砂漠の大迷宮探索 眠る愛人たち
「ここだな。間違いない」
剣で壁をつつきながら、東方さんが呟く。
隠し部屋があるところは空洞になっているから、壁をつついた時の反響が違う。
壁は塗り固められている。
では、どうやって壊すか。
「よっしゃ! 東方さんや。壁に向かって剣を構えてくれ」
「? こうか?」
「そうそう。そのままダッシュ!」
「何故だ?」
「何故って、壁を壊すんだよ!」
「何を言っているんだ。そんなことをして、壊せる訳がなかろう」
「えっ!?」
「え?」
……。
「いやぁ、冗談冗談! さあ、爆弾で壊そう!」
「爆弾? 持っていないが」
「うす。大体、生き埋めになるっす」
……。
1度手に持ったものは投げ捨てるしかできない、不器用耳長虫捕り少年のようにはいかないらしい。
「気は済んだか? 進みたいのだが」
「お、おう! んじゃ、ポチっとな!」
普通に、壁にあるボタンを押す。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
壁が左右に開き、隠し通路が出現した。
「では、行こう」
隠された部屋には、中央に棺が安置されていた。
ファラオが最も愛した召使いがミイラとなって眠っている。
本来、ミイラとなるのは相応の身分の者だけだ。
そのまま包帯を巻けば完成、などという単純なものではない。
長い時を経ても姿かたちを保つためには、腐りやすい中身を腹を裂いたり耳から掻き出したりといった、様々な防腐処理が必要なのだ。
ミイラというのは、けっこう手間暇かかるのである。
いくら愛していたからといって、召使いの娘を、しかもこっそりと隠し玄室まで用意してミイラにするなんて、ファラオも相当なやんちゃ者だ。
そのうえ、あらゆる呪いから身を守る首飾りまで着けている。
まあ、正妃とかから思いっきり呪われそうだしな。
そんなファラオ、愛人への愛が重すぎて、寂しくないようにお友だちも玄室に配置して(閉じ込めて)あげていた。
お友だちの方はミイラではなく、生きたまま閉じ込められていたので、白骨化して部屋の隅に転がっている。
ファラオの愛、召使いとそのお友だちに届いていたかというと……。
「生きている者が、にくいいいいいいいいいぃぃぃ!」
「ここから出してえええええええぇぇぇぇ~~」
「お前たちも閉じ込めてやるううううぅぅぅぅぅ」
ご覧の通り。
ミイラから首飾りを外すと同時に、ミイラはむっくりと起き上がり、部屋の隅にあった白骨もぎこちなく骨をきしませながら、次々と立ち上がってくる。
後方の隠し通路への入り口も閉まって閉じ込められる。
ファラオの愛は完全に一方通行で、犠牲となったお友だちを含め、権力者であったファラオには、恐ろしくて逆らえなかっただけのようだ。
そして今、恨みは玄室へと訪れた冒険者へと降り注ぐのだ!!
「ミイラは私が抑えよう。他は宜しく頼む」
首飾りを袋にしまいながら、東方さんが言う。
「うっす」
「ほっほーい!」
俺とプリウスは軽く請け負い、左右に散る。
小部屋の時と同様に、俺は左、プリウスは右だ。
「シュート!」
立ち上がってくる骨へ、順番にボールを当てていく。
簡単なお仕事だ。
プリウスの方は、廻し蹴りで豪快に蹴り壊していく。
骨だからかどうかは分からないが、非常にもろい。
それに引き換え、ミイラの方はといえば……。
こもった怨念の差もあるのか、動きも素早く、東方さんを相手取ってもタフに戦闘を続けている。
「お前もミイラにしてやるうううぅぅぅ」
ミイラは手や足から次々と包帯を飛ばし、東方さんを巻き取ろうとしている。
長剣と脇差を交互に振るって斬り裂いていく東方さんだが、捌き切れなかった包帯が鋭く襲い掛かり、頬や腕を掠めて傷をつけていく。
その様子を見て好機と捉えたか、1度身体を縮めて力を溜めたミイラが全身から包帯を飛ばし、一気に密度が増す。
東方さんが包帯に取り込まれるかに見えたその時。
東方さんと背中合わせの空中に、突如として盾が現れる。
正面から見れば、普通の円形盾にも見えただろう。
しかし、誰が持っているわけでもないのに空中で浮いており、円形というよりは球形をしている。
この盾、実はペットなのだ。
そして今、主人の危機に反応して、迎撃態勢に入った。
盾の正面に、横一文字に斬られたかのような線が入り、一気に広がる。
すると、球形そのものといえる大きさの目玉がギョロリと包帯を睨みつけ、盾の左右には翼のような突起が現れる。
アイシールド
浮遊眼盾 LV94
HP 2370/2370
SP 1246/1246
腕力 103
体力 475
敏捷 103
知力 103
精神 103
スキル ターゲット アイビーム
アイシールドは、目玉を光らせ、1度目を閉じた。
次に目を開いたとき、視線の先に光線が迸って包帯を焼いていった。
アイシールドのスキル、アイビームだ。
「なっ、そんなバカなあああぁぁぁ」
後方の包帯はアイシールドに焼き尽くされ、前方は東方さんのニ刀で細切れ。
渾身の一撃をやり過ごされて、茫然としているミイラ。
その隙を見逃さず、青い軌跡を残しながら、東方さんが一気に距離を詰める。
「ふっ」
気合一閃。
胴体を真っ二つにされ、崩れ落ちるミイラ。
「おのれ、おのれええぇぇ~~~~~~~!」
それでもなお、東方さん目掛けて這い寄ろうとしていたミイラだったが、その前にパタパタと翼のような突起を動かしながらアイシールドがやってくる。
その眼が、怪しく光った。
「まさか、やめ、やめて……」
ミイラの懇願に頓着せず、1度目を閉じたアイシールド。そして、目を開くと同時に迸った光線により、焼き尽くしていく。
「ぎゃあああーーー!
やめてとめてやめてとめてやめてとめてやめてとめてええ~~~~~~~~~」
哀れを誘う声で叫んでいるその声も次第に小さくなっていき、後には黒い煤を残すのみとなった。
それを見届け、東方さんは袋にしまっていた首飾りを取り出し、自らの首にかける。
閉じていた通路への入口が開き、その向こうでは、ニヤニヤ笑っているアンが手を振っていた。
勝利!




