46話 悪徳商人どもの末路
王都の城下町の一角。
表通りから少し外れた場所に建つ立派な商会の執務室では、二人の男が向かい合っていた。
どちらも高価な服を身にまとい、指には宝石の嵌まった指輪をいくつもつけている。
だが、その顔へ浮かぶ笑みは商人らしい愛想のよさではなく、もっと粘ついた底意地の悪いものだった。
「どうやら、今回もうまくいったようですな」
片方の男が、葡萄酒の入った杯を揺らしながら言う。
「ええ。あの商隊、また盗賊に襲われたそうで」
もう片方が口元を歪めた。
「何度も何度も同じ目に遭うとは、実に気の毒なことです」
二人は顔を見合わせ、くつくつと笑う。
「うまく情報を流した甲斐があったな」
「ええ。こちらが護衛の数や積み荷の種類、通る道まで丁寧に教えてやったおかげで、盗賊どもも迷わず動けたのでしょう」
「いい気味だ。あの商会、最近少しずつ伸びてきておったからな。今のうちに叩いておかねば面倒になる」
「商売とは厳しいものです。力のない者は潰れる……それだけのこと」
どちらも、まるで当然の理でも語るような顔だった。
だが、その奥にあるのは商才でも競争心でもない。
ただの醜い足の引っ張り合いである。
「失敗していないだろうな?」
と、年上の男が念を押す。
若い方の男は、自信満々に胸を張った。
「証拠なんて残していませんとも。盗賊へ話を繋いだのも、直接ではなく仲介を幾重にも挟んでおります。仮にそこを見つけたとしても、私達に繋げることは不可能でしょう」
「素晴らしい、さすがだな」
「いえいえ、あなたのお力があればこそです。そしてこれで、私達の繁栄は約束されたも同然ですな」
「うむ。競争相手が勝手に潰れてくれるのだから、実に結構なことだ」
はっはっは、と機嫌よく笑い。
しかし、そこに第三者の声が矢のごとく乱入する。
「……残念ながら、そなた達に約束されているのは没落じゃよ」
「な、なに!?」
二人の商人が弾かれたように顔を上げる。
いつの間にか、執務室の入口が開いていた。
そこへ立っていたのは、小柄な影。
金髪碧眼の幼い少女。
だが、その立ち姿には妙な威圧感があり、そこいらの貴族の子女ではないことがひと目でわかる。
しかも、その後ろには二人の女騎士まで控えていた。
「な、何者だ!?」
――――――――――
昨日、サリーが掴んできた情報は十分すぎるほどだった。
ライバル商会の者が盗賊へ接触していた証拠と金の流れ。
それから、今回襲われた商人の動きを把握していたことを示すいくつかの記録。
ここまで揃えば、あとは早い。
主犯を押さえ、言い逃れのできぬ状況を作り、必要ならば実力で黙らせる。
わかりやすい仕事だ。
ただ、今回は相手が王都の中。
派手に大人数を動かすと逃げられるやもしれない。
故に、連れてきたのはフォルティア姉妹だけ。
少数精鋭で、気づかれぬように踏み込んだというわけだ。
「な、何者だ!?」
若い方の商人が椅子から立ち上がり、顔を強張らせている。
年上の方は、まだなんとか平静を保とうとしているが、目は泳いでいた。
「どうして、このようなところに子供が……」
「ふむ……そなた、儂の顔を見忘れたか?」
「なに……?」
「何度か夜会や式典で見たことがある気がするのう。挨拶もしたはずじゃが?」
「ま、まさか……!?」
「ア、アリエル様……!?」
ようやく儂の正体に気づいたらしく、二人の商人は顔を青くした。
「ええい、無礼者。この方をどなたと心得る!」
「控えなさい!」
妙に楽しそうじゃな、二人共。
さすが姉妹だ。
「ど、どうして姫様がこんなところに……!?」
「そなた達の悪行、すでに掴んでおる」
「な、何のことでしょうかな……? 悪行など心当たりもありません」
「そ、そうですとも! わ、我々はただ真面目に商売をしているだけでして……」
「盗賊へ情報を流し、競争相手の商隊を繰り返し襲わせておいてか?」
そう告げると、二人の肩が目に見えて跳ねた。
「おとなしく罪を認めよ。往生際が悪いのは、あまり見苦しくて好きではない」
しかし、追い詰められた相手はたいてい醜く足掻くものらしい。
「ええい、出会え出会え!」
「姫様の名を騙る不届き者どもだ! 殺せ!」
やれやれ、やはりこうなるか。
おとなしく投降してくれれば楽なのだが、そうはいかないらしい。
奥の扉が一気に開いて、武装した男達が雪崩れ込んできた。
短剣、片手剣、斧、棍棒。
いかにも金で雇われた荒くれ者という顔ぶれだ。
儂は小さく息を吐き、剣を抜いた。
「まったく。素直に縛につけば、少しは見苦しさも減ったものを」
刃が青白く光を弾く。
儂は口元へ不敵な笑みを浮かべ、空いた左手でくいくいと手招きした。
「かかってこい」




