123話 また会おう
翌朝。
儂達は皇都へ突入した。
初戦の敗北。
大損害。
部隊再編。
その混乱は、思った以上に大きかったらしい。
本来なら、皇都の守りは堅牢なのだろう。
突破することはできない。
絶対防御と言ってもいい。
ただ、街の空気は慌ただしい。
兵も人もせわしなく動いていて、荷車が行き交う。
その表情には、焦燥が強く滲んでいた。
先の敗北の影響だろう。
勝ち続ける帝国にとって、あの敗北はそれほど衝撃だったはず。
そのおかげで、警備は一部手薄になっていた。
警備の隙をついて奥に進む。
持ち前の身軽さと、リルから仕込まれた潜入の心得。
それと、兄様の判断を頼りに、皇居の近くまで迫ることができた。
ただ……
「ここから先は、さすがに厳しいのう……」
皇居の外縁を見上げ、儂は低く呟いた。
巡回兵の数が違う。
倍以上だ。
しかも、要所要所に魔力感知らしき術式まで敷かれていた。
そもそも、皇居の構造が砦のよう。
見栄えよりも実用性を重視してて、侵入者が身を隠す場所がない。
奥に進むためには、必ず誰かの目に晒されるような構造になっていた。
ここを、どう突破するか。
さて、どうするかのう……?
頭を悩ませていた時、同行していた騎士達が静かに立ち上がる。
……その目を見て、嫌な予感がした。
「どうか、ここは我々にお任せください」
「敵の目を引きつけるので、その間に、姫様と殿下は中へ」
「ダメじゃ」
即答した。
当たり前だ。
敵地のど真ん中……
しかも、少数。
陽動なんてすれば、どう考えても詰む。
国のために死んでこい……なんて、そんな命令を下せるわけがない。
王女としてだけではなくて、一人の人間として、決して許容はできない。
できないのに……
「問題ありません」
「ええ。我々は、必ず戻りますから」
騎士達は晴れやかな顔で言う。
嘘だ。
儂は演技は苦手みたいだけど、そんな儂でもわかるほど、わかりやすい嘘だった。
無茶だ。
絶対に生きて帰れるはずがない。
「では、行ってまいります」
「姫様と殿下は、どうか皇帝を……!」
「待て、勝手に話を進めるでない。儂は、そのような作戦は絶対に……」
「アリエル」
兄様が、儂の肩に手を置いた。
ひどく辛そうな顔で、それでも覚悟を決めた声で言った。
「……他に道はなさそうだ」
「し、しかし……!」
「彼らの覚悟を……悲しむのではなくて、受け止めるんだ」
「……」
騎士達の顔を見る。
皆、静かだった。
怯えはある。
ただ、それ以上に覚悟を決めていた。
強い決意を見せていた。
なら……
儂は、否定してはいけないのだろう。
感情に流されて、彼らの騎士としての誇り……
そして、国に捧げる想いまで否定してはいけない。
「……わかったのじゃ」
頷きつつ、儂は、一人の前に立つ。
そして、抱きついた。
「姫様……?」
「また会おう……必ずじゃぞ」
「……はい、必ず!」
意味のない約束だ。
守られないことは互いに理解している。
でも、儀式のようなもので……
先に進むには必要なことと思っていた。
儂は、次の騎士にも同じように抱きついた。
そして、手を握る。
「また会おう」
「はい!」
そうやって、最後の一人まで言葉をかけた。
死を前提にした別れの言葉は、どうしても言えなかった。
兄様に、死ぬなと言われたばかりなのだ。
ならば、騎士達にも死ぬなと言うしかないだろう?
騎士達は微笑み、そして敬礼する。
「では、行ってまいります!」
「また後でお会いしましょう」
その姿は力強く……
そして、見ていると胸をえぐられるような想いがした。
そして、彼らは駆けていく。
わざと目立つように声をあげて。
堂々とした立ち振る舞いで、派手に動いて。
すぐに怒号が上がり、警鐘が鳴る。
見張りの兵士達が動いて、一気に人の流れが変わる。
……残されたのは、儂と兄様だけ。
「……兄様……」
ぽつりと呟く。
「儂は……絶対に負けません」
「うん」
兄様は、剣の柄へ手を置く。
「僕も負けないよ」
「ですな……ええ、行きましょう」
儂も剣の柄に手を置いた。
確かな覚悟を決めて。
想いを胸に定めて。
前に進んでいく。
どこまでも、どこまでも。




