117話 最後は実力で
どがっ!
積み重なる瓦礫を蹴り飛ばして、儂は地面の中から這い出た。
「けほっ、けほっ……あ、危なかったのじゃ……」
少し深く掘りすぎたかもしれない。
危うく生き埋めになってしまうところだった。
……いや。
あれくらい深く、でよかったのかもしれない。
周囲を見ると、砦は綺麗さっぱり消えていた。
あったはずの石壁も、木組みも、旗も、門も……なにもかも吹き飛んでいる。
巨大なクレーターだけが口を開けていた。
まだあちらこちらで火が燻り、石片と焦げた木片がぱらぱらと降ってきていた。
爆炎に巻かれた帝国軍の姿など、もはや原形を留めていない。
うむ。
実にいい。
「大成功じゃな」
砦は消滅してしまったものの、敵の中枢を壊滅させることができた。
まだ敵兵は残っているが、中枢……指揮官を叩いたのだから、さほど怖いものではない。
まともに動けない軍隊なんて、ただの的でしかないからな。
多少は苦戦するかもしれないが、多少だ。
開戦時よりも遥かに楽になることは間違いない。
「ちと無茶な策じゃったが……まあ、うまくいったからよしとするかのう」
味方は全員、砦を越えた先まで撤退。
儂だけが最後に導火線へ火をつけて、避難壕へ飛び込んだ。
もしも穴を浅くしていたら、さすがにやばかったかもしれないが……まあ、生きているのだから問題なし。
「さて。急いで皆と合流して……」
「……貴様」
地の底から響くような低い声がした。
振り向くと、瓦礫を押しのけて敵将が姿を見せる。
「……やってくれたな……」
「おっ、おぉ……」
思わず目を瞬く。
「お主、生きておったのか?」
さすがに無傷ではない。
鎧はところどころ砕けて、肩からは血が流れて、顔にも火傷の痕がある。
だが、致命傷には遠い。
驚くべきしぶとさだ。
「化け物かのう?」
「このようなふざけた策を考える貴様にだけは言われたくない。とっさに、全力で魔法障壁を展開して……それと、いくらかの部下を盾にしただけだ」
「……部下を盾にするのは、感心しないのう」
「そうしなければ、俺を含めて全滅だ。ならば、俺だけでも生き残る方が何倍もいい」
「やれやれ、とんでもない合理主義者じゃのう」
言っていることは確かだ。
それと、こんな策を実行した儂が非難できることでもない。
「それと……あとは単純に、運が良かったのだろうな」
「そうか。運なら仕方ないのう」
うんうんと頷いて、それから笑う。
敵将も小さく笑う。
そして……互いに剣を抜いた。
「では……運ではなく、儂が終わらせてやろう」
「それは私のセリフだ」
敵将は大剣を扱うようだ。
己の背丈ほど巨大な剣を、揺らぐことなくしっかりと構えている。
ふむ。
このプレッシャー。
そして、構え。
なかなかの強敵のようだ。
……悪くない。
久々に心躍る。
こやつとならば、いい戦いができるかもしれぬ。
前世は国に剣を捧げて。
今世もそれは変わらない。
ただ、どこかに武人としての心がある。
この剣はどこまで通用するのか?
武の頂に到達することができるのか?
時折ではあるが、ふと、そんなことを思う。
だから今……
少しではあるが、わくわくした。
この瞬間だけは、王女ではなくて。
戦乙女でもなくて。
ただの一人の戦士として、敵将と向き合う。
「そういえば……」
「どうした?」
「名乗っておらなんだのう」
これから行われるのは死闘。
どちらかの命が尽きるまで、戦いが終わることないだろう。
故に、しっかりと名乗りをあげておきたい。
「儂は、アリエルじゃ。アリエル・ノクティス・フィーゼルマイン……フィーゼルマイン王国の第三王女であり、最近は、戦乙女などと呼ばれておる」
「……帝国軍、第三隊隊長、レオンハルト・エンディウスだ」
必要なことはこれで終わり。
あとはもう、言葉はいらない。
交わすのは言葉ではなくて刃。
「……」
「……」
剣を構えて、静かに視線を交わす。
そのまま対峙すること、少し……
一陣の風が吹いた。
「っ!」
「っ!」
それを合図にして、儂らは同時に前にでる。
いざ……
尋常に勝負!




