109話 起死回生の一手はどこに?
「少数精鋭で帝国へ侵入して、皇帝を討ちますのじゃ」
「「「……」」」
我ながら大胆極まりない策だと思う。
呆れているのか、驚いているのか。
皆が沈黙する。
ただ、笑うことはない。
皆、驚きつつも、真剣な表情で儂の言葉の続きを待っている。
「アウムドラの件と似ています。そもそも……帝国が戦を繰り返しているのは、皇帝の意思によるもの。そのトップが変われば、戦を繰り返すこともなくなるやもしれませぬ」
「……かも、の話で、確定ではないと思うけど?」
「はい、後継者が同じ道を選ぶやもしれませぬ。しかし、その後継者が選ばれるまでに、相当な時間がかかるでしょう」
「帝位争い、か」
兄様が目を細めた。
「はい、その通りですじゃ。聞けば、帝位争いは激しいとのこと……」
もしかしたら、次の皇帝も主戦派かもしれない。
今以上に過激かもしれない。
それでも構わない。
「……もしも、皇帝がなんの準備もなく死ねば? しかも、戦争の最中に。激しい帝位争いが起きるはず。普通に決まることはなく、混乱が加速して、荒れて……内部分裂が起きるやもしれませぬ。まあ、それは願望ですが……とにかくも、しばらくの間、戦争どころではなくなるのは確か」
「……そうか。アリエルが考えていることは」
「時間を作ります」
まずは、今を乗り切ることだけを考える。
問題の先送りと言われたら、まさにそうなのだけど……
今、フィーゼルマインに必要なのは時間だ。
突然の帝国の動きに対応しきれていない。
悪く言うと、いくら帝国でも無差別な戦争を仕掛けてはこないだろう、と甘くみていた。
その認識を改めて。
そして、軍備拡張を……
あるいは、外交交渉を重ねていかなければならない。
今まで以上に。
それを成し遂げるための時間だ。
「我らは力を蓄え、新しい策を練るのじゃ…百年先の勝利ではなくて、一ヶ月先の滅亡を避けることこそが、今の最優先課題と考えます」
「「「……」」」
沈黙。
望まれていた策と違っただろうか?
しかし、これが今、儂に出せる最善だった。
最初に口を開いたのは、宰相殿だった。
「……成功率は低いでしょう」
「はい」
「ですが……他に、これ以上の策もまた思いつきませぬ」
「そうだね。僕も、これが最善だと思うかな」
姉様達も続く。
「とても危険で、そして、これ以上ないほどの綱渡りですわね……まるで、遥か上空で保護魔法なしに飛び降りるかのよう」
「だが、格下が格上に抗うには、これくらいしなければ届かねえだろうな」
レイ姉様が、にやりと笑う。
「嫌いじゃないぜ、そういうの」
「ええ。たまには、そういうのも悪くありませんわ。わたくしも賛成ですわ」
各国の王子達も、短く同意を示した。
父上は目を閉じて、しばし考えた後、ゆっくりと頷く。
「……わかった。それでいこう」
――――――――――
さらに、あれこれと話し合い詳細を詰めて……
ひとまずの会議が終わり、儂は退室した。
会議は終わったものの、第一弾というだけ。
まずは、帝国の第一陣を打ち破るための策。
それから、皇帝を討つための策。
いざという時の策など、話し合うべきことはたくさんだ。
それを詰めるために、まずは各々、情報を整理する。
そして、再び第二弾、第三弾と会議を重ねていくだろう。
「やれやれ」
大変な事になった。
でも、こんな時だからこそがんばらねば。
そんなことを考えていると、後ろから足音が二つ、追ってきた。
姉様達だった。
「な、なんですかのう?」
反射的に身構えた。
だって怖いのだから仕方ない。
エルレイン姉様とレイ姉様は、そんな儂を見て、ほんの少しだけ笑う。
「安心しなさい。お小言を言うつもりではありませんわ」
「身構えすぎだぞ」
「そ、そう言われましても……」
「あなたは……」
エルレイン姉様が優しく笑う。
「今まで、とてもがんばっていたみたいですね……偉いですわ」
「ああ、よくやってきたな。褒めてやるよ」
エルレイン姉様とレイ姉様が、儂の頭にぽんと手を置いた。
なでなで。
「……ふぇ?」
思わず間の抜けた声が出てしまう。
ただ、姉様達は、それ以上なにも言わない。
軽く手を振り、そのまま立ち去る。
廊下に一人残された儂は、しばらくぽかんとしてしまう。
ややあって、ようやく理解する。
「……ふむ」
笑みがこぼれる。
期待されている、ということか。
それと同時に、妹のことを気にしてくれているのだろう。
まったく……
これだから、姉様達はずるい。
普段は厳しいけど、ここぞという時は優しい。
飴と鞭の使い方が絶妙だ。
でも、それを理解しつつ、乗せられてしまう儂は単純なのかもしれない。
儂は小さく拳を握り、突き上げた。
「やってやるのじゃ!」
帝国が相手だろうとなんだろうと構うものか。
今度こそ……
今度こそ、祖国は絶対に守ってみせる!




