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120話 子守唄

 策は成功した。

 砦は失ったものの、敵軍を分断。

 さらに、敵将であるレオンハルトを討ち取ることができた。


 これが決定打だ。

 部隊を反転させて、反撃に出て……

 さらに、この時のために控えていた兄様の部隊も動いて、合流。

 一気に叩き潰した。


 もちろん、こちらにも被害は出た。

 じゃが、想定よりはるかに下。

 大勝と呼んでいい結果だ。


 とはいえ、ちょっと無茶をした感はある。


 敵陣に一番に切り込んで。

 砦を間近で爆発させて。

 敵将と一騎打ちをして。


 うん……ちょっとではなくて、けっこうかもしれない。


 結果、それなりのダメージを受けていて……

 王都に戻った後、儂は、自室でサリーの治療を受けていた。


「いたたたたたっ!?」

「じっとしていてください」


 上着を脱がされて、椅子へ座らされて、あちこちの怪我を手当てされていた。


 少し煤けているだけ。

 少し服が裂けているだけ。

 少し血が出ているだけ。


 実際、そのとおり。

 放っておけば、そのうち治る。

 そう思っていたのだけど、サリーは見逃してくれず、強引に治療に出てしまう。


「むぅ……これくらい、本当に大したことないのじゃが」

「十分に大したことです! 一国の王女が、こんな怪我をしてしまうなんて……」

「戦争なのだから、わりと当たり前じゃろう?」

「王女が戦場に立つことは非常識です!」

「むぅ」


 そこを突かれると弱い。


「本当なら、王宮で一番の治癒師を呼びたいところなのですが……」

「それはダメじゃ」


 真顔で返す。


 こうして普通に話ができている以上、儂の怪我は、本当に大したものではない。

 まあ、そこそこ痛いが……

 命に関わるほどではないし、後遺症が残るほどでもない。


 ただ、他の者はそうはいかない。

 今回の戦いで命に関わる怪我をした者はたくさんいる。

 治癒師は、そうした者達のために動いてほしい。

 余裕のある儂に関わるべきではない。


「まったく……」


 薬を塗りながら、サリーがじろりと睨む。


「また、こんな無茶をして」

「すまぬのう」


 これはもう、素直に謝るしかない。


「心配をかけた」

「本当にそうです。いつものことですが、でも、やはり心が痛みます」

「おおぅ」


 さすがに反論できない。


「いつもすまないのぅ……」

「まったくです」

「遠慮がなくなってきたのう……それと、今は、それは言わない約束じゃ、と返すところでは?」

「……」

「スミマセン」


 ちょっとふざけて物語に書いているセリフを口にしたら、わりと本気で睨まれた。

 ごめんなさい。


「……」

「……」


 しばしの沈黙。


 それから、ふと思い出した。


「そういえば……」


 包帯を巻かれながら言う。


「先に言っていた、なんでも言うことを聞くこと、今でもよいぞ?」

「本当ですか!?」

「うむ。心配をかけてしまった詫びじゃ」

「で、では……ふ、ふふふ、うふっ♪」


 サリーの口元がにっこりと歪んだ。


 あ。

 儂、早まったかもしれない。




――――――――――




 儂は、サリーと一緒にベッドに寝ていた。

 しかも、抱き枕にされている。


「アリエル様は、とにかく休養が必要です。これからもやることはたくさんありますが、今日くらいはきちんと休んでください」

「うむ。それは納得できるが……しかし、儂を抱き枕にする意味は?」

「私が幸せです♪」

「むぅ……」

「なんでも、とおっしゃいましたよね?」

「わかった、わかった。好きにせよ」

「はい、好きにいたします♪」


 すごく幸せそうだ。

 こうなったらもう、止められない。


「お主、出会った頃は普通のメイドじゃったのがな……」


 遠い目。


「どうしてこんなことに?」

「アリエル様が可愛らしすぎるのが原因かと。可愛くて女神様なのが問題かと」

「そんなことないのじゃがなぁ……」

「あります」

「もう、なんでもよいわ」


 サリーに反論は通じない。

 時折、この聡明なメイドは大暴走するのだ。


「……アリエル様はすごいですね」


 不意に、サリーがぽつりと言った。


「そうかのう?」

「今回の戦を勝利に導いて……それだけではなくて、いつも先頭に立ち、己が傷つくこともいとわない。国のため、民のために剣を振るう……すごすぎますよ」

「王女としての務めであり、また、儂がそうしたいからそうしているだけじゃ」

「そういうところがすごいんですよ」


 どういうところだろう?


「ただ……」

「む?」


 サリーに優しく抱きしめられた。


「まだ子供ということを忘れないでくださいね?」

「む」


 そこは少しだけ複雑だ。

 強くありたいし、頼られたいし、実際そうでないといけない。


 ただ、こうして言われると、少しだけ肩の力が抜ける気もする。


「今度は……私に、なにかしてほしいことはありませんか?」

「うーむ」


 少し考える。


「なんか、眠くないからのう……眠れるようにしてくれぬか?」

「はい」


 サリーは、ぽんぽん、と儂の背を一定のリズムで叩き始める。

 そして、子守唄を歌う。


「~~~♪」


 静かな歌だった。

 上手いとか下手とかではなく、ただ、妙に落ち着く。

 聞いていると、胸の奥のざわつきが少しずつ沈んでいく。


 ふと、母様を思い出した。


 前にも、こんなふうに眠りへ導かれた気がする。

 夢の中か現実か、もうよくわからないけど、それでも確かに似た温もりがあった。


「アリエル様、おやすみなさい」

「……うむ……」


 ぽん、ぽん。

 優しい手と静かな歌が広がる。


 そうして儂は、ようやく自然に眠りへ落ちていった。



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