47話 水天騎士団、城下に舞う
傭兵の数は、ざっと見て三十を超えていた。
対するこちらは、儂とフォルティア姉妹のみ。
ずいぶん不利に見えるかもしれないが問題ない。
城下町の商会へ踏み込むのに大人数を連れてきては気取られやすいし、そもそも、数だけ揃えたところで質が伴わねば意味は薄い。
こちらは少数精鋭。
しかも、精鋭の中でもかなり上澄みだ。
「やれぇっ!」
怒号とともに、傭兵達が一斉に殺到する。
「姫様、右は私達が!」
「うむ、任せる」
リゼットが鋭く声を飛ばし、ミレナと同時に踏み込んだ。
姉妹の連携は見事だった。
リゼットが正確無比な剣筋で相手の攻撃を捌き、隙を作る。
そこへミレナが軽やかに滑り込み、迷いのない剣で急所を外して無力化していく。
「ほらほら、遅い遅い!」
ミレナが笑いながら、棍棒持ちの男の膝裏を払う。
「ぐあっ!?」
「お姉ちゃん、左!」
「ええ、わかっているわ」
すかさずリゼットが横から斬り込み、剣を持った男の手元を弾いた。
さらに返す刃で肩口へ一撃。
男は悲鳴を上げて倒れる。
うむ、さすがじゃな。
「儂も負けてはおれぬな」
床を蹴る。
一人目。
正面から斬りかかってきた男の剣を外し、そのまま柄頭を顎へ叩き込む。
二人目。
後ろから迫った短剣持ちの腕を取り、体重を乗せて床へ投げ飛ばす。
三人目。
斧を振り上げたところで懐へ潜り込み、胴を剣の腹で叩いて昏倒させる。
「なっ……!?」
「は、速すぎる!」
「このガキ、なんなんだ!?」
「ほれ、次々いくぞ」
儂は勢いを落とさないで、さらに加速して前へ出る。
四人目。
棍棒をかわして足払い。
五人目。
首元へ寸止めして、恐怖で戦意を折る。
六人目。
肩を裂き、武器を落とさせる。
気づけば、フォルティア姉妹の周囲で倒れた男達の三倍ほどが、すでに儂の足元へ沈んでいた。
「姫様、相変わらずむちゃくちゃだねー、強すぎない?」
「私達も負けてはいられませんね、少しでも追いつかないと」
「じゃ、もっとがんばろっか!」
フォルティア姉妹も奮起する。
二人に襲いかかる傭兵達が次々と倒されていく。
気がつけば傭兵は半分以下になっていた。
目も当てられない惨状に悪徳商人達が顔を引きつらせている。
「こ、こうなったら……」
「お、おい! 出番だ!」
奥から一人の大男が姿を現した。
全身を厚い革鎧で固め、腕は丸太のように太い。
背には大剣。
顔にも古傷が多く、いかにも修羅場を潜ってきたという風貌だ。
周囲の傭兵連中も、一歩引いて男のために道を空けた。
男は儂を見下ろし、口角を上げる。
「ふん……噂の姫様ってのは、お前か?」
「たぶん、その噂の姫様じゃが、お主は?」
「こいつらと変わらない、しがない傭兵だ。まあ、力は桁違いだがな」
商人が叫ぶ。
「そ、そいつを他の連中と同じだと思うなよ!? Aランクに匹敵する実力者だ!」
「お前らみたいなガキや女に負けるはずがない!」
「ほう?」
儂は相手を観察した。
重心、呼吸、体幹。
放つプレッシャーと眼力の鋭さ。
なるほど。
確かに実戦経験は豊富で、それなりの力を持つのだろう。
ただ……
「……お主は興が乗らんのう。故に、さっさと終わらせる」
「なに?」
次の瞬間、儂はすでに踏み込んでいた。
大男の目が驚きに見開かれるが、遅い。
剣が振り下ろされるより先に、儂はその懐へ入る。
大剣使いにとって一番嫌な距離だ。
「はっ」
短く息を吐き、斜め下から刃を走らせる。
反撃も反応も許さない、風のごとき一撃。
「ぐっ!?」
男の握っていた大剣が宙を舞い……
続けざまに柄頭を鳩尾へ叩き込み、さらに足を払う。
巨体がぐらりと崩れ、そのまま床へ膝をついた。
「終わりじゃ」
「ば、ばかなぁっ!?」
若い方の商人が悲鳴を上げる。
「大金で雇ったっていうのに!? Aランクに匹敵する力を持っているのに!?」
「騙されたのではないか? Dがいいところじゃろ」
「姫様、基準がおかしいねー。それ、ちゃんとAはあったと思うよ。姫様にかかると、それがD扱いとか」
ミレナが笑う。
「ですが、それでこそアリエル様です。私達も、まだまだ精進しないといけません」
リゼットが真顔で頷いた。
「さて……」
すでに傭兵達の戦意はほぼ潰えていた。
最後まで抵抗しようとしていた数人も、姉妹が見事な連携であっという間に制圧してしまう。
静かになった執務室で、儂は悪徳商人達の前まで歩いていく。
二人は完全に腰が引けている。
顔色は青を通り越して白い。
儂はその喉元へ剣をぴたりと突きつけた。
「さて、どうする?」
「ひ、ひぃ……!」
「まだ抵抗するのなら……斬るぞ?」
静かに告げると、二人は同時に膝をついた。
「こ、降参します!」
「お、おとなしく投降します!」
「賢明な判断じゃ」
剣を引き、儂は小さく頷いた。
もっとも……
確実にやりすぎなので、極刑か労働奴隷落ちは免れないだろう。
人生終わりなのは、ほぼ確定だ。
まあ、自業自得である。
儂の守る相手に、こんな連中は含まれていない。
善良な者を食い物にし、盗賊まで使って競争相手を潰そうとするような者へ、情けをかける理由はない。
「縛り上げよ」
「はい」
リゼットが即座に応じる。
「はいはーい」
ミレナも気軽な声で返し、あっという間に商人どもを拘束した。
「うむ、これにて一件落着じゃ!」
――――――――――
数日後。
被害を受けていた商人が謝礼に訪れてきた。
礼金も、品物も、なんなら商会として今後は全力で便宜を図ります、とまで言い出したので、さすがにそこは断った。
「よい。任務のうちじゃ」
「しかし、それでは私の気が……」
「そなたの幸せが報酬じゃよ」
「な、なんという……あぁ。やはり、姫様は女神様ですな!」
「いや、その呼び方はよしてほしいのじゃが……」
「なんとお優しい……姫様は戦乙女であり、しかし、平時は女神様である。うん、このことをただちに仲間に広めなくては!」
「話が通じぬのう……」
かくして商人の感謝は街へ広がり。
儂の名声と、設立されたばかりの水天騎士団の名声もまた、ぐんぐんと上がっていくのだった。




