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121話 再優先事項は生きて帰ること

 翌日。

 王都の空気は、奇妙な静けさに包まれていた。


 表向きには、戦勝の余韻がまだ残っている。


 初戦の大勝。

 三十万の帝国軍を打ち破ったという事実は、民へ大きな勇気を与えていた。

 兵も沸いている。


 帝国と真正面から戦える。

 勝てるかもしれない。

 そう思い始めていた。


 ただ……

 実際は薄氷の上を渡るようなもの。


 最初の山場の手前の手前を、どうにかこうにか、疲労困憊で乗り越えたようなもの。

 これから先、本番が控えていて……

 そして、その成功確率は目を覆いたくなるほど。


「まあ、そのようなこと、わざわざ口にする必要はないがのう」


 元々、勝算なんて低い。

 一応の策は立てたものの、わりと博打のようなところがある。


 それでも、戦う。

 そして勝つ。


「……今度こそ、必ず」


 儂は、窓の外の空を見上げつつ、拳を握った。




――――――――――




 数日後。


 再び来るであろう帝国軍の襲撃に備えて、軍の再編成などが行われていた。

 それと同時に、策の本命……

 帝国に侵入して、皇帝を討つための部隊も編成された。


 儂と兄様。

 そして、数名の精鋭の騎士達。

 それだけ。


 潜入するからには、少数精鋭でなくてはいけない、という理由はあるものの……

 ただ、これ以上、戦力を割けないという理由もあった。


 帝国軍の残存部隊の動きも、国境の再編も、警戒し続けねばならない。

 友好国の兵も合流してはいるが、全員が全員、皇帝暗殺のような賭けへ投入できるわけではない。

 そのようなことをしたら、普通にバレる。


 故に、最強格である儂と兄様、そして信頼のおける騎士へ託されることとなった。

 サリーを始め、皆は一緒に! と言ってくれたのだが……

 王都の守りを優先してもらうことにした。


 打撃を与えたから、敵はすぐには動かないだろう。

 ただ、それはあくまでも予想。

 想定よりも早く動いて、二度目の戦闘となる可能性はあるため、皆は王都の守りに徹してもらうことにした。


 そして……


 出発の日。


 王都の端、まだ朝靄の残る厩舎裏。

 そこに、いくらかの者が集まっていた。


 大仰な見送りはない。

 ただ、それでも見送る者達の目は、誰一人軽くなかった。


「必ず戻ってきてくださいね!」


 ミレナが、今にも泣きそうな顔で言う。


「絶対ですからね!?」

「うむ、心配するでない。儂が約束を違えたことはなかろう?」

「……はい。その言葉、きっちり守っていただきます」


 リゼットも、真剣な目で儂を見つめてくる。


 リルは、いつものようにおどおどしていたが、それでも必死に胸を張っていた。


「ぼ、僕も……信じてます」


 声が震えているけど、でも、目を逸らすことはない。


 サリーは、他の皆より一歩後ろに立っていた。

 静かに、そしていつも通り、柔らかな笑みを浮かべている。


「信じています」


 余計なことは言わない。

 ただ、その一言の重みは、誰の言葉より深かった。


 驚くべきことに……

 というか、本来はそういうことはいけないのだが、父上も見送りに来てくれていた。

 姉様達もいる。


「健闘を祈る」


 父上の言葉は短い。

 ただ、それで十分だ。

 不思議と力が湧いてくる。


 その後で、なぜか三人まとめて儂へ迫ってきた。


「な、なんじゃ?」


 警戒する間もなく、抱きしめられる。


「あなたは、時々、妙なところで無茶をしますから」


 エルレイン姉様が冷静に言う。


「本当に、死なないでくださいまし」

「絶対帰ってこいよ」


 レイ姉様は相変わらず率直だった。


「今回ばかりは、土産話だけじゃ済まさねえからな」


 父上は、少しだけ困ったように眉を寄せたが、最後には儂の頭へ手を置いた。


「……頼んだぞ」

「はい」


 それ以上は言わない。


 ……言えば、少しだけ泣きそうになる気がしたから。



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