53話 故郷の村と迷う王女
数日後。
水天騎士団は順調に活動を続けていた。
王都周辺の治安維持、街道の警戒、魔物の討伐……
規模は様々だが、ひとつひとつを確実に片づけていくことで、少しずつ団としての信頼も増してきていた。
そして今日もまた、任務のために王都を離れていた。
目的は、王都から少し離れた場所にある村の近くに出現した魔物の討伐だ。
件数としては珍しくないが、放置すれば畑や家畜へ被害が出てしまうので、早めに叩くに越したことはない。
いつものように馬車に乗り、リゼットとミレアが並走する。
護衛なんていらないのだけど、さすがに王女を放置、というわけにもいかないらしい。
「……リゼット、ミレアよ」
そのまましばらくフォルティア姉妹と並走していたが、どうしても気になり、窓から顔を出すようにして声をかける。
「ずいぶんと落ち着かぬようじゃが?」
「えっ、そんなに出てたかな?」
「まだまだ未熟ですね……」
「すごくわかりやすいですよ」
同乗するサリーが苦笑する。「
「……実は、その村、私達の故郷なんだ」
「そうなのか? なんじゃ、早く言ってくれればよいのに」
「公私混同はいけませんので」
リゼットは真面目な顔で言う。
「任務に私情を挟むような真似は……」
「別に、それくらい普通ではないか?」
「え?」
「故郷なのであろう? なら、焦るのは当然ではないか」
「「……」」
リゼットが目を見開き、ミレナもぱちぱちと瞬く。
「そういうことなら急ぐとするかのう。まあ、皆に無理はさせられぬが」
「「ありがとうございます!!」」
うむ。
こういう時は、ちゃんと頼ればよいのじゃ。
その後、無理のない範囲で行軍速度を上げたのだけど……
結果的にその判断は正しかった。
「村が!?」
ほどなくして村が見えていたが、煙があがっていた。
魔物が柵を破り侵入して、好き勝手に暴れている。
「ちっ……二人、馬車に残れ! リゼット、ミレナ! それと他の者は儂についてくるのじゃ!」
「「「はっ!!!」」」
儂は剣を掴み、馬車から飛び降りて駆けた。
この距離ならもう走った方が早い。
そんな儂の後を、リゼットとミレナ、他の団員達が追随する。
「突撃じゃ!」
村の兵士が応戦しているがが、魔物の数が多い。
ただ、注意は村の兵士に向いていたため、儂は側面から奇襲をしかけることができた。
突撃。
側面から食い破るかのように、魔物の群れに突っ込む。
そして、それぞれに武器を振る。
魔物は狼型が主だったけれど、猿めいた小型種も混じっている。
統率は雑で、好き勝手に暴れている様子。
ただ、その分、数の厄介さがあった。
「邪魔じゃ!」
儂は、先頭の狼型へ斬り込む。
首筋を断ち、返す刃で二体目の前脚を断つ。
そこへ飛びかかってきた猿型を蹴り飛ばし、木柵へ叩きつけてやった。
「騎士団!?」
「や、やった! これで助かったぞ!」
村の兵士達が色めき立つ。
「魔物の掃討は儂らに任せよ! お主らは、村の防衛に専念するといい! 水天騎士団……突撃じゃ!」
――――――――――
「はぁっ!」
剣を払い、最後の一体の首を飛ばした。
そして、ようやく村に静けさが戻る。
「ふぅ……なんとかなったかのう?」
剣についた血を払いつつ、村の様子を確認する。
怪我人は多数出ているみたいだけど、重傷者は見当たらない。
「みんな、大丈夫!?」
「誰か怪我はしていませんか!?」
リゼットとミレナが馬を降りて、慌てて村人達のところへ駆け寄る。
そこへ、一人の老人がよろよろと進み出てきた。
白髪まじりの頭に、日に焼けた顔……たぶん村長だろう。
「おお……お主らか。よく帰ってきてくれた……!」
「村長! 無事!? 大丈夫!?」
「よかった、間に合ったみたいですね……」
「うむ、お主らのおかげじゃ」
「ありがとな、ミレナ!」
「リゼット達のおかげだ、本当に助かったよ!」
「すごく強くなったのね……」
村人達は姉妹を称賛しつつ、その顔に安堵を浮かべていく。
皆、親しみの感情を向けていて……
まるで家族を迎えたかのよう。
良い村なのじゃろうな。
「これも、姫様のおかげだね!」
「ありがとうございます」
「気にするでない。お主らは仲間じゃからな。仲間のためにがんばることは、当たり前じゃ」
その瞬間、フォルティア姉妹の目が、さらにきらきらし始めた。
部下としての忠誠というよりは、なにか信仰に近いなにかに変わり始めているような……?
……気のせいじゃな。
気にしないでおこう。
その後、ひとまず村人達の安全をしっかりと確認した後、村長から事情を聞くことに。
村長の家に集まり、話を聞く。
「少し離れたところに、未踏破のダンジョンが見つかりましてな」
「なに、ダンジョンじゃと?」
「はい……その影響で、以前よりも多くの魔物が流れてくるようになったのです。最初は家畜がやられ、次に畑が荒らされ……そして今日、ついに村にまで」
「ふむ、そのようなことが……」
「困りましたね、アリエル様……ダンジョンとなると少し問題が出てきます」
後からやってきて、会議に参加していたサリーが難しい顔で言う。
「ダンジョンは基本、冒険者に任せるのが原則です。国とギルドの間にそうした協約があります。元々は、ダンジョンの攻略を始めたのは冒険者で、そこから得られる財でギルドが発展したこともあり……」
「うむ。後から王家が介入して財をかすめとる、なんてことをしたら荒れるかのう。そういう協約が交わされたのじゃろう?」
「はい、その通りです。なので、騎士団が勝手に手を出すのはまずいです。正式に冒険者の派遣要請を出さなければなりません」
「しかし……それでは時間がかかるな?」
「はい。ですが、勝手に踏み込めば後で大きな問題になります」
……悩ましい。
今日は村を守ることができた。
人的被害はゼロで、他も少ない。
ただ、明日は?
明後日は?
これからも全てうまくいく保証はない。
ルールを守るか。
目的のために破るか。
以前の儂なら、迷わず後者を選んでいただろう。
ただ今は、王女としての立場も国の理も少しは学んできた。
だからこそ即断できない。
ここで軽率な行動をとれば、村を助けられるだろうが、後々で国全体に影響を及ぼして、結果、より多くの人が不幸になるかもしれない。
「むぅ……」
守りたい。
しかし、勝手には動けない。
「本当に悩ましいものじゃな……」




