115話 激突する大地
砦は囮。
こちらの本隊は、さらに側面に集結していた。
帝国軍が左右へ展開し、片翼が一時的に孤立する、その瞬間を待っていた。
そして、今が勝負の時。
儂は先頭に立つ。
「ゆくぞおおおおおお!」
地を蹴る。
風が裂ける。
続いて、フィーゼルマインと友好国の兵達が一斉に吼えた。
そのままの勢いで、帝国軍の側面に喰らいつく。
「なっ!? こ、こいつらは……!?」
「フィーゼルマインの!? いったい、どこから……」
「落ち着け! 数は俺達の方が上だから……くっ、なんていう完璧な奇襲だ!」
敵兵がおもしろいほど動揺して、浮き足立つ。
奇襲。
それをすぐに悟るものの、しかし、乱れた心は整えることができない。
本来はもっと練度が高いはずなのだけど……
まともに力を発揮することができず、簡単に打ち破ることができた。
さきほどまで砦の左右に敵が潜んでいるはずだと、余裕をもって展開していたところへ、さらにその外側から殴りつけられたのだ。
そりゃ混乱もする。
その混乱の只中へ、儂は飛び込んだ。
「遅いのう!」
剣を薙ぐ。
悲鳴と共に、敵兵がまとめて吹き飛んだ。
さらに返す刃で、下から上へ。
再び、敵兵がまとめて飛ばされていく。
「前へ出ろ! 敵を分断せよ!」
叫ぶように、味方に追加の指示を出した。
ただ斬り散らすだけでは意味がない。
目指すのは、隊列の寸断と恐慌だ。
儂は敵兵の塊へ斬り込み、先頭の列を薙ぎ払い、そのまま横へ抜ける。
敵の中央を裂くように走れば、それだけで後列との連携が崩れる。
混乱の中、誰が命令を出して誰が受けるかも曖昧になる。
そこへ、フォルティア姉妹が続いた。
「押し込んでください!」
「そこ、空いてるよ!」
実は二人は、こういう乱戦にはめっぽう強い。
姉が整えて、妹が崩す。
姉妹ならではの連携がとても強力な武器となる。
二人で一人。
彼女達を突き崩せる者は、そうそういないだろう。
そして、さらにその後ろ。
見えにくい位置から、リルの仕掛けが効いていた。
「きゃっ……じゃなくて、ひっかかってください……!」
なにやら情けない台詞が聞こえたと思えば、帝国兵の足元で細い線が跳ねる。
次の瞬間、石と木片が飛び、足を取られた兵がまとめて転ぶ。
そこへ別方向から麻痺針や絡め具が飛び、次々と行動不能者が増えていく。
さすがというべきか。
ありったけの罠を仕掛けて、戦場を翻弄する。
トリッキーさに関しては、リルが一番だろう。
ちょくちょく情けないセリフが出てくるのだけど、それはもう本人の性格なので仕方ない。
というか、そんなセリフをこぼしつつも、確実に敵兵を打ち倒していく……
わりと、とんでもないヤツなのかもしれない。
もちろん、他の兵士達も奮闘していた。
帝国相手に、まったく恐れていないわけではない。
ただ、最初の一撃がうまく決まり、儂が先頭で暴れている影響もあって、勢いは十分についてきていた。
勝てる。
そう思わせることが、まず大事だ。
そうすれば勢いが出て、さらに前に進むことができる。
ただ……
「ちっ、もう持ち直したか」
何割かを喰らい、一時は帝国軍を崩すことができた。
ただ、崩壊とまではいかない。
さすがは帝国。
部隊長の怒声が飛び交い、号令が再び通り始めて、崩れた隊列がじわじわと組み直されていく。
悔しいが、兵の質が良いな。
混乱しても、自分のやるべきことへ戻る速度が速い。
末端とはいえ、完璧というほどの練度だ。
こちらの奇襲に対応してみせて、新しい陣形を組む。
そして、反撃に転じる。
この速度。
この判断力。
敵ながら見事、と言うしかない。
帝国軍の反撃。
今度は連中の勢いが増した。
弱小国ごとに負けてたまるか。
そのようなことになれば帝国軍の名折れ。
調子に乗るな。
ここで叩き潰す。
そんな意思を感じられるような、強い雄叫び。
戦場が震えた。
こちらの奇襲は成功したものの……
未だ、帝国軍との戦力差は大きい。
まともに激突すれば、叩き潰されるのはこちらだ。
故に、ここで粘るようなことはしない。
「撤退じゃ!」
儂は即座に命じた。
周囲の兵達が驚いた顔をしつつ、慌てた様子で下がっていく。
敗北した、と動揺しているわけではない。
ただの演技である。
儂らは撤退する。
しかし、それは本当の撤退ではない。
リル特製の罠を、あらかじめたっぷりと仕込んでおいた場所がある。
そこに敵を誘い込むための撤退だ。
味方は、その場所を知っている。
どこに糸があり、どこに落とし穴があり、どこで石が崩れ、どこへ麻痺煙が噴くのか……それらを全て避ける訓練まで積んできた。
だが、敵は違う。
「うあああ!? な、なんだここは!?」
「くそっ、罠だらけじゃないか!」
「待て、一度止まって……くっ、ダメだ。もうここは……」
敵兵が次々と引っかかる。
足を取られて、穴へ落ちて、麻痺煙を吸って膝をついた。
そうして転んだところへ後続が乗り上げて、再び隊列が乱れていく。
「お、おのれ……正々堂々と戦わないか!」
敵兵が怒りに吠えるが、
「知らん」
儂は振り返りもせず答える。
「そもそも、戦に正々堂々も卑怯もないわ」
戦とは、生き残った方が勝ち。
綺麗事で兵の命は救えないし、国も救えない。
やれることがあるのなら、なんでもしよう。
とはいえ……
「……さすがに、しぶといのう」
側面からの奇襲と罠で、けっこうな数を減らしたはず。
それでもなお、帝国軍の兵力は膨大だ。
やっと三分の一を削った、というところだろうか?
数だけで見れば、まだ問題ない。
そう判断したらしく、追撃の手は止まらない。
ここで確実に仕留める、という強い意思を感じた。
……それでいい。
儂は、ニヤリと笑う。




