宗教都市 シンバツ
まだ見つかっていない、俺が作ったキャラは3人。
その職業は、細工師、魔法士、そして聖職者だ。
このうち、居場所のあたりを一番つけやすいと思ったのが、聖職者だ。
そこで、拠点の街を変えて、宗教都市シンバツへやってきた。
宗教都市シンバツ。
聖職者の聖地だ。
上級職へ転職する時や、職スキルを入手する時、固有クエストを進める時などなど、聖職者であればあらゆる場面でたち帰る必要のある街。
それが宗教都市シンバツ。
目当ての聖職者は、ひっそりしている奴なので、そう簡単に見つかるとは思えない。
しばらくはここを拠点に活動しながら、気長に探すしかあるまい。
というわけで、俺はぎんゆうしじんとして、酒場にいた。
宗教都市に酒場があるのか。
ある。
どんな教義で、何を信仰しているのか。
不明。
そんないいかげんな設定で、他の街と実情は大差ない。
違いは、街の中心に、大聖堂があることくらい。
普通に酒場があって、武器屋やアイテムショップもある。
何故かは知らないけど、回復魔法が使える。
その程度の設定で、誰ひとり疑問を持つことなく過ごしている。
そんな世界。
それはともかく。
しじんは、今まで同様、日がな一日、酒場に入り浸り、詩を奏で続ける。
そして、風景の一部となって、酒場での会話に耳を傾けるのだ。
酔客のうわさ話から得た情報は、例えば、こんな話。
曰く、大聖堂の地下に広がる通路にごみがたまり、ねずみが巣食って大発生している。
定期的にお掃除クエストが発行され、なかなか美味しい仕事らしい。
曰く、腕の良い調合師がいて、体調や症状に合わせて薬を作ってくれる。ってか、病気とか、あるんだな。
曰く、大聖堂に毎日のように通い詰める美人の剣士がいる。
曰く、スンブのカミさんは怒るとゴリラに似ている。
曰く、雑用をあっという間に片付ける何でも屋が開業した。
人によっては重要な情報だったり、割とどうでもいい話だったり、
只のうわさ話からお得情報まで、雑多な話が耳に入ってくる。
3日ほど、経過した。
街の様子やうわさ話には詳しくなったものの、さして進展はない。
ここはオートモードに任せて、マッハくんにチェンジしてみることにした。
チェンジしたマッハくんは、この3日間、何をしていたかというと。
シンバツの街を駆け回っていた。
ぎんゆうしじんだった間の記憶はない。
どうやら自分が意識をもって操作していない間の記憶はないようだ。
これじゃ、しじんが酒場で聞き込みしてる意味は、あんまりないな。
で、マッハくんはなんでまた、シンバツの街を走ってるんだろう。
何かクエストでも受けているのかと思って、受領中のクエストを閲覧してみる。
え~~となになに。
・混迷草20束 大聖堂
・ラーメン3つ配達 西の門番
・サクラ女妖の捕獲……
なんじゃこら。雑用だらけだな。
まだまだあるし。全部で10個も。
とりあえず西門が近いから、ラーメンでも届けるか。
「あらよっ! 出前3丁!」
「おう。待ってたぜ。早いな~新人」
「うっす! 今後ともごひいきにってね!」
「じゃあ早速、東門にも届けて欲しいんだが。報酬は弾む。
この依頼――やらないか?」
「ありがとうござーーい!」
こんな調子でおつかいクエストをこなしていくと、なんとなくわかってきた。
マッハもマッハなりに、情報収集してるっぽいな。
うわさ話で聞いた、開業した何でも屋ってマッハのことかよ。
オートモードだけど、大まかな俺の方針や意識は残ってるのかもしれない。
それなら、このまま仕事をこなしながら、顔を広げていくか。
偶然出会えるような可能性もあるしな。
オートモード中のこいつらが見つけるのが先か、俺自身が操作して見つけるのが先か。
こうなったらセルフ競争だ。
ということは、東方剣士もシンバツに来てる可能性が高いな。
この3日間、マッハも東方剣士も酒場には来てないけど、一体どこにいたんだろ。
チェンジしてみるか。
ん。
暗いな。
まさか、またトイレじゃないだろうな。
と思ったら、目を閉じていただけだった。
俺は、っていうか東方さんは、跪いて両手を組み、祈っていた、ようだ。
赤やら黄色やら原色がちりばめられたステンドグラスから光が差し込み、正面に位置する十字架に降り注いでいる。
どうやら、ここは大聖堂の中のようだ。
東方さんが設定通りなら、神に祈るはずもない。
仮に祈るとしても東方の神にであって、シンバツで崇められている神ではないだろう。
で、あれば。東方さんは大聖堂に通い詰めて、情報収集していたってことだな。
とりあえず、周囲の状況を確認しようと、お祈りのポーズを解除して立ち上がる。
周囲に、あまり人は多くない。ほとんどは老人や、信仰心のありそうな女性だ。
若い男性……もチラホラいるな。
俺が視線を向けると慌てたようにお祈りのポーズをとっているが、どうもサマになっていない。
一体、何しに大聖堂に来てるんだ。
美人の剣士が大聖堂に通い詰めているとかいううわさがあったから、それ目当てかも知れないな。
見渡したところ、それらしい美人は、居ないようだが。
そんな風に辺りを見回していると、にっこりと微笑みながら、こちらに歩み寄ってくるシスター然とした若い女性がいた。
うぉっ、可愛いな。あんな微笑みを向けられたら、大きなものから小さなものまで、いままで犯した罪を洗いざらい、あることないこと白状してしまいそうだ。
まさに微笑みの爆弾だな。
そのシスターが、俺に話し掛けてくる。
「東方さん、今日のおつとめは終わりですか?」
どうやら、顔見知りらしい。
東方さんは、熱心に通い詰めてるみたいだから、当然だな。
当然なんだが。
俺は、焦りまくリングだ。
「うむ」
言葉少なに頷いて見せながら、急いでそれらしいクエストを受領していないか確認する。
なにか、なにかないか。
ないか~~~~~~。
お。あったあった。
なになに、地下のねずみ退治か。そういえば、そんなクエストがあるっていううわさも流れてたな。
なるほど。こうやって大聖堂のやつらと縁を作りながら、あいつを探すつもりなんだな。
いっちょやるか。
「今日はこれから、地下へねずみ退治に行くつもりだ」
「ええっ本当ですか!? ありがとうございます!
ですがその……いいんですか?」
「何がだろうか」
「ええっと、その。確かに、報酬はそれなりにお出ししているものなんですけど。
だって……」
俺は無言で、その先を待つ。若いシスターさんは、その様子に意を決したように、話を続けてきた。
「だって…‥臭いですよ?」
なんだ、そういうことか。拍子抜けした。
まあ確かに、女性が好んで引き受ける依頼じゃないかもな。
だが、好都合だ。
だからこそ、むしろ注目度も上がるってもんかもだしな。
「問題ない。故郷での経験に比べれば、何ほどのこともない」
淡々とそう告げる。
「えっ? それはどういう……あっ、すみません。
立ち入ったことをお聞きしてしまって」
焦って、そういって打ち消すシスターさん。
経験不足だなぁ。シスターらしからぬ、この反応。
だが、それがいい。
「萌~~~~」
……ハッ。
おっとと。しまったしまった。思わぬ破壊力に思考停止してたよ。
いくらかっこいい設定考えたって、中身が俺じゃ残念だな。
じゅる。
俺は、よだれを吸い込みながら、取り繕った。
「かまわん。それより、もう行く。
地下へは、どこから向かえばいい?」
「あっハイ……。それでは、ご案内します」




