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時空交差点~フタリノキョリ~  作者: かんな らね
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第五章 現在・過去・未来 5 side 出雲響~6 side 出雲響

 5 side 出雲響


 俺は聖の腕に口を当てて何とかp‐typeのの種子を吸い出そうとする。しかし、まったく吸い出せる気配が無い。

 その時、十八歳の聖が入っているp‐typeの原木に小さなひびが入った。俺が気づいたくらいだ。勿論、零先輩が見逃す筈も無い。

 零先輩がひびに向かって銃を撃つ。中に居る十八歳の聖は傷つけない絶妙な角度なのは流石としか言いようが無い。

「あの時、本当の事を言わなかったオレが悪かった。任務を優先して機密事項を漏らせずに……いや、違うな。ただオレが臆病だっただけだ。本当の事を言ってお前が離れてしまうのが怖かったんだ」

 その言葉に反応したのか、ほんの少しひびが大きくなる。更に零先輩が言葉を重ねる。

「聞け聖! ……麻生聖! 二年前のお前はちゃんと人を愛しているぞ! だけど、何時まで意地張ってるんだ? お前がそうしている間、オレ達の子供は外に出られないんだぞ!」

 普段の温厚な零先輩からは考えられない位の勢いで怒鳴る。


 すると……

 木に入っていたひびが大きくなり……


――パリーン!


 木が砕ける。

 中から十八歳の聖が出てくる。

「零……」

 透き通るような声。

 十八歳の聖が零先輩の方へ走り出す。

 白いワンピースが風に揺られてひらひらとなびく。

「聖!」

 零先輩も十八歳の聖に駆け寄る。


 二人は強く抱き締めあう。

 それは五百年振りの抱擁。


 その間も俺は聖の腕からp‐typeの種子を吸い出し続ける。けれど、全然吸い出せない。

 しかし、十八歳の聖が木から出てきたのと同時に聖が苦しむのを止めた。

 更にそこら中に居るp‐typeがバタバタと倒れていく。

「これは……?」

 事態が上手く飲み込めないが、好転したと受け取って良いだろう。

「響……」

 苦しむのを止めた聖が薄っすらと目を開けて俺の首に腕を回してぎゅっと抱きつく。

 

「あったかい」


 俺も強く抱き締める。


「うわぁっ!」

 その時、零先輩の叫び声が辺りに響き渡る。

「零先輩!」

 聖を起こし二人で零先輩たちの方へ駆け寄る。


 すると、十八歳の聖と触れている部分から、零先輩の身体が溶けている光景が目に飛び込む。

「どうなっているんだ?」

 目を凝らしてみると、十八歳の聖と触れている部分から小さな木の芽が出てきたかと思うと、すぐさま枯れていく。それが繰り返されて零先輩の身体から養分が吸い尽くされて、まるで体が溶けているように見えたのだ。

 そして、十八歳の聖も足元から身体が崩れてきている。

 砂のようにサラサラと身体が壊れていく。

 無理もない。

 あの聖は五百十八歳なのだ。

 もう身体の組織を保つ事すら出来ないのだろう。


「零先輩! これ以上そこに居たら死んじまう!」

 俺が叫ぶと、零先輩がゆっくりとこっちを振り向く。

 その表情は落ち着いている。


 ああ、この人は全てを理解した上で受け入れるんだ。


 目を見ただけで伝わってくる。

「お前らは間違うなよ」

 零先輩はそう言うと、身体が崩壊しかけている十八歳の聖を更に強く抱き締める。

「時空移動課特務部隊現場の目視可能」

「既に戦闘は終了。繰り返す既に戦闘は終了している」

 遠くの方からJIPANG応援部隊の声が聞こえる。

「聖……」

「零……ごめんなさい。私達の赤ちゃん……」

「三人で幸せに暮らそう。天国で。……いや、俺たちのした事を考えると天国行きは難しいかな?」

「地獄になっても変わらないわ。もう放さないでね」

「ああ」


 6 side 出雲響


 零先輩と十八歳の聖が居た場所には何も残っていない。

 聖は俺の腕を掴んで泣きじゃくっている。そっと聖の髪を撫でる。

 やっと気持ちが繋がった。何の後ろめたさも無く、聖をこの手で抱き締める事が出来る。愛しい。気持ちを制御できない。そっと聖の頬に手を添える。聖がオレの掌についたかすり傷を優しく舐める。

「!」

 理性が吹き飛びそうになる。

 聖の顔に自分の顔を近づける。

 そっと頬に口付けをする。

 聖の頬が赤くなる。

 きっと俺の頬も赤くなってると思う。

 それから耳に口付けをして……

「…………」

「…………」

 目が合う。

 逸らせない大きな瞳。

 顔と顔が近付きその距離が限りなくゼロに近付いたその時……


「響君!」

 不躾にも『科学部時空移動課』が怒涛の如く到着する。

「聖さん、早くこっちへ。」

 特務部隊だけではなく、研究チームも付いてきている。研究者たちが手際よく簡易時空移動装置を用意し、俺の腕から無理矢理引き離した聖を連れて行こうとする。

「えっ? 響は?」

 俺の腕から引き剥がされた聖が、不安そうにこちらを見つめる。すると女性研究員が端的に説明する。

「これは簡易タイプなので一人しか送ることが出来ません。とにかく、貴女は時間が再々構築される前に元の時代に帰らないといけない。下手すると、時空移動装置の存在しない未来になって帰られなくなる可能性もあるのです」

「え? そしたら響とは……?」

「ちょっと、聖さん!」

 聖は研究員の手を振り解いて俺へ駆け寄る。

 素早く首に腕を回すと勢いよく背伸びをして……


 キスされた。


「…………」

 言葉が出ない。本当に読んで字の如く奪われたって感じだ。唇を離すと聖は真っ直ぐ俺の方を向いて微笑む。

「一度起きてる時にキスしたかったの」

「――――!」

 バレていたのか!

 悪戯っぽく笑う聖。

 その小さな身体を抱き締めようとしたのに再び引き剥がされてしまう。

「聖!」

「響ー! 嫌! 離れたくない!」

 聖の方へ走り出すが、数人の男性研究員に身体を押さえつけられて身動きが取れなくなる。

「クソッ! 放せ! 聖―!」

 声を張り上げるが、科学部長が陣頭指揮を執り、タイムトラベルの準備が着々と進む。

「座標測定開始」

「時空の乱れが大き過ぎます!」

「修正値で何とかしろ! 変数タイプαからγに修正」

「誤差〇.〇九時空ミリメートル」

「誤差許容範囲より〇.〇四時空ミリメートルオーバーしています」

「ならばγにαをクロスさせろ」

「誤差〇.〇五時空ミリメートル」

「限界許容値内だ。このまま続けろ!」

「座標測定終了。座標地点C」

「時空移動者搭乗許可」

「カウントダウン開始」

 聖が時空装置に乗せられ、オペレーターの声が響く。

「一〇……九……八……」

「嫌! 一人にしないで!」

 悲痛な叫び声

「七……六……五……」

「大丈夫。時空移動装置の無い未来になっても俺が作るから!」

「四……三……」

「響……」

「二……一……」

「聖。もうお前は一人じゃない!」

「ゼロ!」


――バリバリッ


 時空移動時特有の空気を切り裂くような音が響き、聖は西暦二五一〇年から居なくなった。


「聖……」


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