118話 戦士と戦士
最初の一撃から速い。
レオンハルトの大剣が、重い唸りを上げて振り下ろされる。
ただ力任せではない。
無駄のない踏み込みと、最短距離を通る斬線。
見た目の重厚さに反して、極めて洗練された一撃だった。
儂は半歩だけずれてかわし、そのまま懐へ潜り込む。
「甘い!」
踏み込んだ瞬間、レオンハルトの剣が巻き上がるように返ってきた。
速い。
そして重い。
なんとか受け流すものの、完璧とはいかず、腕に痺れが残ってしまう。
そこへさらに、剣の軌道へ重なるように火の魔法が奔った。
「ぬぉっ!?」
跳んで避ける。
直後、さきほどまでいた地面が弾けた。
なるほど。
剣だけではなくて魔法も使えるのか。
厄介じゃな。
あと、ついでに言うと羨ましいのう。
「ふっ!」
対する儂は、逆に極限まで肉体へ寄せた戦い方を取る。
幼女の体は軽い。
故に速い。
地を蹴り、右へ左へと位置を変え、一瞬で間合いを潰す。
剣を打ち込み、退いて。
また、別角度から切り込む。
速度と手数の多さで相手を翻弄する。
とはいえ、レオンハルトは帝国の将だけあり、雑魚ではない。
バカでもない。
しっかりとこちらの動きを見て、隙を突いてくる。
剣が横薙ぎに来る。
低く屈してかわし、そのまま前に出て膝裏を狙う。
だが、あと一歩のところで届かない。
重戦士のように見えて、攻撃はそこまで速くない。
ただ、技術は極限まで鍛え上げられていて、なかなか刃で捉えることができない。
「さすがに強いのう」
「貴様もな。戦乙女は伊達ではないということか……幼い子供かと思いきや、中身は化け物とはな」
「こそばゆいのう」
「その軽口、いつまで叩けるか見させてもらおうか!」
「ならば儂は、お主の余裕を消してみせよう!」
互いに踏み込む。
剣と剣がぶつかり、火花が散る。
レオンハルトの魔法が混じり、空気が裂けて、土が削れた。
儂は一気に三連撃を叩き込み、さらに、四撃目で喉を狙った。
レオンハルトはそれを大剣の腹で受け止めて、受けた勢いのまま魔法陣を展開して雷撃を放つ。
儂は跳び、空中で体をひねり、その雷をかわしたまま逆に頭上から斬りつける。
すると今度は障壁が立ち上がり、刃を弾いた。
むぅ……敵ながら見事じゃな。
本当に、あと少しのところで攻めきることができない。
力、技、判断……どれも非常に高い。
今まで戦った中でも、一番の強敵だ。
「お主は強いのう」
少し距離を取りながら、素直に言う。
「今までで一番じゃぞ? わりと本気なのじゃが、こうも踏み込ませてくれぬとは」
「それは私のセリフだ。まさか、ここまでとはな」
そう言うものの、レオンハルトの目に宿る光は、むしろ先程よりも鋭い。
気合に満ちていて。
研ぎ澄まされた殺気を放っていて。
そして、どこか楽しそうにしていた。
もしかしたら……
それは、儂も同じかもしれない。
絶対に勝たなければいけない戦いではあるが。
ただ、こうして一対一の戦いを繰り広げていると、一人の武人に戻る時がある。
「……先は色々と言ったが」
レオンハルトが静かに言う。
「貴様と戦えることを光栄に思う」
思わずぽかーんとしてしまう。
ややあって、儂は口元に笑みを浮かべた。
「紳士じゃのう」
「自分でも、このような言葉が出たことに驚いている」
「新しい発見は、いつでもあるものじゃ」
「……貴様が言うと、妙な説得力があるな」
「じゃろう?」
多少の沈黙。
それから、二人して苦笑した。
「できれば、戦場以外で出会いたかったのう」
「私もだ」
短い本音。
だが、そこに嘘はない。
こういう男となら、酒を酌み交わしながら戦の話でもしたかった。
だが、それは叶わぬ願いだ。
さあ……決着をつけようではないか。




