48話 女神?
数日後。
朝からサリーが妙にるんるんしていた。
鼻歌まで歌っている。
しかも、わりと機嫌のよい時にしか出ないやつ。
「ごきげんじゃな?」
「もちろんです!」
儂が問うと、サリーはぴたりと振り返った。
「アリエル様の人気が、どんどん上昇中ですから!」
「うむ……まあ、最近はそれなりに働いたからのう」
先の商人の件だけではない。
その後も、水天騎士団は小さな事件をいくつか処理した。
街道の小競り合い。
流通妨害を企むごろつきの摘発。
迷子になった子供の保護……最後のは任務というほどではなかったが、泣いていたので放っておけなかった。
騎士団を与えられたことで自由は減った。
だが、できることも増えた。
以前なら、見つけても手を出しづらかったことへ、今は正式な立場で踏み込める。
それは思いのほか悪くない。
「このままなら、アリエル様が女神となって、アリエル様を信仰するアリエル教の誕生も近いですね!」
「とても嫌じゃのう……」
その光景を想像して、儂はげんなりした。
「えぇー!?」
「なぜそこで不満そうなんじゃ」
「だって、素晴らしいではありませんか! 慈愛と戦闘力を兼ね備えた幼女女神! 新しすぎます!」
「新しければよいというものではない」
するとサリーは、なぜか真顔で胸へ手を当てた。
「補佐は私が務めます。布教も任せてください」
「本気でやめてくれんかのう!?」
「ええーっ!?」
「なぜそこで驚くのじゃ!?」
まったく。
この女、時々よくわからない方向へ本気になるから困る。
とはいえ、サリーが浮かれているのにも理由はあるのだろう。
儂の人気が上がれば、水天騎士団の立場も安定する。
結果として、儂が動きやすくなる。
そのあたりまで含めて喜んでいるのかもしれない。
……たぶん、半分くらいは本気で女神だ教祖だと思っているだろうけど。
「まあ、色々働いたから、少しは悪人も減ったかのう?」
「はい。悪いことをしたらアリエル様がやってくる、という噂が広まっているらしく、犯罪が減っておりますね」
「儂、妙な方向になっていないか?」
「なっております」
「即答じゃな」
「でも、結果として平和になっているのですから、いいことです!」
確かにそこは否定しづらい。
悪党どもが怯えているのは実に結構な話だ。
儂が来るかもしれぬ、と勝手に震えておるのなら、今後も勝手に怯えていてほしいもの。
その時、扉が叩かれた。
「失礼します」
入ってきたのはフォルティア姉妹だった。
姉のリゼットが一歩前へ出て、きっちりと一礼する。
「陛下がお呼びです」
「む?」
「水天騎士団団長のアリエル様に、お話したいことがあると」
「父上が……」
ふむ……最近の働きに対する何かだろうか?
追加の任務か、あるいは騎士団についての報告か。
「わかったのじゃ。お主ら、それとサリーも一緒にこい」
「はい!」
「承知いたしました」
「はーい」
儂らは準備を整えて、王の執務室へ向かった。
そのまま執務室に入ると、父上と兄様……そして宰相殿もいた。
……なるほど。
気軽に天気の話、というわけではないようだ。
儂は前へ進み、礼を取る。
「来たか」
「お呼びと聞きました故」
「うむ。まずは……最近の活躍、見事である。思っていた以上の成果で、誇らしく思う」
「僕の提案を通して正解だったようだね」
「はい、ありがとうございますなのじゃ」
実際、水天騎士団は悪くない。
縛られることも増えたが、得たものも多い。
そして、父上はしばし儂を見た後、はっきりと言う。
「そして……今度は、お前へ王からの任務を与える」
「は!」
反射的に背筋を伸ばし、勢いよく返事をする。
よし、来たな。
今度はどのような案件だろう?
盗賊か、魔物か。
あるいは少し厄介な貴族絡みか。
なんにせよ任務なら受けよう。
そして、水天騎士団団長の名に恥じぬよう、全力で挑み、見事成し遂げてみせようではないか!
そう思っていたのだが……。
「アリエルよ。お前は、ザッハート家の長男と顔合わせをしてもらう」
「は!」
「要するに、見合いだ」
「は!」
そこまで勢いで返事をしてから、儂はようやく気づいた。
あれ?
今、なんて?
見合い?
儂が?
ザッハート家の長男と?
数拍遅れて、意味が頭へ届く。
「はぁ!?」
叫び声が執務室へ盛大に響き渡った。




