交渉しましょうね?〜美輝(母)
「ねぇ、なんとかならないの?」
環が、苦虫を噛み潰したみたいな顔をしている。
「被害者のリッカが悪く言われてるのは納得いかないわよね」
私の息子をなんだと思ってるのかしら。
「だからと言ってこちらもあの女を晒すってわけにはいかないだろう?」
那由多がそう言う。
そうよね、そんなことしたって意味がないわよね。
同じく加害者になるわけにはいかないわよね。
「せめて慰謝料くらいはきちんと払わせたいと思うけれどな」
創さんが珍しく怒ってるわ。
「向こうにも親御さんはいるわよね?」
こちらがどれだけの被害を被っているかわからせるべきじゃないかしらね?
「絶縁状態らしいけどな」
那由多のイライラした声がそう言う。
向こうが絶縁してようが、そんなのこちらには関係ないわよね?
「でも親だろ?子供の尻拭いはするべきだろ?」
創さんの言う通りよ。
「そうよ!自分の子供が何をやらかしたのか、わからせるべきじゃないかしら?」
幸い?リッカが依頼した調査資料に親御さんのことも載っているものね。
「俺と美輝さんで訪ねてみようか」
「そうしてみましょうか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
加害者の親御さんは、なんと会社の社長さんだったのよ。
しかも結構大きな会社みたいなのよ。
会社は育てられても、子供の育て方には失敗したみたいね?
私と創さんは応接室に通されたわ。
もちろん事前に約束は取り付けたわよ?
相手は社長さんだしね。
いきなり乗り込むわけにはいかないじゃない?
「初めまして、対馬です」
「お時間頂きありがとうございます。雪野と申します」
とりあえず自己紹介からね。
「それで娘の事についてお話があると?」
まさか知らないなんて事ないわよね?
「お嬢さんのことはどこまで把握されていますか?」
対馬社長は、表情ひとつ変えずに言ったのよ。
「忍が家を出てからは把握してません」
って、信じられる?
創さんがため息を吐いて、こちらに伺った事情を説明しますね、と話し始めた。
普段は頼りないところもあるけれど、こういう時は頼りになるのよ?
「まず、私達は"ダンジョン代行 なんでも屋"という会社を経営しています。店舗の方はご存知ですよね?」
店の名前を出した時に、さっきまで変わらなかった表情が少し動いたわ。
けれど、何も言わないでいるわ。
「うちの息子が主として依頼があれば、依頼者に代わってダンジョンで魔物を倒すという仕事をしています」
もちろん今は、バイト君達もいるけれどね。
「それが娘になんの関係がありますか?」
「お嬢さんは依頼者ですね。いつの間にか息子のことを勝手に恋人だと思っていたみたいですが?」
「まさか、そんなバカなことを娘が?」
鼻で笑ったわね?
そんな風に笑うことが出来るのも今だけよ?
「月に一度の依頼が、月に二度になり、毎週になり、週に何度も依頼が来るようになりました。そしてお嬢さんはどうしたと思いますか?」
創さんが、対馬社長を見ると憮然とした顔でなにも言わない。
だから教えてあげたのよ?
息子の飲み物に睡眠薬を盛ったこと。
ずっと一緒にいられるからとダンジョンの扉を開けずに、自分のダンジョンの中に閉じ込めようとしたこと。
依頼のために訪れている息子をデートにしつこくしつこく誘ったこと。
依頼人と業者の関係でしかないのに、イチャイチャしましょうと言い寄ったこと。
いきなり服を脱ぎ出したこと。
「何をするつもりだったんでしょうね?
お嬢さんの教育はどうなってらっしゃるんですかね?」
創さんがジロリと睨む。
もちろん私も睨んじゃうわよ。
だって、まだまだまだまだあるのよ!?
「しかも、盗聴器に発信機、紛失防止タグを息子の持ち物に内緒で入れて、付き纏いをする。
お嬢さんは、ストーカーで犯罪者ですからね?
まぁ、これは3年前の話ですけどね?
息子が仕事に行けば、必ず近くに現れる。
もちろん警察に届けましたよ?
それでも一年以上は続きましたけどね」
対馬社長の表情が険しくなっている。
「そのまま何もなければ、こちらもそれで良かったんですけどね?
また依頼の連絡がありましてね?
受けるわけないじゃないですか。
お断りしたらお嬢さん何をしたと思いますか?」
さっきからずっと黙ったままね?
まぁ表情は、どんどん苦々しくなってきているみたいだけれど。
でも本当に苦々しいのはこちらなんですけどねぇ。
「お嬢さん、ネットに息子を名指しで、嘘と悪評をばら撒いたんですよ。
どれだけ拡散されてると思いますか?
人権侵害、名誉毀損、営業妨害、精神的苦痛。
ざっと上げてもこれだけの事をやらかしてくれてるんですよ?
御宅のお嬢さんは。
もちろん警察に届けてありますよ?
それから弁護士を通して、慰謝料の請求もさせていただいてます。
まぁ、分割で払うと言った割には、一度も払われていないですけどね?」
創さんは一度言葉を切って、
「対馬社長、どう思われますか?」
あっ、ちょっと【威圧】乗っちゃってるかも?
って、社長さんはまだだんまり決め込むつもり?
「被害者の息子がネットに晒されて、加害者のお嬢さんは責任も取らずにのうのうと生活している。それについてどう思われますか?対馬社長?」
あら?やっと口を開くの?
ちょっと顔色が悪くなってるかしら?
へぇー?
それでもこっちを睨んでくるんだ?
「そちらの息子さんが娘を誘ったのではないのか?」
はぁぁぁ!?
言うに事欠いて、リッカが悪いみたいに言わないでくれるかしら?
思わず【威圧】しそうになったじゃない。
創さんに止められたけど。
「あり得ないですね。100%ありえません」
「なぜ言い切れるのですか?忍は可愛いでしょう?」
可愛い?
誰が?
ものすごく普通よね?
ふざけるのも親バカも大概にしてくれるかしら?
本当にいい加減にしてほしいわよね。
リッカの方が間違いなく美人ですから!
あらイヤだ。
私も思いっきり親バカだわ。
「言い切れますよ、息子の好みとは真逆ですから」
えっ?そうなの?
創さん、リッカの好み知ってるの?
「真逆?」
「はい、真逆です。息子は胸のとても豊かな女性が好みですからね。お嬢さんは…ねぇ?」
あぁ、真っ平らだったわね。
ペッタンコだったわ。
って、リッカ巨乳好きだったの!?
私、知らなかったわ…。
対馬社長はムッとしたけど、言い返せなかったわ。
言い返せる要素がないものね?
対馬社長は、絞り出すように、言いたくなさそうに言った。
「…申し訳ない」
やっと謝罪が聞けたわね。
ずいぶんと時間がかかったこと。
本心から悪いと思ってるのかしらね?
「慰謝料は私の方で倍払わさせていただく」
誰が慰謝料を上げろと言ったのよ?
バカにしないでくれるかしらね?
「私たちは別に慰謝料を釣り上げにきたわけではないのです。
ちゃんと払って欲しいのと、お嬢さんに二度と息子や私たちの視界には入らないでほしい、関わらないで欲しいだけです。
対馬社長の方でお嬢さんをきちんと管理してくださいね。
守られないようなら、"なんでも屋" は二度とあなたたちと取引をいたしません。
なんでも屋から色々購入なさってますよね?
武器に装備、ポーションに付与アクセサリー…そう言えばおわかりになりますよね?」
対馬社長は、固まったわ。
那由多の武器は、性能もいいし人気なのよ。
環の装備だって同じ。
創さんの毒無効のペンダントや魔力回復の指輪、結界のブレスレットは必要でしょうしね?
もちろん私のポーションも必要なんじゃないかしら?
あらららら。
対馬社長の顔が引き攣ってるわよ?
「誠心誠意対応させていただきたい。慰謝料と娘の件以外に、私に何か出来ることはありませんか?」
もちろんあるに決まってるじゃないのよ。
「そうですね、出来るならばネットでの息子の悪評を消していただきたいですね。なんでも屋の悪評もですけれど。どれだけの損失が出てるかおわかりになりますよね?ご自分も会社の経営をなさっているのですから」
リッカはあんなにいい子なのに、なんで悪く言われなくちゃならないのよ。
「全力で当たらせていただきたい」
「ではよろしくお願いしますね。期待していますよ」
創さんと私は、応接室を後にした。
これで少しは、リッカの名誉が挽回されるといいのだけれど…。
お読みいただきありがとうございます!
もしよければ評価もおねがいしますm(_ _)m
トーヤのテンションがあがります(笑)
感想、誤字脱字報告もありがとうございます。
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