106話 進むべき道は?
「あら、少しはいい顔になりましたわね。美人さんですわよ」
「いや、戦士の顔っていうやつだな。悪くねえ」
姉様二人が揃って言う。
心の落ち着きが表にも出たようだ。
二人は、ニヤリと不敵に笑っている。
「ありがとうございますなのじゃ」
ぺこりと頭を下げた。
「あら、珍しく殊勝ですこと」
「明日は槍の雨か?」
「ならば、その雨は帝国に降らせてやりましょうぞ」
「ふふ。本当に、もう問題ないらしいですわね」
「ったく、手間かけさせるなよ?」
「そうしたいとは思いますが……しかし、儂はまだ八歳故。わがまま盛りの歳なので、迷惑をかけるのが普通なので、諦めてくだされ」
ふふん、とドヤ顔を決めてみせる。
きまった。
完璧だ。
これで、姉様達も安心するだろう。
「……あらあら。少しは見直したと思ったのですが、これはちょっと」
「調子に乗ってるなぁ……?」
「また後で、鍛え直さなければなりませんね」
「フルコースといくか」
「……ひぃ」
しまった、調子に乗りすぎた。
姉様達はなんだかんだ優しいが、しかし、プライドも高い。
こうして調子に乗りすぎてしまうと、後でおしおきされてしまう。
なにはともあれ……
完全に落ち着くことができた。
姉様達に感謝だ。
心は定まり。
意思は固まる。
「では、アリエル」
父上が改めて問う。
「どう思う?」
儂は一歩前へ出た。
「……失礼ではありますが、交渉などは意味がないですのじゃ。皆、かもしれない、という可能性の話をしておりますが……帝国は、戦争を望んでいるかと。確実に」
「ふむ、断言するか……その根拠は?」
「かの帝国の歴史こそが根拠になります」
静かな部屋に、自分の声がよく響いた。
誰も反論する人はいない。
元から、そのように考えていたのだろう。
できれば違っていてほしい、という希望はあったのだろうけど……
それは無意味というもの。
答え合わせをするかのように、現実を告げる。
「インサラウム帝国は、ずっと前から戦を繰り返してきました。いくつもの国が滅ぼされて、かの国の領土となりました。それが帝国の歴史であり、繁栄の方法であり……在り方、そのものであります。それが今、ここで終わる理由がありませぬ」
「「「……」」」
重い沈黙。
やはり、反論はない。
だって、それは事実だから。
これから降りかかるであろう厳しい現実だから。
「私もアリエルに賛成だ」
レイ姉様が最初に頷いた。
王女ではあるものの、武人気質のようなところがあり……
だからこそ、そういう方向の思考の回転は早いのだろう。
「そういう可能性が高い、って話が出ているし……今更、あの帝国が止まるとは思えない。止まるのならとっくに止まっているだろうさ」
「わたくしも同意見ですわ」
エルレイン姉様も続く。
「かもしれない、ではなくて、断定して動くべきかと。そうでなくては、気の緩みが起きてしまうやもしれません。それは、今、致命的なズレを生むことになる可能性が」
「先も言いましたが……」
王子達も続く。
「我が国は、フィーゼルマインと共に戦う覚悟でおります……全戦力で」
「まずは、それを伝えにまいりました」
「……ありがたい。国を代表して感謝する」
皆の認識が一致する。
帝国との開戦……
それをどう乗り切るべきか?
どうにかして知恵を絞り出さないといけない。
なにしろ、相手は百戦錬磨の帝国だ。
国力の差は圧倒的。
同盟国と力を合わせて迎え撃ったとしても、それでも惨敗するだろう。
「まずは……私達、三国で改めて会談を」
「正式に、帝国に対抗するための同盟を結ばないとだな」
対策を練るために、友好国の王達、あるいはその代理と会談を行うこと。
場所は、先方の国でもフィーゼルマインでもいい。
とにかく早急に、三国で足並みを揃えることが必要だ。
「そうだな、可及的速やかに段取りを進めよう」
慌ただしさが、一気に現実味を帯びた。
父上は視線をこちらに向ける。
「アリエルとセイファートは、国の智者達や将達の意見を募り、できる限りの策を練っておいてほしい」
「わかりました」
「承知いたしましたですのじゃ」
「……それと、」
父上の声音が一段低くなる。
「このことは箝口令を敷く。よいな?」
皆が短く応じた。
もとより、このようなこと話せるわけがない。
帝国に狙われているなんて知られれば、国中がパニックに陥る。
いずれ、情報統制は難しくなるだろうが……
その時には開戦準備は整い、対策も練り上げているだろうから、皆を安心させられるだけの材料があるだろう。
「……では」
ひとまずの会議が終わり、儂は執務室を退出した。
そして、心の中で問いかける。
母様……
儂は、今度こそ、守ることができるのでしょうか……?




