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第5章-幕間 対面 (翠霊side)

「ここに来るのも久しいのう」

 

 時を遡ること6日前の4月30日。桜が散り、新緑で彩られた京都御所(きょうとごしょ)翠霊(すいれい)は来ていた。


 祟魔とバレては意味が無いのでいつもの犬耳と尻尾はなく、白のトップスに黒のロングスカートを身に纏っている。

 

 翠霊(すいれい)の1番の特徴である腰まである長い翠髪は金の簪で団子状に纏められ、顔が見られないようにとその上からつばのついた黒い帽子を被っていた。

 

 そうして人間の姿をした翠霊は御所内に建てられた泥土の築地塀(ついじべい)に沿って、砂利の敷き詰められた道を歩いていく。


「ねぇ、あの人めっちゃスタイルよくない?」

「だよね? モデルさんかな?」


(ほぉ……(わらわ)の美しさに気づくとは、今世の人間も存外捨ておけぬな)

 

 観光に来ているのだろうか。角を曲がった先ですれ違った女性2人の呟きが耳に入り、翠霊は上機嫌に笑みを浮かべる。

 

 いつの時代でも美しさと気品は女の武器になる。何時も欠かさず自らを磨いてきた翠霊にとってそこを褒められるのは誇らしいことだった。


 しかし、同時にそれを保つためには並々ならぬ養分と強さが必須となり、それは自らの祟魔等級(地位)を上げるためにも必要なことだ。

 

(さて、やるべきことを済ませるとするかのう)


 わざわざ代報者が巡回している京都御所にやってきたのも、狗無から受けた北桜秋葉殺害の命を遂行するためだ。


 成功すればもれなく祟魔等級が昇格する。


 プライドの高い翠霊にとっては万が一にも失敗は許されない。故に強力な手札が必要となる。


 帽子を目深に被った翠霊は、築地塀(ついじべい)が凹んだ箇所の傍まで辿り着く。


 と、そこにはその凹みを埋めるようにして大きな石碑が建てられている。そのすぐ近くには石碑へ近づかせないようにしてスーツを纏った中年の男性代報者が2人佇んでいた。


 翠霊はゆっくりと何重にも結界で囲われた石碑まで近づく。

 

「おい、何をしてる」

「ここから先は立ち入り禁止――」


 直後、歩み寄る翠霊に止まるよう促した代報者2人へ祟気の刃が迫り、反撃に出る間もなく首が跳んだ。


 切断された箇所から大量の血が噴き出て、砂利道を赤に染めるとともに2人の代報者が地面に倒れる。

 

「きゃああああああ!!」


 ちょうど代報者に倒れるのを目撃した若い女性が悲鳴を上げた。その後、状況を理解したのか周囲にいた人達が次々と逃げていく。


 御所に貼られた結界が作動して警鐘が鳴り響く中、焦る様子もなく翠霊が指を鳴らす。


 と、彼女と石碑を囲うように認識阻害の結界が構築された。邪魔するものが居なくなったのを確認した翠霊は石碑を覆う結界の前まで行く。


 等身大以上の大きさがある石碑はかなり劣化しており、1000年は経過していた。

 

 翠霊は石碑を覆っていた多重結界に触れるとともに祟気を流し込む。その直後、結界がいとも容易く破られ、石碑が顕わになった。

 

「起きよ」


 彼女がそう告げた瞬間、石碑にヒビが入り、祟気が漏れ出す。次第にそれは形を成していき、やがて1人の女が現れた。


 地面につくほどに長い黒髪を持つ女は、青みを帯びた紫の十二単を纏っている。


 翠霊は彼女を見ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるのだった。

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