表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

107/111

107話 相談してもいい

 数日後。


 一見すると、王都はいつも通りだった。


 市場が開かれていて、たくさんの人が行き交い、城下町には笑い声が響いている。

 王宮の廊下も、表面上は平時の空気が残っていた。


 ただ、それはあくまでも表だけ。

 水面下では、全てが慌ただしく動いていた。


 武具と兵糧の確認。

 街道と国境の再点検。

 使者の往来。

 徴兵ではなくて、まず動員可能な兵の再編成。

 そして父上は、友好国の王達や重臣達と会談を繰り返して、結束を新たにしていた。


 かなり慌ただしいものの、今のところ情報統制がしっかりとされているらしく、帝国の件が表に漏れた様子はない。

 ただ、不穏な空気を感じ取る人はいて……

 また、街と街を行き交う商人や冒険者などが、ちらりと情報を得たらしく、見る目が少しずつ厳しくなっているのを感じた。


 皆が忙しい。

 そして、儂もまた忙しい。


「むうううう……」


 儂は私室で、机へ突っ伏しそうになりながら唸っていた。


 その机の上には、色々な資料。

 周辺の地図、兵力の試算、帝国軍の過去の侵攻例、国境地形、補給路、こちらの兵士の練度と数……数え切れないほど。

 どれを見ても楽観できる材料はない。

 というか、悲観になる要素しかない。


 帝国は数百万の兵を抱えている。

 対して、フィーゼルマインは数万。

 百倍近い差は絶望しかない。


 友好国の兵力を合算しても、十五万ほど。

 それでも、帝国と比べれば圧倒的に足りない。


 もちろん、帝国が一度に全軍を動かすことはないだろう。

 補給もあるし、そんなことをしたら別方面から攻められる。

 一度に動かせるとしたら、五分の一くらいか?


 それでも十分すぎる差がある。


「ここまで差があると、どのような策を考えても効果は薄いのう……」


 兵力差が極端すぎるのだ。


 策というものは、ある程度の土台があってこそ活きる。

 しかし、その土台がまったく違うとなると、奇策も妙手も、結局は力と数の暴力で踏み潰されてしまうだろう。


 考える。

 考える。

 考える。


 とにかく考えて、そして煮詰まる。

 やばい、知恵熱が出そうなのじゃ。


 そんな儂を見て、サリーが小さくため息を吐いた。


「アリエル様、少し気晴らしをしませんか?」

「ぬ?」

「今のアリエル様、考えすぎているせいなのか、目がぐるぐるしています。自分の尻尾を追いかける犬みたいです……可愛い♪」

「お主は、もうちょっと欲望を隠そうとしないのかのう……?」

「これが私ですので」


 開き直られた。


「というわけで、行きましょう」


 サリーが、儂の着替えを始める。


「な、なんじゃ!?」

「着替えです。このままでは外に出られませんから」

「いきなりすぎないかのう。というか、今、変なところを触っておらぬか!?」

「気のせいです」

「嘘じゃーーー!!!」


 かくして儂は、半ば強引に私室から連れ出された。


 そして気づけば、リーナのところへ来ていた。


「やれやれ……」


 ぶつぶつ言いながらも、ここへ来ると少し肩の力が抜けるのだから、我ながら単純なものだと思う。


「いらっしゃい、アリエル!」


 リーナは今日も元気だ。

 その笑顔を見ると、さきほどまでの疲れが吹き飛んでいく。


 なんというか……

 やはり、我ながら単純だった。


「なんか元気ないね?」

「ちと困ったことがあってのう……それで、頭を悩ませておるのじゃ」

「ふーん」


 リーナは小首を傾げて、それから、実にあっさりと答えた。


「そういう時は、お父さんとかお母さんとか、頼りになる大人に相談したらいいんだよ」

「……え?」


 ぽかんとした。


「一人で考えても、うにゃーってなっちゃうだけだもん。だから、相談するのが一番!」


 それから、少し照れくさそうに笑う。


「あ、もちろん私も、お話聞くよ?」

「……」


 唖然とした。


 相談する……そんな選択肢が頭からすっぽり抜け落ちていた。


 いや、父上や兄様や宰相殿とは話はしている。

 だがそれは、報告や任務としてのやり取りであって、相談ではない。

 儂自身が本当に困っていることを打ち明ける、という意味ではない。


 前世でもそうだ。


 なにもかも全部、一人で解決しようとした。

 自分が強ければなんとかなると信じた。

 誰にも負担をかけないことこそが正しいと思っていた。


 そして……失敗した。


 祖国は滅びた。

 守りたかったものを守りきれなかった。


 それなのに儂は、今世でもまた、同じことを繰り返そうとしていたのか……?


「儂は……また、同じ過ちを……」

「アリエル?」


 リーナが不思議そうにこちらを見る。


 そう……じゃな。

 うむ。

 ここで落ち込んでいても、なにも変わらない。

 なにも解決しない。


 せっかく、リーナが道を示してくれたのだ。

 ならば、後は突き進むだけ。


「ありがとうなのじゃ、、リーナ!」

「ふぇ?」

「いくぞ、サリー!」

「忙しないですね」

「仕方ないのじゃ、やるべきことがわかったからのう!」

「えっと……」


 状況が飲み込めないらしく、リーナがキョトンとした。

 ただ、儂の悩みが晴れたことは理解したらしく、嬉しそうにする。


「よくわからないけど、解決しそう?」

「うむ」

「そっか、よかった。じゃあ、今日は遊べないかな?」

「うっ……すまぬ。来ておいて、すぐに……」

「いいよ、大丈夫。でも、今度は遊ぼうね」

「うむ!」

「またねー!」


 リーナに見送られながら、儂は王宮に戻る。


 今度こそ、一人で抱え込まない。


 相談しよう。

 知恵を借りよう。

 頼れる者達へ、ちゃんと頼ろう。


 そのための仲間であり、家族であり、臣下なのじゃから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ