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108話 皆の知恵を結集させて

 儂は、方針を変えた。


 一人で机へ噛りついて、唸るのをやめた。

 その代わり、あちらこちらへ足を運び、人と話した。


 フォルティア姉妹には、現場の兵として見た敵への対処方法と、兵の士気の保ち方を聞いた。

 リルには、少数精鋭で敵地へ入り込むならなにが必要か、という諜報員の視点からの潜入方法を聞いた。


 サリーには、後方支援と補給。

 それから、正面戦ではなく、搦手をメインにした戦術などの話を。


 兄様とは最も長く話した。


 帝国のことはまだ機密のため、深い話をできない人もいたが……

 兄様は事情を知っているため、とことん話し合うことができた。


 騎士団長にも意見を求めて。

 父上にも宰相殿にも意見を求めて。

 詳細を話せない相手には、たとえ話へ置き換えた。


 皆が、驚くほど真剣に考えてくれた。


 そうやって、何度も何度も考えて……

 ようやく一つの形が見えてきた。




――――――――――




 数日後。

 父上の執務室に、前回と同じ面子が集められた。


 父上、兄様、宰相殿。

 エルレイン姉様、レイ姉様、その夫達。

 そして、儂。


 まず報告から。


 三国は結束して対応することで一致した。

 フィーゼルマインが滅びたら、次は自分達の番だ。

 ならば、出し惜しみなどしていられないと、参戦することを決意したそうだ。


 そして、兄様の調べによると、やはりというか開戦はほぼ確定。

 帝国は戦の準備をしているらしく……

 その時期は、一ヶ月後前後が最も怪しいとのことだった。


「では……」


 ある程度話が進んだところで、父上が儂を見る。


「アリエルはどうだ? なにか思いついたか?」

「はいですのじゃ」


 頷いて、前に出る。


 もう迷いはない。

 皆と話して、皆の知恵を借りた。

 その上で、今の儂が出せる答えがこれだ。


「策は、二段階……いえ、正確には三段構えです」


 地図を広げて、指をさす。


「まず大前提として……悔しい話ですが、フィーゼルマインは圧倒的に格下ですのじゃ。三国が手を結んでも、それでも帝国とは大きな差があります」

「うむ」

「ただし。帝国も、いきなり全戦力を動かすことはまずないはず」


 補給線、統治地の維持、他国への牽制……巨大国家故に、全戦力を一つの戦場へ投げ込むことはしないだろう。


 もしも、そんなことをするとしたら、よほどの阿呆か。

 あるいは、戦うことしか考えていない戦狂いだろう。


 が、その両方でもないことは、これまでの帝国の歴史が証明している。

 阿呆であれば、百万以上の兵士を保有する巨大な国家にはならない。


「最初に来るのは、十万から二十万ほどの軍勢と予想しますのじゃ」

「それでも十分すぎる大軍だ……」


 レイ姉様の夫が言う。


「はい。故に、普通に迎え撃てば負けるですのじゃ。だからこそ……それを完膚なきまでに打ち破る」


 あえて、ハッキリと言い切る。


 ざわり、と空気が揺れた。

 正気か? というような視線をいくつか感じるものの、気にしない。


 儂は、さらに続けた。


「大勝するのです。そうなれば、帝国は動揺するでしょう。格下と思っていた相手に、初手で大敗するのですから」

「なるほど……」


 エルレイン姉様が小さく頷いた。


「こちらに対する相手の認識を覆すわけですわね? そうすることで動揺させる……つまり、指揮系統を乱す?」

「はい」


 さすがに話が早い。


「ただ、帝国はそれでは諦めないのではなくて?」

「だな。むしろ、それまで以上に猛然と攻めてくるだろうな。今度こそ、油断なんて欠片もなく、全力で」

「姉様達の懸念はもっとも。ただ、軍の再編にはそれなりの時間が必要になるでしょう。そして、上は心を引き締めることができても、現場の兵士達は動揺したまま……末端まで完璧な教育が行き届いているとは思えませぬからな。巨大故、末端は格下への敗北に動揺して、いくらか恐怖しますのじゃ」


 今度は、地図の東側……帝国を指さす」


「その隙を突きます」

「……どうするつもりなんだい?」


 一拍置いて、言葉を紡ぐ。


「……少数精鋭で帝国へ侵入して、皇帝を討ちますのじゃ」

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