第5章-第16社 試験結果
「それではこれより生徒会入部試験の結果を発表する」
任務を終えて翌日・5月5日の放課後。生徒会室に集まった秋葉たち1年へ生徒会顧問であり今回の任務の試験監督でもある豊田が告げた。
生徒会室に来てから絶えず賑やかだった部屋に静寂が降りる。巫級代報者試験以来の緊張に固く目を瞑って祈る中、豊田が口を開いた。
「祟魔討伐や祟気の原因究明及び浄化はもちろん、予期せぬ事態にも瞬時に対応できる力を認め、試験参加者全員を合格とする」
「よっしゃあああああ!!」
豊田から告げられた瞬間、ぐわっと胸の内から熱いものがこみ上げてくると共に秋葉たち1年は歓喜の声を上げて拳を握りしめた。
嬉しさのあまり秋葉は隣にいた悠とハイタッチする。
心配気味に結果を祈っていた天音もさぞかしホッとした表情で息を吐いていた。
「まだまだ力の及んでいないところや引率頼りな部分もあったけど、それでも及第点以上よ。よくやったわね」
「ありがとうございます!」
朝姫からの全体講評に秋葉たちは合格した喜びのまま、声を張り上げてお礼を言う。
その後、秋葉たちが去った後のことについて豊田から報告を受ける。
話によれば、亜莉朱が壊した壁は処理班が修復し、地下空間も再度浄化されたようだ。
海希の結界で守られていた警備員も無事に回復。念の為、大神系列の病院で検査したそうだが、特に異常はないとのことで既に退院しているらしい。
そして此度の件で企業側には再発防止のため、神社省を通して業務体制と職場環境の改善を促すようだ。
またあの石碑から祟気が漏れ出ては困る分、政府機関でもある神社省が動いてくれるのは心強い。
豊田が話し終えたところで、美澪が手を挙げた。
「あの、質問良いですか?」
「なんだい? 津守くん」
豊田が応えると、美澪は少し考える素振りを見せてから切り出した。
「その……今回の試験って、豊田先生と朝姫先輩はどこまでご存知だったのかな~って。地下があるって分かった時も、祟魔等級が上昇した時も焦ってる様子がなかったから」
どこか遠慮がちに美澪が話すのを聞いて、秋葉もそういえばそうだったなと思い出す。
準惨級祟魔と対峙していた時も特に支援することはなく、やっていたことと言えば、多田の投げかけに朝姫が応えるぐらいだった。
代報者であっても自分たちは生徒だ。
先輩である朝姫ならともかく先生である豊田であれば事態が一変した際には干渉するはずだが……。
「もちろん、私と朝姫くんは今回の任務に関しては一通り知っていたよ。代報者の任務ではいつ何が起こるか分からない。そこで正確に対処できるのかも採点項目の1つだからね」
そう言って豊田は微笑んだ。
生徒会の任務は通常よりも危険が伴うと事前に言われていたから、そういう状況でも対応できなければならないのだろう。
「にしたって、せめて引率の俺らぐらいには情報共有しといてくれても良かったんとちゃいます?」
「そうですよ。宮級の俺たち2人でも祓えるかどうか微妙なラインだったんですからね」
海希と多田が不満げに顔を歪めて反論する傍らで、秋葉たち1年は2人にすら情報共有がされていなかった事実に目を見開く。
「それも試験の内さ。2年生からは後輩の引率も仕事に入るからね。けど、そうは言いつつも引率の役目を見事に果たしていたじゃないか。どうかこれからもよろしく頼むよ」
何を考えているか分からない笑みを浮かべた豊田に、秋葉は織部の面影を感じつつ、1年後には後輩の引率も入ってくると聞いて自分にできるだろうかと内心、怯える。
「それで無事に試験に合格できたわけだが、天音くんはどうする?」
「そうっすね……」
豊田に訊かれ、天音は視線を下げる。
そこで秋葉は、天音が様子見という形での試験参加だったことを思い出し、自然と彼女に目が行く。
今回の任務は天音の力無しでは到底、成し得なかったと言ってほど大活躍していた。誘った自分としても入部して一緒に活動できたらいいが、実際のところはどうなのだろうと心の中で不安が募る。
「今回の試験、想定外のこともあったっすけど、何かあってもみんながフォローしてくれて、明るくて優しい良い人たちだなって感じました」
天音はそこで一度言葉を区切り、息を吸って「それに」と続けた。
「ここでなら役に立てる。みんなと一緒ならやっていけるって思ったっす。なんでこれからもよろしくお願いするっすよ」
天音が晴れたように明るい笑みを浮かべながら言うと、秋葉たち1年はもちろん、多田や海希、朝姫も声を揃えて「よろしく」と返した。
天音の入部が確定したことで、秋葉は心の底から安堵する。
もしこれで入らないと言われたらどうしようかと不安だったが、そうならなくて良かった。
天音を勧誘した者としての責任から解放され、全身の力が抜けそうになるが、生徒会での活動はまだ始まってすらいないことを思い出し、秋葉は背筋を伸ばす。
「では1年全員の入部が決まったことだ。朝姫くん、改めて今年度の役員発表を頼む」
「分かりました」
豊田が言うと、朝姫は懐から折り畳まれた1枚の紙を取り出して中身を開ける。
「書記は私、3年・伏瀬朝姫、1年・綾瀬詞貴。会計は1年・如月天音。企画は1年・津守美澪、1年・多田亜莉朱。広報は2年・大東海希、1年・千草悠。庶務は2年・多田太郎、1年・北桜秋葉となります」
そこまで発表したところで、朝姫は持っていた紙から顔を上げる。
まだ呼ばれていないのは生徒会長と副会長だが、顧問である豊田以外、この場にいる全員の名前が呼ばれたはずだ。
そういえばここに来てから生徒会長と副会長らしき人の姿を見ていない気がする。まさか不在なんてことはあるまいし……。
そう思っていると、何やら不機嫌そうに眉を顰めた朝姫が口を開いた。
「多田くんと海希くんは知ってると思うけど、今年度の生徒会長と副会長は――」
次の瞬間、朝姫の話を遮るようにして生徒会室の引き戸が盛大に開かれた。一同、ぎょっとして扉の方へ顔を向ける。
そこには扉の側面に手を着いて息を整えている茶髪のオールバックに首元で長髪を1つ括りにした大柄な男子生徒がいた。
と、少し遅れて橙色の髪をポニーテールで纏めた男子生徒がやってくる。
「はー、間に合った……」
「いえ、もうこの様子だともう始まっているかと」
「嘘だろ……」
大柄な男子生徒の呟きにポニーテールの男子生徒がツッコむと、大柄な男子生徒は焦ったように顔を歪める。
(誰だこの人たち……)
秋葉はやってきた2人を見てそう思うのだった。




