第5章-第17社 生徒会の仕事
「全く、遅いわよ2人とも」
「すいません……」
やってきて早々に朝姫から叱られ、大柄な男子生徒と橙髪ポニーテールの男子生徒は同時に謝る。
2人とも走って来たのか額に汗を搔いていた。恐らくこの2人が生徒会の代表なのだろうが、廊下を走るのはどうなんだと秋葉は頬を引き攣らせる。
と、やってきた2人は朝姫と豊田の横に並び立った。
「役員発表当日に遅刻して申し訳ない。今年度、生徒会長を務める3年の三輪大地だ。よろしく頼む」
「副会長の2年・日野飛鳥です。よろしくね」
茶髪のオールバックに首元で長髪を1つ括りにした大柄な男子生徒――三輪大地が黄色い瞳でまっすぐ前を見据えながら挨拶する。大地が話し終えると、今度は橙髪ポニーテールの男子生徒――日野飛鳥が赤い切れ長の瞳を細めて微笑みながら言った。
(この2人がこの学園の生徒会長と副会長か……)
初めて目にしたが、2人とも学園の代表としての風格があり、真面目そうな印象を受ける。これから交流する機会も増えていくだろうから楽しみだ。
「そして生徒会顧問を務める豊田秀一だ。2人にはとある件で少しの間出払っていてね。遅れてきたのは大目に見てやって欲しい」
自分たちが生徒会室に来てから大地と飛鳥を見かけなかったのはそういうことだったのか。
ずっと疑問に思っていたことが解消され、秋葉は納得したように小さく頷いた。
「それでは各役職の説明を行い次第、業務に移ってくれ」
豊田の呼びかけでその場は解散となり、秋葉たち1年はそれぞれやることを先輩や顧問から訊いていく。
あまり周囲と距離が近いと声が聞こえないので、秋葉と多田は書類などが仕舞われた棚へ移動する。秋葉がメモとボールペンを取り出したのを見て、多田は喋り出す。
「庶務は具体的に言うと雑用係みたいなもんなんだが、いつでもサポートに回れるように役職ごとの仕事を把握しておく必要がある。備品の管理から学内や任務で使用する書類の整理や印刷、掲示物の張り出し以外にも各委員会とのやり取りなんかも含まれるな」
庶務の仕事は思った以上にやることが多くさっそく混乱しそうになるが、何とかメモを取り終える。一件、雑用に見えるものの、どれも生徒会を運営していくには欠かせないことばかりだ。
これは想定していたよりも忙しくなりそうだ。慣れるまで神社の方はエルに任せた方がいいかもしれない。
「後、たまにサボるやつもいるから進捗確認も業務のうちだ」
「な、なるほど」
そう言って多田は、固められた机の近くで悠と話している海希にチラッと視線を向けた。
どうやら多田の言うサボり魔というのは海希のことらしい。
昨日の任務ではとても頼りになった記憶があるが、帰ってから寮室で海希と同行していた悠があの人は多少抜けているところがあり、おちゃらけた態度を取っていることがあったと話していた。
それを踏まえると海希がサボり魔なのは、案外合っているのかもしれない。
その後も多田から説明を聞いていき、メモした内容を再確認していると生徒会の扉が開いた。
「失礼するわ」
「お、来たわね」
ショートの橙髪にツリ目気味の黄緑の瞳をした女子生徒が入ってきた。朝姫が反応すると、彼女は朝姫に軽く会釈してからぐるっと周囲を見回した。
「見慣れない顔が結構いるけど……飛鳥、この子たちは新入り?」
「そうだよ。ついさっき入部したばかりでね」
「そう」
企画担当の美澪と亜莉朱に説明していた飛鳥が彼女の疑問に応じる。女子生徒は素っ気ない返事をした後、こう続けた。
「私は2年の九条茜。今年度から風紀委員長を務めているのだけど、多田亜莉朱って子はいないかしら?」
「あ、はい。うちですけど……」
茜が尋ねると、名前を呼ばれた亜莉朱が恐る恐る前へ出る。
風紀委員長が一体、亜莉朱に何の用だろうかと秋葉は眉を顰めながら様子を伺う。
「なるほど。貴方が……悪いけど、少しの間付き合いなさい」
「うぇぇっ!? なんで!? うち、なんか悪いことでもしました!?」
鋭い目つきをした茜に冷淡な声で言われ、突然のことで状況を全く理解できていない亜莉朱は驚愕する。と、茜はきょとんと小首を傾げた。
「なんでって言われても、そんなの祓式を扱えるように見てあげるからに決まってるでしょ」
さも当然のことのように言ってのける茜に亜莉朱はもちろん、秋葉や悠たち1年も戸惑った様子で彼女を見る。すると、さっきから話がかみ合っていないことに気づいたのか、茜が呆れた目で多田へ視線を向けた。
「ちょっと、まさか説明してないわけ?」
「あー……すまん。すっかり忘れてた……」
信じられないと言いたげな顔で問われ、多田は頭を掻きながら謝る。
そこで秋葉の頭の中に昨日の任務で、亜莉朱の祓式を制御できるかという話になった際、多田が朝姫に「そっちに茜はいるか」と訊いていたことが蘇る。
つまるところ彼女が祓式を制御する祓式を保有している本人で、亜莉朱の祓式操作を制御するためにここへやって来たということなのだろう。
「ったく仕方ないわね。そういうことだから早く行くわよ」
「そういうことってどういうことなん!? いや、ちょっと待ってぇなぁ~!」
茜は未だ状況を呑み込めていない亜莉朱の腕をガシッと掴んで、生徒会を後にした。半ば引きずられるようにして強制連行されていった亜莉朱を気の毒に思いつつ、秋葉は隣にいる多田へ声をかける。
「だ、大丈夫なんですかね……」
「まぁ、調整の祓式を持つ茜に任せておけば大丈夫だろう。それよりも溜まってる書類の整理を手伝ってくれ」
「分かりました」
秋葉は机に積み上げられた書類の山から1枚を取って、ファイルに納めていく。
そうして任務報告書を時系列順に整理していると、太刀の文字が目に入り、ふと昨日の任務中に多田が使っていた刀の刀身が合っていなかったことを思い出す。あれには何か意味があるのだろうかと疑問に思っていたのだが、何やかんやで訊きそびれていた。この際だからと秋葉は口を開く。
「多田先輩、1つ訊いても良いですか?」
「なんだ?」
秋葉が手を動かしながら問いかけると、整理の終わったファイルを棚に入れていた多田が呟く。
「昨日の任務中、多田先輩の太刀の鞘と刀身の長さが合ってなかったように見えたんですけど、あれってわざとだったりします?」
秋葉が訊いた途端、多田の動きが止まった。だが、すぐに彼は黒い目を細めて口元を緩める。
「へぇ、よく見てるじゃないか。秋葉の言う通り、敢えてそうなるように作られてる」
「……敢えてですか?」
書類をファイルに入れていた秋葉が怪訝な表情で訊き返すと、多田は頷きがてら語り始める。
「鞘に納められている刀身と鞘の長さが違えば、向かってきた相手の距離感を狂わすことができる分、不意打ちが効く」
確かに咄嗟の状況で打刀だと思っていたものが太刀だった場合、距離感を測り間違えて攻撃を受けてしまうだろう。現に多田の刀はそうなっていた。だが、そうなると刀身がはみ出て収まらないはずだ。
一体、何がどうなっているのだろうと秋葉は頭を悩ませる中、多田は話を続ける。
「せこいと言われればその通りなんだが、いかなる手段を用いてでも祟魔を祓う。それが代報者ってもんだ」
「ですね」
自分や他人の生死がかかっている分、手段は問うていられない。使えるものは何でも使って祟魔を祓う。
そう巫級代報者試験に向けての訓練で織部や剣術指導をしていた薫に教えられた。だから刀や祓式以外にも、暗器や体術、その場の環境を駆使した戦い方をする者が自分を含めて多くいるのだ。
「それに言っちゃあなんだが、俺はみんなみたいに祓式を持ってない。だから前生徒会長の華南先輩にその分技量を上げるように言われて、1年ぐらい稽古をつけてもらってたことがあってな。その時にこの刀を譲り受けたんだ」
「なるほど。そういうことだったんですね」
少し前にはなるが、剣術訓練の時にやってきた海希と多田がポロッと熾蓮の師匠である華南が前年度の生徒会長だったことを漏らしていた。
華南は代報者であるとともに熾蓮と同じく愛宕衆に属する忍びだ。
そうなると、多田が華南から譲り受けた刀は恐らく忍者刀に類するものだろうか。試しに尋ねてみると、秋葉の予想通り忍者刀のようで、刀と鞘の尺以外にもいくつか仕掛けがあるらしい。
そういった小細工に目がない秋葉は、一度じっくり見てみたいなと興味津々な目で多田を見る。
「気になるのは分かるが、今、種明かししたら面白くないだろ」
「ちぇ~、先輩のケチ」
溜息交じりに話す多田に、秋葉は不貞腐れたように口を歪める。
流石に全部とまでは言わないが、ちょっとぐらい教えてくれてもいいではないか。
と、心の声が漏れていたのか「知りたかったら自分で見つけろ」と言われ、秋葉は書類を整理しつつ、次に任務で一緒になった時には絶対に見つけてやると意欲を燃やすのだった。




