよ?」
「隣の子がさらに隣の子と付き合うことになったよ、とか、数時間後には村のみんなが知っていることもあるしね!」
「そのたとえはどうなんですか……」
「えー、わかりやすいのに」
思わず、くすりと笑ってしまう。
「いいところなのじゃな、この村は」
「はい……だからこそ、絶対に守りたいです」
「うん。なにをしても……ね」
「そうじゃな、その通りじゃ。このような村を守ることこそ、儂の……いや。儂ら、水天騎士団の使命なのじゃろう」
そう言うと、姉妹の顔へ少しだけ安堵が浮かぶ。
が、それは少しだけ。
すぐに暗い表情になる。
「でも、難しいんだよね……?」
「……そうじゃな」
「問題の根幹が、ダンジョンでなければ……」
「今は、色々と自由に動くことは難しい。が、村を見捨てるようなことは絶対にしない。不安かもしれぬが、なんとか調整してみせるゆえ、しばし待て」
「……姫様……」
「……アリエル様……」
「それまでは、儂らでこの村を守ればよい。よいな?」
「うん」
「わかりました」
姉妹は揃って頷いた。
その声はしっかりしていた。
だが、なぜか、ほんのわずかに違和感が残った。
なんじゃろうな?
覚悟を決めたような、妙な静けさがあった気がする。
――――――――――
夜は更けて、儂は天幕へ戻った。
村のため。
姉妹のため。
そして、国の理を壊さないため。
どう動くのが最善で最優か、布団へ入ってからも考え続けたが、結局、この日は明確な答えは出ないまま意識が沈んでいった。
そして翌朝。
サリーに着替えを手伝ってもらい、天幕の外に出て。
今日の村の警備の方針を伝えるべく、水天騎士団の団員を集めて……
「……む?」
そこで、リゼットとミレナが消えていることに気がついた。




