125話 覚えていない
今にして思えば……
前世の時も、皇帝は自ら戦場に出ることが多かった。
儂も、何度か剣を交わしたことがある。
その時は、一対一というわけではなかったため、軽く、という程度に終わったのだけど……
皇帝は笑っていたように思う。
儂と剣を交わすことを楽しみ。
戦いで命を削ることを喜び。
そう語っているかのようだ。
……異常じゃな。
前世の儂も戦まみれだったが、しかし、戦いを追い求めたことはない。
剣を振るうのは国を守るため。
命のやりとりを楽しんだことは一度もない。
ただ、皇帝は違う。
戦いを待ち望み……
心の底から楽しんでいるようだ。
「ふむ」
皇帝は落ち着いた様子で、儂と兄様を見る。
ややあって、兄様に視線を定めた。
「お前達はあいつの相手をしろ」
「「「はっ!」」」
護衛の騎士達が一斉に前に出た。
数は三。
いずれも只者ではない。
その全てが兄様に向かう。
「にい……」
「こちらは任せてくれ!」
兄様はすぐに判断した。
「アリエルは皇帝を!」
「……うむ!」
少し迷ったものの、しかし、儂も決断した。
今は、なによりも皇帝を討つことを優先するべきだ。
兄様が三人を引き受ける。
三対一。
さすがにすぐ決められる数ではない。
だが、兄様なら保つと、そう信じられた。
その間に、儂は皇帝と対峙する。
「……ようやく」
皇帝を前にしていると、ふつふつと怒りがこみあげてくる。
この男が、前世の祖国を滅ぼした。
儂の生きた意味を踏み潰してくれた。
抑えることのできない感情が沸き立つ。
「貴様を斬ることができるようじゃな」
「ふむ? そなたと私は、初対面のはずだが」
「貴様……なにも覚えていないというのか!? なにも自覚がないというのか!?」
怒りを込めて返すが、皇帝はあっさりと首を横に振る。
「すまないな。これまでに踏み潰してきた命は数知れず、いちいち覚えてはいられない」
「外道が!」
今すぐに斬り捨ててしまいたい。
怒気と殺気が抑えられない。
儂の圧をまともに受けているはずなのだけど……
しかし、皇帝は動じていない。
あくまでも『静』だ。
「貴様、何故、戦を起こす? 人の命を奪うことがそんなに楽しいか?」
「知れたこと……平和のためだ」
「戯言を!」
「私は本気だ」
そう言う皇帝は、どこまでもまっすぐな目をしていた。
「異なる国家、異なる宗教があるために争いが起きる……人の価値観はそれぞれだ。しかし、それが依存する先……国などがバラバラになっていては、争いは消えないだろう。なればこそ……」
皇帝は、ぐっと手を握りしめた。
「我が帝国が大陸を統一する」
「な……」
「さすれば争いは消える……そうは思わないか?」
この男……本気で言っている。
争いを好むところはあるだろう。
ただ、それ以上に『王』としての確たる考えを持っていた。
争いを止めるために、争いを引き起こす。
矛盾しているが……
ただ、最終的に平和が訪れるのなら、それでいい。
そう考えているのだろう。
「……なるほど」
ただの戦狂いというわけではないらしい。
少しだけ、この男の見方を変えた。
しかし……
「お主の語る世界……認めるわけにはいかぬ」
儂は、改めて剣を構えた。




