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44話 姉妹騎士と怪しい商会

 一度、城へ戻ることになった。


 盗賊討伐そのものは片づいたが、商人からの話はそこで終わらなかったのだ。

 命が助かった礼を何度も繰り返したあと、男は今度は、どうしても聞いてほしいことがあると言い出した。


 内容をざっくり言えば……自分の商隊ばかりが、あまりにも不自然な頻度で盗賊に狙われている、というものだった。


 単純な不運で片づけるには回数が多い。

 それに、護衛を増やしても襲われるし、運ぶ経路を変えても狙われる。

 しかも、積み荷の価値がとびきり高いわけでもない。


 目の敵のように狙われていて、なにかあるかもしれないから調べてほしい、とのことだった。


 確かに妙だ。

 とはいえ、すぐに答えを出せるはずもなく、儂は城へ向かう馬車の中で揺られながら、むぅ、と唸っていた。


「ねえねえ、どうしたの、姫様? なんか難しい顔してるけど悩み事? 私、聞くよ?」


 横からとても気軽い声が飛んできた。


 声の主は、馬車の隣を並走していた女騎士だ。

 赤みを帯びた茶髪を高い位置で束ね、目元にはいたずらっぽい明るさがある。


 年は二十代前半。

 鎧を着ていても、その動きには肩肘張ったところがなく、馬上でも妙に軽やかだ。

 綺麗というよりは可愛い。


 ミレナ・フォルティア。

 水天騎士団の団員だ。


 兄様の目にかなっただけはあり、実力は本物。

 ただ、気さくすぎる性格のせいで、以前の所属先では目上へも距離感が近すぎると疎まれていたらしい。

 あちらこちらへ回された結果、最終的に儂のところへ流れてきたという。


 まあ、儂はこれくらい気さくな方が楽だ。


「うむ、先ほどの商人の話が気になってのう」

「だよねー。私もあれ、怪しいと思う!」


 ミレナが馬上で大きく頷く。


「何回も襲われるとか普通じゃないもん。だって盗賊ってさ、もっとこう……楽に狙えるとこ狙うでしょ?」

「口に気をつけなさい、と何度言えばわかるのかしら」


 今度は、ぴしゃりとした声が飛んできた。


 ミレナの姉、リゼット・フォルティアだ。


 妹より少し長い茶髪をきっちりとまとめている。

 眼差しは鋭く、姿勢も隙がない。

 鎧の着こなし一つ取っても、真面目さがにじみ出ておるような女騎士だ。


 妹とは正反対のようでいて、この姉もまた、以前の所属先では浮いていたらしい。

 理由は、真面目すぎたこと。

 融通が利かず、妥協もせず、上が誤ればそれは違うと素直に言ってしまう。

 組織というものは、そういう者を案外嫌う。


 だが、腕は立つ。


 フォルティア姉妹は、水天騎士団の中でも一位二位を争う実力者だ。

 そして、気さくと真面目。

 けっこう気に入っている。


「えー、でも今のって、普通に感想言ってただけなんだけど?」

「その口調を姫様にまで使うのが問題なんです」

「お姉ちゃん、そういう言い方だから怖がられるんだよ?」

「誰のせいで私が余計に気苦労していると……!」

「姉妹仲がよいのう」

「よくありません」

「仲いいよー?」


 即答で割れつつも、でも本当に仲が悪くは見えないあたり、実にらしい。


 儂は少し口元を緩めつつ、先の話へ意識を戻した。


「商人が言うには、盗賊に襲われたのはこれで何度目かじゃったな」

「はい。しかも襲撃の度、荷の内容や経路をかなり正確に把握されていた形跡があるとのことでした」

「そこが気になるよねー」


 ミレナに同意だ。


 大商会ならば、利益も大きい故に敵も多い。

 盗賊と結んで嫌がらせを仕掛けられることも、なくはないだろう。


 だが、あの商人は中堅どころ。

 大きすぎず、小さすぎず。

 狙うならもっと旨みのある相手がいるはず。


 それなのに何度も何度もしつこく。

 まるで狙い撃ちでもするかのように襲われている。


「単純な盗賊の運の良さではあるまい」

「うんうん、そうだよねー。私もそう思う」

「他の商会による嫌がらせ、あるいは内部情報の流出。そのどちらか、もしくは両方の可能性が考えられるかと」

「うむ、儂も同意見じゃ」


 商人本人も口でははっきり言わなかったが、似たことを疑っていた。


 その上で、どうか助けてほしい、と。

 盗賊だけでなく、その裏にいる者まで調べてほしい、と。

 そう目で訴えていた。


 あの目は、ただの被害者の目ではない。

 何度も削られ、追い詰められて、それでもまだギリギリのところで立っている者の目だ。


 が、これ以上は限界。

 終わりが訪れるのも近い。


「しっかり調べる必要があるな」

「そうした方がよろしいかと」


 リゼットが短く同意する。

 真面目で堅いが、こういう時の話は早い。


「でもさ」


 と、ミレナが急に深刻そうな顔をした。


「今は、それよりもっと大事なことがあるよ……」

「大事なこと? なんですか? もしや、まだ賊が……?」

「ううん、そんなことよりも、もっともっと大事なこと!」

「それは、いったい……?」

「今日は、お城のシェフが新しいスイーツを作ってくれる日らしいんだよ!」

「……は?」

「だから早く帰らないと!」

「このバカ!」


 リゼットの怒声が飛ぶ。

 ついでに矢も飛んだ。

 本気だった。


 ミレナはきゃー、と笑って逃げていく。

 それをリゼットが、わりと本気で追いかけていく。


 賑やかな姉妹だ。


 だが、その騒がしさが悪いわけではない。

 むしろ、こういう空気は嫌いではない。


 前世の儂の周囲は、どうしても硬くなりがちだった。

 戦場では当然じゃし、騎士団におっても緊張感は常にまとわりつく。


 だが今は違う。


 こうして馬を並べ、真面目な話をしながら、途中でどうでもよい甘味の話が挟まる。

 その緩さは、平和の一つの形かもしれない。


「……まあ、スイーツも大事ではあるな」

「姫様!?」

「ですよね!?」


 戻ってきたリゼットが、そんな、という感じで驚いて。

 さっすがー、という感じでミレナが笑う。


「ただし、先の件を片づけてからじゃ」

「うぅー、やっぱりそっかぁ」

「当然です」


 ミレナが肩を落とし、リゼットがため息をついた。


 盗賊を使って商人を潰そうとしているのが誰なのか。

 そこへ、どのような利があるのか。

 そして、その手がどこまで伸びているのか。


 しっかりと調査して、これ以上の被害を生まないように、根本的な部分で解決する。

 それが、儂の新しい役目……水天騎士団のやるべきことだろう。


「急ぐぞ」

「はい」

「やった! スイーツに間に合う!」

「ミレナ!!!」


 ……やはり賑やかじゃのう。


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