僕剣士、きのこを食べ(させられ)る
※食事中の方はご注意ください
「エルンスト殿。これを食べれば、元に戻れる筈だ」
俺は、大人の腕が二回り分ほどの立派な太さをした、ソレの柄の部分をしっかりと握り、ズイッとエルンストに差し出した。
ソレのてっぺんは、傘のように広がっていた。
全体的には、煎茶を湯呑に淹れて飲んだ後、底に残ったところみたいな色をしていて、茶褐色の斑点が散りばめられていた。
毒々しい。
実に毒々しい、きのこだった。
「えっ……」
エルンストは一言そういったきり、固まっている。
ハンケツも固まっている。表情も虚無になっている。
アマーリオとルイニは元気にピョンピョコ飛び跳ねていた。
やがて、再起動したエルンストは、恐る恐る尋ねてきた。
「えっ……とソレ、きのこ……ですよね?」
「うむ。きのこだな」
「あ、きのこ」
「うむ。きのこだ」
俺はそう言いつつ、さあどうぞ、ってなもんでさらにズイッと差し出した。
おい受け取れよエルンスト。立派なきのこだぞ。なんで離れるんだ。
「えっ。ソレあの。生えてきましたよね。そこのブロックから」
「うむ。生えてきたな」
出てきたてだぞ。ホラ食え。すぐ食え。
「ええ~~~~~~~~~~~~~~~~~~? だってここ、地下道ですよ? しかも下水道にもつながってるんですよね? どう考えても汚いですよ! お腹こわしますよ! 変な副作用とかありますよ! というかですね、なんできのこ食べたからって、背が元に戻るんです? そんな話、聞いたことないですよ! 大体ですね! なんですかその色合いは! 全体的に薄汚いっていうか、不気味っていうか! デカすぎるし! 見てくださいよ、このテンテン! これ絶対毒きのこですってば!」
さっきまで固まってた反動か、エルンストは猛烈な勢いで捲し立ててきた。
Oh,モーレツゥ!
ってかまあ、よくよく考えてみなくても、こんな所に生えてきたナゾのきのこを、食えって言われてすぐに食う奴なんかいるわけないわなあ。
これがまじかるなたこ焼きとか、オバケ印のお菓子とかならまだ、救いはあったかも知れんが。
いややっぱりないか。
オバケがお菓子食べたり、たこ焼きをペロンチョと食べる魔法使いのアクションゲーム、ちょっとマイナー過ぎたかな。
また現実逃避してしまった。戻ってこよう。
このきのこ、左から読んでも右から読んでもこのきのこ。
このきのこを食べれば、エルンストは元通りになる筈だ。
と思う。
しかし、そうでなかったら。
もし、自分が縮んでしまったとしたら。
ちゃんと戻れるかどうかは、知っておきたい。
エルンストには悪いが、被験者になってもらうぞ。いいか、絶対にだ。
「このままでは、いつまた元に戻れるやら。戻れる公算が高いのだ。ここは乗っておいては如何か」
「うぅ……そんなこと言ったって。食べたくありません!」
「そう言わずに。大丈夫だ。なあ、エルンスト殿、ルイニ殿」
「クッテミーヤ!」
「ゲロッ」
「嫌ですよ! あとちょっとルイニさん、微妙に鳴き声変わってますよ!」
断固拒否のポーズを取るエルンスト。
むう。ここは、アレか。押してダメなら、か。
「がっかりだよ」
俺はそう言うと、やや俯きがちに、あさっての方向へ視線を向けて、憂鬱のポーズを取った。ため息のオマケつきで。
「あっ……っといや、やっぱり効くような気がしてきたような……いやでも……」
こうか は ばつぐんだ!
「そうか。では試してみよう」
俺は瞬時に憂鬱のポーズを消し去ると、モゴモゴ言ってたエルンストの口の中へ、きのこを押し込んだ。
「モガッ! ン……ン……ン……ガッ! モガッ! モガッ、ミモガ!」
でっかいきのこだから、苦しそうだ。
窒息しないだろうか。
「ンガクック!」
お。
飲み込めたか。
間違えた。
飲み込んじゃったか。
「ちょっとぉ! 飲み込んじゃったじゃないですか! オェッ! ウェェェェ!」
心底嫌そうだ。
尊い犠牲だった。合掌。
さて問題の効果の程は、どうかな。
口を覆っていたエルンストの動きが、ピタッと止まった。
「うぅ……うぐ」
そして、そのままパッタリ倒れた。
あ、これ毒きのこの方だったかな。




