東方剣士、地下のねずみ退治に向かう
「ここがそうです」
若いシスターに案内されて、地下通路へと続く階段の前に辿り着いた。
心なしかひんやりとした風が通り抜けているような……
それでいて……
ウッ正直臭いな。
入る前からこれかよ。
「で……では、あの……私はこれからお勤めに戻りますので……」
申し訳なさそうに、しかして足早に、シスターさんは去っていた。
まったく、修行が足りんな。未熟者めが。
気を取り直して、俺は口元に布を巻いた。
少しでも匂いを防ぐためだ。
ビジュアルは地下から侵入する賊に成り下がってしまったが、
背に腹は代えられまい。
「いざ」
意を決して、一歩を踏み出した。
ただのねずみ退治だから、そんなに気合を入れることもないが。
石畳でできた地下通路を、一人、進んでいく。
入口に近いからか、明かりが入ってきていて、薄明るい。
しかし、壁に据え付けられた松明にはクモの巣がはり、
機能していないようだ。
奥の方には虫かねずみらしき気配もある。
俺は壁から松明を一本取り出して火をつけると、左手に持った。奥に進むには、明かりがないと頼りない。
大聖堂の地下通路は、下水道につながっていて、そこから街のあちこちへと通じている。偉い人の緊急避難用の通路でもあるが、大聖堂は外観を優先させたため、地上部分の設備が不十分だ。
そのため、搬入口などにも使われているし、増築、改築を繰り返し、迷路のようになっている。
よく使われている搬入経路などはともかく、今では誰も通らなくなった通路や、忘れ去られた場所など、手入れや監視の行き届かない部分ができるのは自然の流れだ。
そうして、ならず者や犯罪者の隠れ住む、恰好の場所が生まれる、というわけだ。
宗教都市シンバツの地下に広がるこの一大都市は、「下水都市」やら、「地下都市」と呼ばれていて、煌びやかな地上部分と対を成す部分として、ある意味有名だ。
FBWでは、冒険ごっこをしていて行方不明になった子どもの捜索依頼、なんてのも、時々受けられる。
依頼を受けていざ下水都市に来てみれば、本人はちゃっかり盗賊の仲間入りを果たしていて、家には帰らないと、突っぱねられたりする。
しかし、なんだな。
こうして片手に松明、片手に剣を掲げて歩いていると、ローグライクRPGみたいだな。
カツーン、カツーン、と、反響するのは自分の足音だけ。
なんだか、背筋がうすら寒くなってきた。
こんな感じは、モニター越しじゃちょっと味わえないな。
「Smell of death surrounds me...」
思わず、昔ハマっていた某有名ハクスラRPGでのセリフを呟いてしまう。
ホント、立派な角を生やした、ロードオブテラ―でも出てきそうだ。
そろそろと歩を進めていくと、松明の明かりに照らされたねずみたちが、キキッと短く鳴き声をあげては走り去っていく。
……進むにつれて、数が増えてるな。
なんだか監視されているような、嫌な気分になりながら、
さらに進んでいく。
得体の知れない、何かが腐った臭いが漂ってきた。
う。ちょっとキツイな。
東方剣士は、故郷から同胞を連れて逃げ出してくる時、もっと過酷な環境で過ごした。
……ってことになっているが、中身の俺は、もちろんそんな殺伐とした経験はない。
無人島で暮らすテレビや一ヶ月一万円生活とかを見て楽しんだりもしていたが、自分でやってみようとはしなかった。
もっとも、サバイバル生活を送るマンガとかは好んで読んでいたので、知識だけはそれなりだが。
種の保存の為、強制的にコールドスリープさせられた少年少女の話とか、超A級スナイパーとか、天変地異によって洞穴生活を余儀なくされた少年とか。
古典ではロビンソンクルーソーや宝島も好きだな。
あと、そういうフリーゲームもやったことあるな。
無人島で気が付いて、その辺の木の皮をはいで身に着けるものを作ったりしながら生活して、野生動物に追っかけられながらだんだん強化して、最後には船とか作って脱出するっていう。
んー、しかし、今はあんまり役立ちそうにないな。
FBW同様、インベントリに素材が大量にストックされてるし、そこから食糧とか諸々必需品が自分で生産できる。
その気になれば、どこでも生きていけそうだ。
さて、依頼を遂行しないとな。
FBWだったら、歩いていればねずみの方からエンカウントしてくるのを倒すだけでよかったんだけどなー。
ここのねずみは、っていうか、この世界はゲームっぽい部分と、妙にリアルな部分があって、松明の明かりから逃げてっちゃってるし、狩れそうにない。
クエスト達成するには、100匹狩らないといけないんだけど。
なにか良い方法はないかな。
あ、そっか。
松明の火、消せばいいんじゃないか?




